専門委員会成果物

審査経過による権利放棄を判断する基準は高いことを示した事例

CAFC判決 2016年1月29日
Avid Technology, Inc. v. Harmonic, Inc.

[経緯]

 Avid Technology, Inc.(A社)は,Harmonic, Inc.(H社)を相手取って,自社保有の2件の特許権(6,760,808及び7,487,309)を侵害しているとして訴訟を提起した。それに対し, H社は特許無効を主張した。特許はともに,大きなファイルを複数のセグメントに分割して格納するデータ記憶装置に関する技術である。
 地裁は,請求項の文言「独立した記憶装置」の権利解釈において,A社が審査経過で提出した書面の一節を根拠として,A社は権利の一部を放棄していると陪審に対して説示した。それに基づき, 陪審はH社の特許の無効請求を退け,非侵害と認定した。A社は地裁の権利解釈が誤っているとして異議申し立てをしたが却下されたため,CAFCに控訴した。

[CAFCの判断]

  CAFCは,地裁の権利解釈が審査経過等の内的証拠のみによるものであったため,de novo基準にて再度権利解釈し,審査経過で提出された書面の一節について,地裁は判断を誤ったと 結論づけた。地裁は一節の最初の箇所「特許のシステムは独立した記憶装置を使用することで,格納されたデータへのアクセスのために,中央制御装置がクライアントに使用されることを回避することが できる」から,中央制御装置が,クライアントのデータが格納されている記憶装置がどれであるかを,クライアントに伝えるシステムをA社は放棄したと判断した。しかし,CAFCはその次の箇所に記載 されている事項から,中央制御装置が使用されないのは,ある一定の条件を満たした場合のみだと読み取ることも可能であり,一節の内容は不明瞭であると判断した。そして,審査経過による権利放棄を 判断するためには,過去の判例は,判断の根拠となる審査中になされた否認の手続きや陳述はどちらも一義的に明確であることを要求していると指摘した。
 その結果,CAFCは,地裁の判決を棄却し,再度新たに審理するよう地裁に差し戻しを行った。

(山田 岳志)

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