専門委員会成果物

特許譲渡契約における譲受人の行使権限を制限する条項により特許権のすべての実質的な権利を譲渡されたとは認められないと解釈した事例

CAFC判決 2016年5月17日
Diamond Coating Technologies, LLC v. Hyundai Motor America, et al.

[経緯]

 Diamond Coating Technologies, LLC(D社)はHyundai Motor America(H社)を含む複数の被告に対して,6,066,399特許および6,354,008特許(’399特許等)を侵害しているとして地裁に提訴した。地裁は,’399特許等は元の特許権者(“patentee” )であるSanyo Electric Co., Ltd.(S社)の参加なしに告訴することができないとして,D社の訴えを退けた。D社はこれを 不服として,控訴した。

[CAFCの判断]

 D社とS社は’399特許等の譲渡移転契約とそれに付随する契約(PATA等)を締結しており,これによりD社は法的権利を与えられ,“patentee”の地位を取得していると主張した。 しかしCAFCはPATA等の以下四点を問題とし,D社はS社から実質的な権利のすべてを譲渡されていたものではないと解釈した。
 S社はD社が権利行使する決定をコントロールできる権利を有している。
 D社はS社の同意なく第三者に’399特許等をライセンスできない。
 D社が’399特許等を侵害したと主張しない第三者のリストがPATA等に含まれ,D社の権利行使を行う裁量を制限している。
 S社がライセンス先として合理的と考える第三者のリストがPATA等に含まれる。
 このようなPATA等の内容から’399特許等はS社からD社へ権利のすべてを譲渡されたとは認められず,D社は“patentee”とは認められないと判決した。
 また,D社とS社は地裁の判決後,“patentee”を明確とする遡及的な契約を締結したが,CAFCは判例に基づき遡及的な契約は“patentee”の地位を遡及しないと判決した。
 以上から,D社はS社とのPATA等により’399特許等による侵害訴訟を提起することができるすべての実質的な権利が譲渡されたわけではなく,S社の参加なしに損害訴訟を提起することは できないとして控訴を却下した。

(藤村 眞理子)

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