専門委員会成果物

Inter Partes Review(IPR)において,Patent Trial and Appeal Board(PTAB)が審査の途中でクレームに含まれる用語の解釈を変更する場合には, 当事者に意見提出の機会を与えなければならないとした事例

CAFC判決 2016年6月10日
SAS Institute, Inc. v. ComplementSoft, LLC

[経緯]

 ComplementSoft, LLC(C社)は,グラフィカルユーザーインターフェース統合開発環境に関する特許7,110,936(’936特許)の特許権者である。SAS Institute, Inc.(S社)は,C社の’936特許のクレーム1−16に対してIPRを請求した(IPR2013-00226)。
 PTABは’936特許の一部のクレーム(クレーム1,3−10)について審理開始を決定し,最終決定においてクレーム1,3,5−10については自明であり無効理由があると判断した。一方で,クレーム4についてはクレームに含まれる用語の意味を審理開始決定時の解釈に比べて限定的に解釈した上で特許性を認めた。
 S社は,PTABのクレーム4に含まれる用語を過度に限定的に解釈していること,および当事者に意見を提出する機会がないままPTABがクレームに含まれる用語の解釈を審理中に変更するのは不適当であるとしてPTABに対して再審理を申立てたが認められなかったため,CAFCに控訴した。   

[CAFCの判断]

 CAFCは,PTABの最終決定におけるクレーム4に含まれる用語解釈が’936の明細書およびクレーム構成に基づいており,過度に限定的な解釈ではないと判示した。また,PTABが審理開始決定時と最終決定時とでクレームに含まれる用語の解釈を変更すること自体には問題はないと判示した。
 一方で,CAFCは,IPR手続において行政手続法(Administrative Procedure Act)554条(b)(3)による保護が特許権者だけでなく請求人にも及ぶと判示した上で,PTABがS社に対して,審理開始時と審理終結時とでクレームに含まれる用語の解釈を変更することについて合理的な通知を行わず,かつS社に対して新たな解釈に対する意見提出の機会を与えていない本件審決は不当であると判示した。
 その上で,クレーム4の特許性を認める決定を無効とし,PTABによるクレーム4の解釈に対する意見提出機会を当事者に与えるためPTABに審理を差し戻した。

(斉藤 靖典)

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