専門委員会成果物
自明性判断における常識（common senseの適用に関する事例
CAFC判決 2016年８月10日Arendi S.A.R.L. v. Apple Inc., et al.
［経緯］
2013年12月２日，Apple Inc.（Ap社）は，Arendi S.A.R.L.（Ar社）の特許7,917,843（’843特許）につき，当事者系レビューを申請した（IPR2014-00208）。そして，2015年６月９日，PTABは’843特許のクレーム１他は，Pandit（特許5,859,636）により自明であると判断した。
Ar社は，この判断を不服として，CAFCに控訴した。
［CAFCの判断］
CAFCは，自明性判断で常識を適用する際の以下の３つの原則を示した。�‐鐚韻賄儀薪�には，先行技術文献の組合せの動機付けを与えるために使用されるものであり，先行技術文献に不足しているクレーム限定事項を補充するものではない。��不足しているクレーム限定事項の補充に常識が使用され得るのは，その限定事項が著しく単純で，かつその技術が極めて容易で ある場合のみである。��常識の使用は，不足しているクレーム限定事項の補充に使用される場合は特に，合理的な分析や証拠に基づくサポートをまるごと代用するような使用であってはならない。 すなわち，常識の使用は，特定の文献での所定の示唆・言及は必要としないが，根拠不十分な一般化を回避する合理的な説明は必要とする。上記の原則に基づき，CAFCは’843特許について検討した。具体的には，’843特許は，文書の表示と，外部の情報源の検索との協調動作に関する。
’843特許によれば，文書を表示している間に，第一の情報の存在を特定するために文書を分析し，少なくとも第一の情報の一部を検索語として，情報源において検索語と関連する第二の情報の検索を実行し，第二の情報を特定すると，第二の情報を用いた動作を行う。
一方，Panditは，文書中の異なる種類のテキストを認識し，その種類に基づく提案をする技術を教示する。
Panditの一実施例では，テキストの種類として電話番号を認識し，その種類に基づく提案として「アドレス帳への追加」等の実行可能操作が強調表示されることを開示する。
PTABは，Panditには’834特許の検索を実行する動作に相当する開示はないが，Panditが開示する「アドレス帳への追加」操作が選択されたときに，文書中で特定された電話番号と重複する電話番号をアドレス帳において検索することは当業者の常識であると合理的に推定できると判断した。
一方，CAFCでは，上記推定は，Panditに不足している’843特許のクレーム限定事項の補充に，常識を使用している場合に当たり，PTABの上記推定につき，実質的な証拠に基づくサポートがなく根拠不十分で，不足しているクレーム限定事項は些末な事項でなく，さらにPTABの判断をサポートするAp社の合理的な説明が不十分であるため，PTABの自明性判断において常識の誤用があると結論づけ，PTABに差し戻した。
（和泉 恭子）
