専門委員会成果物

特許の一クレーム又はその一側面にのみ貢献した者が共同発明者として特許に記載されるかが争われた事案

CAFC判決 2016年8月10日
Vapor Point L.L.C., Nathan, Matheson v. Moorhead, NanoVapor Fuels Group, Inc., et al.

[経緯]

 NanoVapor Fuels Group, Inc.(N社)は,揮発性燃料蒸気を格納タンクから除去するためのVOC(volatile organic compounds)抑制技術に関する特許7,727,310(’310特許)及び 特許8,500,862(’862特許)の特許権者である。
 当初,N社の開発者Moorhead(Mo氏)単独ではVOC抑制技術を実用化できていなかったが,2006年の夏にVOC除去技術の分野で知られていたNathan(N氏)に会い,同氏の協力を得て この技術を完成させて実用化した。
 その後,2007年にN氏はN社に加わり,同社のCOOとなった。N氏がN社に加わる直前の2006年12月22日,Mo氏はN氏に断りなく自身を発明者として’310特許の基礎となる仮出願を行った。
 N社は,その後さらに同分野での技術バックグラウンドを持つMatheson(Ma氏)を2007年6月に雇用し,開発中のVOC抑制技術の商業化を行った。
 N氏とMa氏は,N社のVOC抑制技術に関するシステムの確立及び商業化に貢献したものの,報酬面での折り合いがつかず,共にN社を去って,Vapor Point L.L.C.(V社)の従業員となった。
 N氏とMa氏がN社を去った後,Mo氏はN氏及びMa氏に無断で,仮出願に基づく’310特許の出願と,’862特許の出願を行った。
 ’310特許と’862特許の存在を知ったV社,N氏,及びMa氏は,Mo氏及びN社に対して,’310特許と’862特許の発明者にN氏とMa氏を共同発明者として加えることを求める訴えを提起した。
 N社はこの訴えに対する抗弁として,N社の元従業員であったN氏とMa氏は彼らの発明に関する権利をN社に譲渡する義務があると主張した。
 さらに,N社はV社に対して反訴を行い,V社がN社の’310特許と’862特許の特許権侵害をしていること等に関する訴えを提起した。
 証拠調べの後,地裁はN社の主張及び訴えを退け,N社の特許にN氏とMa氏を共同発明者として加える旨のV社の請求を認容した。
 地裁はまた,N氏とMa氏を共同発明者として加えることに伴ってN社が特許権侵害訴訟の原告適格性を失ったことを理由に,N社からの特許権侵害に関する請求を棄却した。  

[CAFCの判断]

 CAFCは,たとえ特許の1つのクレームのみ,あるいは1つのクレームの1つの側面にのみ貢献した者がいたとしても,その者を含む全ての発明者が特許に発明者として記載されるべきとした判決(Ethicon, Inc. v. U.S. Surgical Corp., Fed. Cir. 1998)を引用し,地裁判決を支持した。
 CAFCは,N社の’310特許と’862特許の4つのキー・コンセプトのうちの3つにN氏が貢献し,これら2つの特許の2つのクレームの一側面にMa氏が貢献したと結論付け,その証拠は 地裁判決を裏付けるものであったと結論付けた。
 また,O’Malley判事の同意オピニオンにおいて,N社の従業員であったN氏とMa氏の発明に関する権利の譲渡に関する主張について,権利の譲渡が米国特許法261条で要求されるように書面でなされていなかったことからN社の主張は認められるものではないとの見解が示された。

(四方 孝)

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