専門委員会成果物

外国における訴訟だけでは,米国での懈怠の推定は覆らないと判断した事例

CAFC判決 2016年2月16日
Hedwig Lismont v. Alexander Binzel Corporation, et al.

[経緯]

 Hedwig Lismont(H氏)は,Binzel-Germany(B社)らが保有するガス溶接用コンタクトチップの製造方法に関するドイツ特許(197 37 934)の発明者がH氏でないことを 不服として,発明者訂正を求める訴訟をドイツ地裁に提訴した。さらに,DE’934特許を優先権主張の基礎とする米国特許(6,429,406)の発行から10年以上経った後,同様に’406 特許の発明者訂正を求めて地裁に提訴した。
 地裁は,H氏の提訴は大幅に遅れており,懈怠の推定を覆すことができないとして訴えを退けた。  

[CAFCの判断]

 CAFCは,懈怠の抗弁は,(1)訴訟の提起が,不当な許し難い理由により遅れたこと,(2)その遅れによって,被告が重大な損害を被ること,の2点を要件とし,懈怠の推定は,特許を知った時,または知り得る状態に至った時から6年後に生じる旨判示した。
 H氏の提訴は,’604特許の発行から10年以上後,すなわち懈怠が働くとされる6年を超えている。一方,H氏は,
ドイツや欧州での一連の裁判(’604特許の発行後6年以内)において,米国を含む全世界を対象とする損害賠償を求めているため,懈怠の推定は生じないと主張した。
 CAFCは,外国で訴訟を起こしただけでは,米国で訴訟の意思を示したことにはならないとし,H氏の反論を認めなかった。
 またCAFCは,外国の訴訟は,米国における懈怠の推定を覆すのに役立つ場合があるとも判示した。重要なのは,被告が米国で訴えられるかもしれないと考える理由があることであり,具体的に米国での訴訟の意思を示す等の必要がある。
 以上より,本件における懈怠の推定,及び懈怠の推定を覆す反駁が無い旨の地裁の判断を支持し,また,地裁の裁量権の乱用も無いとした。

(清水 一朗)

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