専門委員会成果物

標準必須特許の合理的ロイヤルティに関する事例

CAFC判決 2015年12月3日
Commonwealth Scientific and Industrial Research Organisation v. CISCO Systems, Inc.

[経緯]

 Commonwealth Scientific and Industrial Research Organisation(CSIRO)は,CISCO Systems, Inc.(CISCO)が標準規格802.11a,802.11g,802.11n,及び802.11acに関する CSIROの標準必須特許(SEP)を侵害しているとしてCISCOを提訴した。地裁は,CISCOが当該特許の侵害又は有効性について争わないとする共同規定を承諾した。地裁は, CSIROは802.11aのみについてRAND宣言をしており,802.11aは侵害が主張されている製品のたった0.03%を占めるに過ぎないと述べた。そのため,地裁は,RAND宣言がなされた 特許の合理的ロイヤルティの算定の際に行われるGeorgia-Pacific factorsの調整は,本件において不要であると述べた。従って,地裁は,Georgia-Pacific factorsの調整をしない, 通常の合理的ロイヤルティの算定方法を適用し,その結果,$16,243,067を損害賠償額とする判決を下した。CISCOは,控訴した。

[CAFCの判断]

 CAFCは,地裁の判決を破棄し,差し戻した。CISCOは,当該特許が標準規格802.11に必須であるために当該特許の価値に上積みされた価値を地裁が考慮に入れなかったために, 地裁が,2014年のCAFC判決であるEricsson判決(Ericsson, Inc. v. D-Link Sys., Inc.)に基づいていないと主張した。CAFCは,CISCOの主張に同意した。CAFCは,Ericsson判決を 引用し,合理的ロイヤルティは特許された特徴の価値に基づいて算定されるべきであり,特許された技術が標準規格に採用されたことによって上積みされたいかなる価値にも 基づいてはならない,と述べた。CSIROは,Ericsson判決はRAND条件が課されたSEPのみに適用されるべきであると主張した。しかし,CAFCは,Ericsson判決は明確にRAND条件が 課された特許だけでなく,SEPについてもGeorgia-Pacific factorsの調整が適用されるべきであると判決している,と述べた。即ち,CAFCは,SEPに対する合理的ロイヤルティを 算定する際には,RAND宣言がなされたSEPに限らず,RAND宣言がなされなかったSEPも含めて,広くGeorgia-Pacific factorsの調整が適用されるべきであると述べた。CAFCは, 地裁判決の際には,Ericsson判決の意見の恩恵をまだ受けていなかったため,標準規格を考慮に入れないという過ちをなしたと述べ,地裁の損害賠償額の判決を破棄し,本CAFC判決の 意見に基づいた新たな合理的ロイヤルティ算定のために差し戻した。

(千田谷 直樹)

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