専門委員会成果物

他の実施形態の明示的開示により,特許クレームは明細書で焦点が当てられた特定の実施形態に限定されないと判断された事例

CAFC判決 2016年8月15日
ScriptPro, LLC, et al. v. Innovation Associates Inc.

[経緯]

 ScriptPro, LLC(S社)は,処方薬を入れるコンテナを自動的に保管するための照合ユニットに関する米国特許6,910,601号(’601特許)を,Innovation Associates, Inc.(Ⅰ社)が侵害しているとして,地裁に訴えを起こした。
 これに対して,Ⅰ社は,’601特許は米国特許法112条第1段落の記載要件に基づき無効であるとして,抗弁した。地裁は略式判決によって,’601特許は記載要件を満たしていないと判断した。
 S社はこれを不服としてCAFCに控訴し,CAFCは地裁の判断を棄却した(“ScriptPro Ⅰ”)。
 差し戻し審理において,Ⅰ社は,「照合ユニット」は患者の氏名等の識別情報を用いる特定の照合ユニットであると明細書で明らかに限定されているにも関わらず,問題となった特許 クレームには上記限定がないことを主張し,’601特許は米国特許法112条第1段落の記載要件に基づき無効であるとする略式判決を申し立て,地裁はⅠ社の申立を認めた。
 地裁は再び略式判決によって,問題となった特許クレームは上記限定がなく明細書の記載よりも広いため,’601特許は記載要件を満たしていないと判断した(“ScriptPro Ⅱ”)。
 S社はこれを不服としてCAFCに再び控訴した。

[CAFCの判断]

 CAFCは,患者の識別番号を用いる特定の実施形態以外の実施形態が明細書で明示的に開示されていること,及び,明細書の開示に整合して出願当初のクレームが特定の実施形態に限定されていなかったことから,’601特許は記載要件を満たすと判断した。
 さらに,CAFCは,明細書において特定の実施形態に焦点が当てられていたとしても,明細書において他の実施形態が明示的に開示されている場合には,発明が限定されることはないとし,Gentry Gallery判決(Gentry Gallery, Inc. v. Berkline Corp., 134 F.3d 1473)等を引用した地裁の判断は誤りであると判示した。
 以上より,CAFCは,’601特許は米国特許法112条第1段落の記載要件に基づき無効とした地裁の略式判決を棄却,差し戻した。

(平林 正史)

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