専門委員会成果物
再審査における特許権者のPTOに対する情報隠蔽および虚偽陳述等を不衡平行為と認定した地裁判決を支持した事例
CAFC判決 2016年２月19日The Ohio Willow Wood Company v. Alps South, LLC
［経緯］
The Ohio Willow Wood Company（Ｏ社）は，切断肢の義肢装着部を覆う，内面にゲルが塗布されて外面にゲルが漏れない特徴有する，靴下型緩衝装具に関する特許（5,830,237）を 有していた。�� 2004年にＯ社はAlps South, LLC（Ａ社）を’237特許侵害で地裁に提訴した。Ａ社は’237特許を無効とすべく査定系再審査を2006年および2008年の２回請求し，再審査期間中５年間に渡り侵害訴訟は中断された。
�� ２回目の再審査で，審査官はＡ社が提出した先行技術（競合製品の宣伝）に明確な記載のない構成要件の存在を証言した専門家宣言書を参酌して，特許無効とした。しかし，審判では「該専門家は競合製品の発明者でロイヤリティーを受けている利害関係者であり，証拠として信憑性がない」とのＯ社主張が認められ，2011年に審判部は特許有効と審決した。
�� 再開された侵害訴訟で，宣言書に関するＯ社主張には情報隠蔽，誤情報の提供等の不衡平行為があったとＡ社は主張したが，地裁はＯ社に不衡平行為はなかったと認定した。
�� 控訴審で，Ｏ社にPTOを騙す意図があったか否かに関する事実関係に重要な争点があるとして，2013年にCAFCは地裁判決を破棄，差し戻した。
�� 差し戻し審理で，宣言書提出時に該専門家はロイヤリティーを受けていなかったこと，代理人の虚偽陳述を知りながらＯ社は訂正しなかったこと等から，2014年に地裁は 「重大性」および「意図」の要件を満たすとしてＯ社の不衡平行為を認定し，特許権利行使不可能であると判決した。
［CAFCの判断］
Ｏ社が２回目の再審査で行った不衡平行為の「重大性」およびUSPTOを騙す「意図」の要件に関する地裁判断に明確な誤りはなく，不衡平行為により’237特許は権利行使不可能であると判決した。重大性については，IDS未提出および専門家が利害関係者であるとの主張により審判部が審査官の拒絶決定を覆す可能性が高いことをＯ社代理人は周知していたこと，等から不正行為は「but-for material」（虚偽表示がなければ特許許可されなかった）にあたるとした。
意図については，代理人の虚偽陳述およびそれを正さなかったＯ社の行為，等からＯ社側に不正な意図があったことが唯一合理的な推論であるとした。
なお，訴訟費用については，各当事者は各自の費用を負担すべきとされた。
（兼広 秀生）
