専門委員会成果物

公判時に用いられたクレーム解釈を,JMOL段階(評決がなされた後)において変更することは認められないことを再確認した事例

CAFC判決 2016年1月8日
Wi-LAN, Inc. v. Apple Inc.

[経緯]

 Wi-LAN, Inc.(W社)は,無線データ伝送技術(MC-DSSS)に関する特許(RE37,802)の特許権者である。W社は,’802特許のクレーム1,10をApple Inc.(A社)製品が侵害しているとして, テキサス州東部地裁に提訴した。
 陪審は,A社製品は非侵害であり,また,’802特許は無効であるとの評決を行ったが,これを不服としたW社は,侵害判断および特許有効性の評決についてJMOL(judgment as a matter of law)を申請。 地裁は,侵害についてはJMOLを棄却するも,特許有効性についてはJMOLを認め,特許有効であると判断した。
 そこでW社は,侵害についてのJMOL棄却についてCAFCに控訴した。一方,A社も特許有効性に関するJMOL認容を不服とし,CAFCに交差上訴した。

[CAFCの判断]

 侵害に関して,CAFCは,クレーム解釈においいては内的証拠を優先するという原則に基づくべきことを改めて示した。そのうえで,’802特許のクレーム1,10に記載された「the」「said」などの 定型詞,形容詞はその前に登場した構成を参照するものであることに鑑みると,上記各クレームの構成要素である「computing means」は,「modulated data symbols」を,始めに「randomize」した後に 「combine」するという手順を必須の機能とする,と解釈。また,’802特許には上記と逆の手順の実施例は開示されていないことも考慮すべきと述べた。そして,A社製品は上記手順を行っていないため, 陪審による評決は不当ではなく,特許侵害に関するJMOLを棄却した地裁判断は正しいものとして,W社の控訴を棄却した。
 一方,特許有効性に関しては,公判時のクレーム解釈を,JMOL段階(評決がなされた後)において裁判官が変更し,変更後のクレーム解釈に基づいて特許有効性を判断するのは許されないと判示。 そして,「complex multiplier」が各クレームの必須要素であるとして公判時のクレーム解釈を大きく変更した結果「complex multiplierを開示しない公知文献と比較した結果,’802特許は有効である」 とした地裁判断は誤りであるとして,A社の控訴を認容した。

(渡邉 淳)

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