専門委員会成果物
補償金請求権における“actual notice”の要件に関して，推定的に知っているだけでは不十分と示した事例
CAFC判決 2016年２月９日Rosebud LMS Inc. v. Adobe Systems Incorporated
［経緯］
Rosebud LMS Inc.（Ｒ社）は過去２回（2010年，2012年）に亘り２件の特許で特許権侵害訴訟をAdobe Systems Incorporated（Ａ社）に対して提起していた。2014年にＲ社はＡ社に対して３度目の訴訟を8,578,280特許（先の訴訟特許２件と継続出願関係）により提起した。本訴訟において，Ｒ社は通常の損害賠償請求に加え，補償金請求（特許公開公報が発行された後から特許成立までの間の侵害行為に対する請求）も主張した。Ａ社は被疑侵害品の製造／販売を’280特許成立前に中止していたため，補償金請求権の有無が争点となっていた。この補償金請求の要件として特許法154条（d） に“actual notice”（実際に知っていた）が規定されているが，地裁はこの要件を満たさない（Ａ社は公開された’280特許出願を「実際に知っていた」とは言えない）としてＲ社の主張を退けた。 Ｒ社は当該判断を不服としてCAFCへ控訴した。［CAFCの判断］
Ｒ社は，先にＡ社を２度提訴しており，その訴訟特許と継続出願関係にある’280特許出願をＡ社は知っていたはずと主張した。また，訴訟において訴訟特許のファミリー特許群を調査することは標準的な作業になっており，Ａ社が’280特許出願を知らないはずがないと主張した。これに対して，CAFCは�〃兮浬亟蟯愀犬砲△辰討盂篤探�でクレーム範囲は異なるため，継続関係にある一方の特許を 知っているからと言って，もう一方の特許も知っているとまでは言えない，�■措劼�Ｒ社の製品や特許活動をモニターしていたことを示す証拠はない，��先の訴訟ではクレーム解釈の段階まで進んで おらずＡ社側が訴訟特許のファミリー特許群を調査したとの合理的な推定はできない，との理由を挙げて地裁判断を支持した。なお，Ａ社は特許法154条（d）の要件に鑑みて，通知なしでは特許を知っていたというには十分ではない，つまり“actual notice” （実際に知っていた）の要件を満たすためには，通知が特許権者から直接届かなければならないと主張していたが，これに対して CAFCは，特許法287条（a）の特許表示規定を引用して，同じ“notice”でも立法時に明確に使い分けられている点を理由に，特許法154条（d）の“actual notice”は実際の通知までは必要ないと判示した。
（岸田 剛一）
