専門委員会成果物
カナダ産業省競争局による知財権行使ガイドラインの紹介
カナダの産業省競争局は，知的財産法と競争法に跨る諸問題について適切に対処するためのガイドラインを発行し，毎年改定を行っている。今年の最新版では， 昨年関係者団体と意見交換した内容に基づき，知財に関する競争阻害の分析について当局の指針が示された。また，製薬業界における特許和解とプロダクトスイッチングについても述べられている。以下，目次に沿って概要を紹介する。［概要］
�� イントロダクション２つの相補的な経済政策である知財法と競争法の境界における，当局の法適用アプローチについて，各章のサマリーが述べられている。
�� 知財権と競争法の概要
知財権とは，独占排他権によるインセンティブを通じてイノベーションを促すことが主要な目的である一方，競争法では公共の利益は競争市場において最も守られるという原理に
基づき，不適切な競争制限の禁止を目的としていることに触れている。
�� 知財と競争法の境界
競合間における陰謀的取り決めにより意図的に反競争的な市場パワーが形成された場合は競争法が適用される。競争法の適用を通じて，商品や技術の効率的拡散と新製品の創出を
妨げる反競争的行為を防止し，競争的市場形成を促すことは，所有権付与による投資へのインセンティブを介して，市場での知的資産の効率的な普及を促すという，知財法の根底に
流れる本来の目的にも適うものである，としている。
�� 知財権を伴う事業活動に対する競争法の適用
当局による競争阻害の分析について５つのステップが明記された。また，会社の合併や権利移転等，単なるの知財権行使以上のものを伴う場合に適用される競争法の一般規則と，
単なる知財権行使であっても反競争的となる場合に適用されるセクション32の規定について，それらの適用原則を述べている。
�� 知財特有の分析フレームワーク
知財特有の問題を取り扱う場合における当局の分析フレームワークについて，対象市場，市場力，反競争的効果，効率の考慮，ビジネス上の正当性，の各ステップ毎に述べている。
�� 競争法のポリシーの擁護
知財権が不適切に強められたり拡張されたりしている場合における当局の介入ポリシーについて述べられている。
�� 知財に対する競争法の適用
知財権を伴う様々な事業活動に対する競争法の適用について，価格固定，専用実施権の設定，契約の締結，パテントプール等，複数の仮説シナリオを提示している。特に，
製薬業界における特許訴訟の和解とプロダクトスイッチングについても例示されている。
（隈原 英子）
