専門委員会成果物

製法クレーム中の「収集容器」の「収集」を根拠に「収集容器」は容器内での材料の「蓄積」を伴うとした地裁の解釈をCAFCが支持した事例

CAFC判決 2016年1月29日
Akzo Nobel Coatings, Inc. v. Dow Chemical Company

[経緯]

  Akzo Nobel Coatings, Inc.(A社)は,重合体の水性分散物の製造方法に関する特許(6,767,956)を保有していた。A社は,Dow Chemical Company(D社)の製法が’956特許を侵害するとしてD社を提訴した。
 ’956特許の発明は,押出機の出口に,「加圧収集容器」を連結して,水性媒体が沸騰しないように押出機内を高い圧力に維持することにより,重合体の水性分散物を得るものである。
 D社の被疑侵害製法は,重合体の水性分散物を生じる押出機を用いており,分散物は,押出機を出る際,押出機の出口に位置するバルブを通った後,配管及び熱交換機を通過する。
 D社は,A社が,D社の被疑侵害製法において「加圧収集容器」を特定できていないとして,地裁に非侵害の略式判決を申立てた。
 地裁は,クレームの「加圧収集容器」の「収集(collection)」の語に適切な意味を与えることを考慮して,「加圧収集容器」は,材料(分散物)が一定速度で通過するものではなく,容器内での材料の「蓄積(accumulation)」を伴うものと解釈した。また,地裁は,D社の製法は,押出機の出口にバルブを使用し,分散物を連続的に通過させるものであって,分散物の「蓄積」を伴わないことから, D社の製法は’956特許の文言侵害および均等論による侵害のいずれにも該当しないと判断し,D社の非侵害の略式判決の申立てを許可した。

[CAFCの判断]

 CAFCは,クレームの「加圧収集容器」について,「収集」の語を根拠に,「加圧収集容器」は容器内での材料の「蓄積」を伴うものとした地裁のクレーム解釈に同意した。CAFCは,「収集」をA社が 提案する「受取(receive)」のように解すると,あらゆる加圧容器が「加圧収集容器」となり,クレームの「収集」の語が余分(superfluous)となるので,A社の解釈は不適切と指摘した。
 上述のクレーム解釈に基づく文言侵害について,CAFCは,A社は,D社の製法において押出機の下流の配管や熱交換機で分散物の「蓄積」が生じることを示しておらず,重要事実の真正な争点を提起していないとして,文言侵害に該当しないとの地裁の略式判決の許可を支持した。
 上述のクレーム解釈に基づく均等論による侵害について,CAFCは,A社は,D社の製法が,クレームの「加圧収集容器」と実質的に同一の方法で作動することを具体的に示しておらず,重要事実の真正な争点を提起していないとして,均等論による侵害に該当しないとの地裁の略式判決の許可を支持した。なお,CAFCは,クレームの製法では「加圧収集容器」における分散物の蓄積が,押出機内の背圧を 生じるので,A社は,D社の製法において,分散物が連続的に通過するバルブ,配管,熱交換器が,クレームの「加圧収集容器」と実質的に同一の方法で,押出機内の背圧を生じることを示すべきであったと指摘した。

(石田 克哉)

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