専門委員会成果物

介在権に関するクレーム範囲を決定するにあたりPhillips事件の基準を適用しなければならないとした事例

CAFC判決 2016年2月10日
Convolve, Inc. v. Compaq Computer Corp., et al.

[経緯]

 Convolve, Inc.(A社)は,ハードディスクドライブに関する特許(6,314,473)を保有している。Seagate Technology, LLC.及びSeagate Technology, Inc.並びにCompaq Computer Corp.が ’473特許を侵害しているとの理由で,A社は2000年に訴訟を提起した(第1回訴訟)。第1回訴訟において地裁は’473特許の非侵害を認定したが,CAFCは地裁の判決に誤りがあるとして審理を差し戻した。 なお,第1回訴訟の間に’473特許に対する再審査が請求され,当該再審査においてA社は,クレーム10の“acoustic noise”という文言の前に“seek”という文言を追加している。差し戻し審において 地裁は,再審査の手続において実質的にクレーム範囲が変更された結果介在権が生じており,特許は非侵害である旨を認定した。

[CAFCの判断]

 差し戻し審において地裁は,補正前の“acoustic noise”は“seek acoustic noise”に限定されないとの審査官の認定を採用し,“seek”という文言の追加によりクレーム範囲が実質的に 変更されているとした上で,介在権の発生を認容している。これに対してCAFCは,当該補正によりクレーム範囲が変更されているとの地裁の判断を否定した。具体的にCAFCは,Phillips事件において 示された,適切なクレーム解釈は「発明時点での当業者に対して用語が持つ意味」であるとの基準を適用し,明細書の記載等を参酌すればクレームは最初から“seek acoustic noise”を意味するものであり, “seek”という文言の追加はクレーム範囲を変更しないと判断した。またCAFCは,再審査において用いられた「最も広い合理的解釈(broadest reasonable interpretation)」基準と,Phillips事件の 基準との違いを説明することなく,審査官の認定を採用するという誤りを地裁が犯したと判示し,地裁の略式判決を覆した。

(仲井 智至)

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