専門委員会成果物

明細書・審査履歴の中でのクレーム文言の定義,または,特定の特徴についての放棄がない限り,クレームの文言は通常の意味で解釈すべきであると判断した事例

CAFC判決 2016年2月29日
Luminara Worldwide, LLC. v. Liown Electronics Co. Ltd., et al.

[経緯]

 Luminara Worldwide, LLC.(LW社)は,Disney Enterprise, Inc.(D社)から再実施権(サブライセンス)付きの実施権を取得した後,Liown Electronics Co. Ltd.(L社)が D社保有の特許8,696,166(’166特許)を侵害したとして訴えた。
 ’166特許は,本物のろうそくの炎のように明滅する人工火炎を作る技術に関する特許であり,LW社は関連技術を利用するキャンドルを委託生産させる目的でL社と交渉していた。 L社はLW社との交渉で取得した情報を用い,自ら類似技術に関する特許を取得し,LW社の独占的なクライアントに自社の人工火炎キャンドルを販売し始めた。
 LW社は,’166特許のクレーム1項の侵害と,不法な妨害に基づいて予備的差止命令を求める申立(motion)をした。それに対し,L社は’166特許のクレーム1項が,D社の 先行特許である特許7,261,455(’455特許)から予期されるため,有効性に関する実質的な疑問(substantial question of validity)が存在すると主張した。
 有効性に関しては,クレーム文言の「the body is free to pivot(ボディーが自由に回転する)」の解釈が争点となった。先行技術の’455特許ではボディーが2軸を中心に回転する こと,即ち,炎を動かす振り子が異なる2方向で動くことが開示されていた。地裁は,’166特許の“free to pivot”を,(振り子が)少なくとも異なる4方向で動けると解釈し, ’455特許と区別し,有効性に関する実質的な疑問はないと判断した。
 結論的に地裁は,不法な妨害に関しては判断せず,’166特許のクレーム1項の侵害を認めてL社に予備的差止命令を下した。L社はCAFCに控訴した。    

[CAFCの判断]

 CAFCは,明細書中にクレームの文言が定義されているか,または,審査履歴の中である特徴について放棄したという証拠がない限り,クレームの文言は通常の意味で 解釈すべきであるとの確立されている基準で,地裁のクレーム解釈を新たに(de novo)検討した。
 CAFCは,特許権者が辞書編集者(lexicographer)としてクレームの文言を定義するためには,明細書の中でその文言に関する明確な定義と,その文言を再定義する意図を明らかに表明することが必要であり,特定の特徴についての放棄も,明細書または審査履歴で明確で,間違いのないようにしなければならないと述べた上で,’166特許の明細書と審査履歴では,“free to pivot”という文言が異なる4方向への動きを意味する如何なる定義と放棄の証拠もないと判断した。
 結局,“free to pivot”の通常の意味に戻ると,1軸を中心に回ることも含むので,’455特許が’166特許のクレーム1項を予期するというL社の主張が有効性に関する実質的な 疑問を起こしたと判断した。そこで,地裁の予備的差止判決を破棄し,まだ判断されていなかった他のクレームに関する侵害判断や不法な妨害に関する審理のため,事件を差し戻した。

(崔基泰)

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