専門委員会成果物

最も広い合理的解釈(BRI)に基づくクレーム解釈が明細書の記載に対して合理的である必要性を改めて示した事例

CAFC判決 2016年4月19日
In re:Man Machine Interface Technologies LLC

[経緯]

 Man Machine Interface Technologies LLC(M社)は,テレビやコンピュータの画面上で選択を行うための遠隔制御装置に係る特許6,069,614(’614特許)の特許権者で ある。第三者が,’614特許の査定系再審査をUSPTOに請求した。
 USPTOは再審査請求を認め,再審査を開始した。審査官は,BRIの原則に基づいてクレームの“adapted to be held by the human hand”,及び,“thumb switch”の語句を解釈した。 そして,“adapted to be held by the human hand”は,ユーザーの手によってつかまれる様々な形態を含んでいると解釈し,“thumb switch”は,スイッチが親指で使用作動可能であることを要件としているにすぎず,他の指によって作動されるスイッチを除外していないと解釈した。審査官は,前記の解釈に基づき,机上で使用される一般的なマウスを開示している引例等により,いずれのクレームも自明であると判断し拒絶した。また,審判部も審査官のクレーム解釈を維持し,拒絶判断を支持する審決を下した。
 M社は,広すぎるクレーム解釈に基づく拒絶であると主張し,CAFCに控訴した。

[CAFCの判断]

 CAFCは,BRIの原則に基づく適切なクレーム解釈は,単に最も広い解釈ではなく,明細書に照らし合わせて最も広い合理的な解釈でなければならないことを改めて判示した。そして,“adapted to be held by the human hand”については,明細書では引例で開示されているような机上で使用される遠隔制御装置とは明示的に区別されており, BRIによるクレーム解釈は,明細書で明示的に放棄された構成を含むほど広くなり得ず,審判部のクレーム解釈は不当に広く明細書の記載に対して合理的ではないとした。また,“thumb switch”についても,明細書の記載から他の指によるスイッチの作動は意図されておらず,特許権者がより狭い意味を意図していることが明細書に明確に示唆されていること から,審判部の広いクレーム解釈は不合理であるとした。
 以上より,CAFCは一部のクレームについて自明性で拒絶した審決を破棄し,正しいクレーム文言解釈に基づく審理を行うために特許庁に差し戻した。

(辻内 幹夫)

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