専門委員会成果物

特許権者が送付したFAXを先行販売行為として特許無効と判断した事例

CAFC判決 2016年5月13日
Merck & Cie, Bayer Pharma AG, Bayer Healthcare Pharmaceuticals Inc. v. Watson Laboratories, Inc.

[経緯]

 Merck & Cie(M社)は,テトラヒドロ葉酸カルシウム塩(MTHF)を権利範囲とする米国特許6,441,168号(’168特許)を所有しており,2013年にWatson Laboratories, Inc.(Wa社)を 特許権侵害で訴えたところ,Wa社は,on sale barを含む複数の理由により,’168特許は無効と主張していた事件である。
 事業背景としては,M社は1997年から,Weider Nutrition International, Inc.(We社)と戦略的パートナーシップの探索を始めていた。また,M社は,We社とのやりとりの中で,1998年9月9日,We社に対して,販売の申出と考えられるかが争点となるFAXを送付していた。
 地裁では,当該FAXには,製品の安全性及びその責任の記載がないので,販売の申出にはあたらないとして,’168特許は有効と判断した。
 Wa社はon sale barに争点を絞って特許権の有効性を争い控訴した。

[CAFCの判断]

 第1に,CAFCは,下記のM社とWe社のやり取りの詳細を検討し,当該FAXは販売の申出にあたり,’168特許は無効と判断した。
(1)当該FAXは,潜在顧客に対する一般的な価格提示ではなく,We社からの2kgのMTHF購入要求に対する直接的な回答であった。
(2)当該FAXには,価格,配送,支払い条件が記載されていた。
(3)当該FAXでは,M社は購入の注文を担当者に送付するようにWe社に指示等していた。
(4)当該FAXの1週間後,We社はM社に2kgのMTHFをユタ州の施設に対して注文するであろうことを伝えていた。
(5)We社は,正式な注文には,安全データシート等が必要になることをM社に伝えていた。

 第2に,CAFCは,地裁における,当該FAXには重要な安全性及び責任の記載がないので,販売の申出には当たらない,との判断に対して,下記の3点の分析を示し,否定した。
(1)MTHFが危険な新薬であることを示す信頼できる証拠がなかった。
(2)業界慣行上,販売の申出には,安全性及び責任の記載があるものであるという十分な証拠がなかった。
(3)最も重大なことに,当該FAXと後の証言に矛盾が存在していた。

 第3に,M社は正式契約には両者の署名が必要と規定している秘密保持契約をもとに当該FAXが販売の申出ではないことを主張した。しかし,CAFCは,秘密保持契約は,締結当時, M社とWe社は広範囲なジョイントベンチャー関係に入ることを模索中であり,単独の製品販売に適用することが意図されていたとはいえず,また,仮に単独の製品販売に適用できた としても,申出が両者の署名がある場合のみ有効とはされていないとして,これを否定した。

(淺井 法廣)

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