専門委員会成果物

コンピュータ機能の向上に係るソフトウェア関連発明は抽象的アイデアに該当せず,特許適格性があると判断された事例

CAFC判決 2016年5月12日
Enfish, LLC v. Microsoft Corporation, et al.

[経緯]

 Enfish, LLC(E社)は,自社の保有するコンピュータデータベースの論理モデルに関する特許(6,151,604及び6,163,775)をMicrosoft Corporation(M社)が侵害しているとして地裁に訴えを起こした。これに対して,M社は,上記特許は米国特許法101条に基づき無効であるとして,抗弁した。
 地裁は略式判決によって,問題となった特許クレームは全て特許保護不適格な抽象的アイデアを規定しているとし,米国特許法101条の特許適格性を満たさないと判断した。
 これを不服として,E社はCAFCに控訴した。

[CAFCの判断]

 Mayo/Alice最高裁判決に従い,米国特許法101条の特許保護適格性に対する判断は,第1にクレームが抽象的アイデアに対するものであるかが判断される(ステップ2A)。第2に,抽象的アイデアと判断された場合,当該抽象的アイデアを顕著に超えた意味のある限定がなされているかが判断される(ステップ2B)。
 CAFCは,問題となった特許クレームはMayo/Alice判決のステップ2Aを満たさない,すなわち,クレームは抽象的アイデアに対するものではないとして,当該特許は米国特許法101条に基づく無効理由を含まないと判示した。
 上記判断において,CAFCは,Mayo/Alice判決のステップ2Aの判断は,クレームが単に特許保護不適格な概念を含むかどうかのみで判断してはならない,なぜなら,特許適格性のある特許クレームの殆ど全ては,自然法則及び/又は自然現象に関する物や行為を含むからであると述べ,ステップ2Aの判断は,明細書を参酌し,クレームのその特性全体として特許保護不適格な主題に対するものであるか否かを判断するべきであるとした。
 さらに,CAFCは,クレームがソフトウェア関連であるからといって全てのソフトウェアが本質的に抽象的アイデアなのではないと述べ,コンピュータの機能の具体的な向上にクレームの焦点が当てられているのか,あるいは,コンピュータは単なるツールにすぎず,抽象的アイデアに相当するプロセスに焦点が当てられているのかを,Mayo/Alice判決の ステップ2Aで判断すべきであると判示した。
 本事案のクレームは,コンピュータ機能を向上させることに焦点が当てられており,コンピュータの汎用機能のみが利用された経済活動あるいは他の活動に焦点があるのではないので,Alice判決に鑑みてクレームは抽象的アイデアに対するものではないとした。

(大脇 知徳)

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