- トップ
- 協会活動
- 会務報告＆部会報告
- 2021年度業種別部会
- 関東化学第二・商社部会
会務報告&部会報告
関東化学第二・商社部会（第4回）
| 時 | 2022年2月1日（火）14:30〜17:00 |
|---|---|
| 所 | 日本知的財産協会 東京オフィス（WEB開催） |
| 人 | 今泉業種担当役員、生塩、堀口、土井各正幹事
佐藤、池田、佐野、藤原各副幹事 協 力 ： JIPA 赤井様 JIPAでの参加者 ： 今泉業種担当役員、生塩、堀口、土井各正幹事、藤原副幹事 |
Ⅰ．議 事
今泉業種担当役員による会務報告と、今期正幹事及び来期正副幹事による挨拶の後、株式会社ブリヂストン 知的財産部門 部門長 荒木充氏による講演を実施した。Ⅱ．講演会
| 演題 | ブリヂストンの知財マネジメント変革〜IPL可視化と知財ミックスによるDX事業価値創出〜 |
|---|---|
| 講師 | 株式会社ブリヂストン 知的財産部門 部門長 荒木 充 氏 |
講演概要
荒木部門長は、1988年ブリヂストン入社、その後20年以上に渡ってタイヤ設計開発に従事され、 この間に 北米/欧州/中国で計8年の海外駐在を経験されている。 以後、タイヤ材料設計部長、開発企画管理部長、品質保証本部長を歴任され、現職の知的財産部門長では、R&DとTQMの現場経験を土台として、ソリューション事業に貢献できる知財機能の変革に取り組まれており、独自IPランドスケープ手法の開発や事業貢献型ポートフォリオ設計コンセプトを用いた、日本発グローバルタイヤ企業に於ける知財戦略策定を統括されている。また、内閣府「知的財産・活用戦略の有効な開示及びガバナンスに関する検討会」の委員もお務めになられている。
１．ソリューション事業推進を軸にしたブリヂストンの知財戦略
- これまでのブリヂストンのビジネスは、あらゆるモビリティ・クルマを支えるタイヤの製造販売であった。しかし、ビッグ3（ミシュラン、ブリヂストン、グッドイヤー）のパイも年々小さくなっており、物売りだけでは厳しい状況である。今後もタイヤは重要なアイテムであるが、「Bridgestone T&DPaas」を掲げ、ブリヂストン独自のソリューションを提供し社会・顧客・パートナーとの価値の共創を目指している。
- モビリティ業界は100年に1度の変革期を迎え、これまでのモビリティの価値や事業構造が変化しようとしている。2035年には、新車の販売額は減少する一方で、シェアリングやコネクテッドなどの新しいモビリティ事業領域が大きく伸長すると想定される。タイヤ（モノ）を軸足としつつも、モノからコトへの拡大と、プラットフォームに繋がった事業にしないと生き残っていけない。
- （A）ブリヂストンの事業戦略の全ての土台は、やはりモノ（タイヤ・ゴム）を創って売ることであり、とても大事にしている。（A）の領域に於いて知財面でコアになっていることは、端的に言うと「タイヤがどのように路面に接地しているかを把握し、それをコントロールできる」ことである。巨大な鉱山用車両のタイヤなどはその一例であり、こうしたモノ自体での競争優位が全体のベースになっている。
- （B）タイヤを中心とした価値を創って売る事業（タイヤセントリックソリューション）であり、タイヤデータを収集し、それを読み解くにことによって価値に転換し、顧客に提供している。トラック、バス用タイヤのリトレッド（摩耗したゴムを貼り替えて再使用する）事業以外にも、タイヤに取り付けたセンサーから路面状態を判別したり、バスを乗降プラットフォームへ隙間なく停車させ、バリアフリー化を達成するなどが（B）領域事業に繋がる。
- （C）タイヤだけではなくモビリティの広い範囲で価値を創って売る事業（モビリティソリューション）であり、タイヤデータに加えモビリティデータも収集し、モビリティシステムへの新しい価値を提供する。例として、タイヤ摩耗予測技術を活用し、計画的にタイヤ交換を行うことで航空機整備作業を効率化する取り組みを日本航空株式会社様と進めていることが挙げられる。
- （B）（C）で大切なことはデータを読み解く力であり、そこから出てきた新しい価値を（A）にフィードバックし、（A）をさらに強くしていく、というスパイラルアップのビジネスモデルの構築に取り組んでいる。
２．経営戦略を支える知財マネジメント
- モノ造りで培ってきた知財の力が、ソリューション事業やDX活用の基盤となるという考えを持っている。（A）領域では、製品開発のR&Dプロセスに密着し、「現物現場」で知財を抽出・創出する理念を徹底させた。量産化設計でハードルを乗り越えたものや、最後の詰めの細かい部分は大事な知財であり、また市場要求レベルを考察することも大変重要な知財である。
- （B）領域では、知財のスコープが重要であり、「何をもって知財というか」というマインドセットが必要になる。ソリューション事業ではバリューチェーンが重要で、企画→開発→調達→製造→供給・販売→サービスという各バリューチェーンにはそれぞれエンジニアリングチェーンがぶら下がっており、全てにナレッジ・ノウハウがあるため、知財のスコープを広げなければならない。しかし、実際には、自分たちが気づいていないナレッジ・ノウハウがたくさんあるため、知財を可視化し、どこに知財があるのか、どのように繋げれば価値になるのか、というオペレーション力が必要となり、知財部門はそこで大きい役割を持つことができる。
- （C）領域でのコアは、ビッグデータを読み解き、正確な予測を導き出すアルゴリズムにある。ビジネスモデルを含む特許を出願済みであるが、特許に現れているのは氷山の一角であり、周辺には多数のナレッジ・ノウハウが存在し、データクレンジング、タイヤ入力への変換、アルゴリズムの本質部分、品質保証のノウハウなど、大部分は秘匿化している。
３．事業に寄り添いたいブリヂストンのIPL
- IPLは可視化できるだけでも意味があるが、その次の段階である「こんな価値を生み出せそう」というところに持っていきたいと考えた。知財は特許だけでなく、その周辺にあるナレッジ・ノウハウがものすごく大事であり、それらを組み合わせた「知財ミックス」を軸に分析考察を行わないと価値の話はできない。また、競合他社を見る「外向き」のIPLと自分たち自身を見つめる「内向き」IPLの両面からの視点が必要である。
- ブリヂストンの「知財ミックス」は、ナレッジ・ノウハウ・特許を取捨選択して組み合わせていく設計思想である。しかし、知財リソースをいくら持っていても、それが自社で使えるのか、活かせるのか、自社の強みやDNAと親和性があるのか、が分かっていなければ意味がない。知財部員にとって大切なことは、自社の強みやDNAをどれだけ分かっているかではないかと考える。
- 内向きIPLとは、自社の強みがどこにあるのかを特定するために、エンジニアリングチェーン内を丹念に見てお宝知財を特定したり、バリューチェーン全域の知財を戦略的に繋げたりし、それらを組み合わせていくことである。内向きIPLで自社の強みを分かったうえで、外向きIPLを行う。
- ブリヂストンでは知財ミックス設計をコアにしており、そのために内向きと外向きのIPLを組み合わせて使い、最終的には事業の提案に持っていきたいと考えている。
ここで、具体例として、MaaS（Mobility as a Service：自動車の台数は減少するが、モビリティ効率/利便性は向上するという考え方）でのIPL実践例を挙げて解説頂いた。（詳細は割愛）
- 失敗の教訓であるが、検索式を作る前にはやることがたくさんある。一般情報を洗いざらい調べて、対象とするテーマの本質は何かという仮説を立てておかないと、大事なキーワードや見る範囲を誤る可能性がある。仮説を立てることで、調べる範囲（どのようなプレイヤーが入るのか）がクリアになる。
- また、経営や事業部にわかってもらいやすい形を考えながら伝えることも大切になる。知財部門がいきなり経営と話をしようとしてもはじめのうちはなかなか聞いてもらえない。ブリヂストンでは、まず事業部と草の根的にコミュニケーションを深化させるうち、事業部経由で経営に届けることができるようになり、やがて経営とも直接コミュニケーションできるようになった。
４．IPランドスケープの実際例
- IPランドスケープの実際例として、「ミクロ・マクロ両面からの全体像把握」「情報の分析・考察例」についてご紹介いただいた。（詳細は割愛）
５．CGC改訂対応の捉え方、知財情報開示の考え方
- できる限りKPIのような定量値で示したいが、見せていない知財（ナレッジやノウハウ）に価値があり、それらの繋がりや、客観性、また知財から価値を生み出す仕組みや体質をよく勘案する必要がある。
- 内閣府「知財・無形資産の投資・活用戦略の開示及びガバナンスに関するガイドライン」はマニュアルやHow toではなく、実践に当たって基礎となる考え方を整理したものである。また、法定開示資料にはあまり細かいことは書けないため、色々な媒体を使って多角的に開示していかなければならない。
- 上記ガイドラインでは、特に以下の「企業における4つの原則」がポイントになる。
� 峅然雰萃衫蓮廖屮押璽爛船Д鵐検廚砲弔覆欧�
内向きIPLで自社の強みやDNAを知り、また顧客の現場を知り尽くすことによって課題を抽出し、価値を創出していくことに、知財部門は重要な役割を担う。�◆嵌駘僉廚任覆�「資産」の形成と捉える
いくらナレッジや知財を保有していても、それがどれだけ事業に貢献するのか、かなりの不確実性を伴う。知財無形資産の確実性をどれだけ高く上げて説明できるかが、知財部門のあらたなミッションとなる。ブリヂストンでは、知財ミックスの考え方で説明できないかと考えている。��「ロジック／ストーリー」として開示・発信
企業の価値創出プロセスの上流にあたる「組織能力」「開発・生産・販売・システム」は、環境要因のばらつきが少ない。この部分をきちんと説明できれば「ロジック／ストーリー」になる。ブリヂストンでは自社の強みと知財リソースを組み合わせた説明をしたいと考えている。�ち桓匆Ｃ播�体制整備と「ガバナンス構築」
日常的に経営や事業部と骨太な知財議論ができることが体質的に重要になってくる。 - 内閣府ガイドライン作成委員会に参加させていただき、以下のような気付きがあった。
✓下手な小細工をしても投資家には見透かされるため、骨太で直球の議論が要る。
✓投資であるため、実績自慢ではなく、将来への意思を示す必要がある。どのようなリスクやハードルがあり、どう乗り越えて未来の顧客へ価値を提供するのかを説明しなければならない。
✓一方で、日本の産業界はもっと評価されるべき成果・チカラがあり、企業はもっとアピールしてもよいのではないか。
６．質疑応答
- 知財部員のモチベーション向上、知財部員とのコミュニケーションや情報共有、IPL実践例にかかった時間や人数、IPLから提案に繋げるコツ、IPLにおいて統計的な解析と特許の読み込みのどちらに重点を置いているのか、について受講者より質問を頂戴し、荒木氏にご回答いただいた。
以上
関東化学第二・商社部会（第3回）
| 時 | 2021年11月11日（木）14:30〜17:00 |
|---|---|
| 所 | 日本知的財産協会 東京オフィス（WEB開催） |
| 人 | 今泉業種担当役員、生塩、堀口、土井各正幹事 佐藤、池田、佐野、藤原各副幹事 協 力 ： JIPA 赤井様 JIPAでの参加者 ： 今泉業種担当役員、生塩、堀口、土井各正幹事、池田副幹事 当日の参加者は、計99社169名（他部会からの参加4社4名を含む）であった。 |
Ⅰ．議 事
今泉業種担当役員による会務報告、弁護士 高橋雄一郎先生による講演を実施した。Ⅱ．講演会
| 演題 | 知財部門で発生する諸問題の現実的な対応方法 |
|---|---|
| 講師 | 高橋雄一郎法律事務所 弁護士 高橋雄一郎 氏 |
講演概要
高橋先生は、慶應義塾大学理工学部電気工学科をご卒業後、株式会社東芝の知的財産部に在籍されていたご経験をお持ちで、特許侵害訴訟・特許ライセンス交渉のみならず、特許出願や侵害調査などにも精通されている。今回は、先生の豊富なご経験に基づき、知財部門で発生する諸問題に対し、人員や支出できる金額にも制限がある中で、現実的な対応方法はどのあたりにあるのかについてご講演いただいた。１．パテントクリアランスは、正直、どこまでやるべきなのか
- 「コーポレートガバナンス」は経営者を対象にした言葉であるが、「コンプライアンス」は経営者のみならず従業員も含めて対象となる。「コンプライアンス」の基本的な考え方は法令順守であるが、近年は社会的要請への対応まで含まれ、特許権侵害をはじめとする知的財産権の侵害もコンプライアンス違反として捉えられる風潮にあり、世間では厳しすぎるくらいに運用されていると感じることもある。
- 取締役には内部統制システムを構築する義務があり、一般的には、内部統制システムの基本方針が定められ、その下部規定の一つとして知的財産規定が定められている場合がほとんどであり、その中に知財クリアランスに関する条項がほぼ100％入っている。経営判断の原則として、当該行為が経営上の専門的判断に委ねられた事項のものであって、その意思決定の過程および内容に著しい不合理がなければ、経営者を免責するという最高裁判例があり、専門家の鑑定書を取得することが必要になってきた。特許非侵害の鑑定書を取得することもこの一つである。
- 知財クリアランスは、自社のためのみならず、顧客に対する営業サービスの一環としての面も持つ。自社のためのクリアランスは、社内規定に従って実施し、そのタイミングは、製品設計時、デザインレビュー時、製品発売時と会社によって様々である。また、公開された特許を調査するのか、登録された特許を調査するのかという点でも、対応は会社によって異なる。公開特許の調査には、補正によりクレームが変わったり分割出願されるというリスクや、審査請求されなかったり拒絶査定により、調査自体が無駄になる可能性も孕んでいるが、顧客に対する営業サービスの一つとして、公開まで調査を行うという話はよく聞く。サプライヤーが供給する部品については、サプライヤー自身がクリアランスすることが原則とは思われるが、実際には、そのサプライヤーを信用できるかによる。信用できなければ、例え特許保証を要求していたとしても、自らクリアランスを行う以外にはない。
- 社内クリアランスの手順として、まず「今までと違うところは何か、新しい機能は何か」をピックアップし、範囲の特定を行う。検索後の粗ぶるいは、あまり検索式に頼らず、4, 500件くらいであればフロントページのみを見て判断することをお勧めする。外注の場合の費用イメージは、粗ぶるいで50件あたり10万円くらい、審査経緯検討で1件あたり10〜20万円くらい。社外弁護士に鑑定を依頼した場合は、非充足鑑定で1件あたり30万円程度、無効鑑定で40〜50万円程度であるが、いずれの場合も、社内にスキルのあるスタッフがいれば、社内で文書化してしまえばよい。
- ライセンスを受ける場合は、権利者が実施していないことを確認する。権利者が実施していれば、通常はライセンスしてくれない。また、打診は自社で行わず、弁護士などの第三者を通じて行うということも大切。権利者が実施していなければ、ライセンスよりも権利譲渡を打診した方がよい。また、特許回避の手段として、既存ライセンシーを経由して販売するという商流変更で対応できる場合もある。出す必要のない製品情報まで出してしまい（特に学会）、他社から侵害で訴えられることがないように情報を統制することも有効な対応策である。
- 非侵害鑑定書を取得しておく意味としては、社内検討では発見されなかった非充足理由の探索が挙げられ、社外で見方を変えて別の意見を与えてくれる可能性がある。一方、無効鑑定については、社内でスキルのあるスタッフの方が判断しやすい場合もあり、無効鑑定を取得する必要性は一段下がると思われる。
２．重要な取引先から厳しい特許保証を要求されたときの現実的な対応
- 特許保証の法的性質としては、交渉代行契約、条件付役務（技術サポート）提供契約、損害填補契約があり、債権者（買主）にも損害軽減義務がある。しかし、商取引は立場の強弱が露骨に現れ、対等な当事者間の交渉にはならず、契約締結に強い利益を有する者が譲歩するのが現実的といえる。
- 不当な特許保証条項の例としては、部品供給業者に完成品にかかる特許発明の保証をさせる場合が挙げられる。間接侵害を構成する場合も、特許保証料が製品価格に十分転嫁されていればよいが、通常は転嫁されていないために、不当だと感じることになる。また、予想外の使い方をされて、特許侵害を主張されるケースもあるようだ。さらに、どこまで補償するのかが契約書では明確ではなく、お客さんだからという理由で、検討してあげたり、損失の一部補填に応じたりしている場合もある。
- （いくつかの事例に基づき、特許保証についてご解説いただきましたが、詳細は割愛いたします。）
- 特許保証に関して、契約書の文言は曖昧であることが多く、現実的には交渉による解決が図られることが多く、特に立場や取引継続への利益が交渉に大きく影響する。
- （知財高裁における裁判例をご解説いただきましたが、詳細は割愛いたします。）
３．法外な不実施補償を求める大学とどう付き合えばよいか
- 知財管理67巻，5号（2017年），777頁に高橋先生ご執筆による「不実施補償」がありますので、そちらもご参照下さい。
- 現在の大学は、基礎研究費を含む運営費交付金は毎年1%ずつ削減され、大幅な教員削減も相俟って、特任教授や非常勤講師の形で産業界から受け入れて回しているのが実情である。教員1人あたりに支給される研究費は50万円程度しかなく、産業応用などすぐに成果が見込めそうなところに競争的資金が重点配分される。大学は研究費や特許出願等の経費も出せないことから、産学連携への期待がある。
- 不実施補償については、業界によって大学との付き合い方（力関係）も変わる点が難しいところともいえる。
- 不実施補償条項は2015年くらいに、標準的なものができあがった。
（不実施補償条項の例についてご解説いただきましたが、詳細は割愛いたします。） 企業が独占実施を選択した場合は、別途契約を締結する必要があり、独占実施料を支払わなければならない。大学は一時金＋ランニングロイヤルティを求めてくることが多い。 - 共有物分割請求というものがあり、共有者は裁判上の分割請求により、共有状態から脱することができる。特許でも同じことが可能で、大学がこれを行い、競売にかけた特許がパテントトロールのような競落人に落札された場合、企業に高額の実施料が請求されるリスクがある。
- 大学との共同研究をする企業へのアドバイスとしては、共同研究開始前に単独出願しておく、共同出願は避ける方が望ましい、可能であれば特許を受ける権利を大学から買い取って単独出願する、共有特許はできるだけ実施しない、自社が実施予定の構成は含まず他社が実施する構成を含むように権利化しておく、ことが挙げられる。また、企業側からすると、自社は不実施補償を支払っているが、世の中に侵害品が出回る状況は最悪であり、不実施補償を要求されるのであれば、大学の侵害排除義務を定める（侵害排除義務が果たされなければ不実施補償も支払わない）という交渉もあり得る。
４．発明者補償でトラブルにならないための事実上の策
- 職務発明訴訟は誰も幸せにしない訴訟類型といえる。発明者側は、そもそも期待値が高すぎる傾向にあり、貢献度についても、発明者側は100%と考えるが、使用者側95%、発明者5%という判例があったりする。長年勤めていた会社を訴えるということで人生をリセットしなければならず、また元同僚から自分を誹謗中傷するような陳述書が出てきたりするため、メンタルケアも必要になる。一方で、使用者側も、この特許には価値が無い、表彰を受けたことも間違いであったという自傷行為を行わねばならず、Win-Winの関係にはなり得ない。
- 職務発明訴訟のリスクを減らすためには、関連書籍などを参照し、そのガイドラインに沿って社内規定を変更していくことが必要である。最も理想的な補償方法は、出願時に払いきる（譲渡時一時金）方式であり、次いで、ライセンス料を取れれば支払う方式がある。発明者は自身の特許が実施されているかどうかはよく知っており、訴訟リスクを減らすためには、自社での実施に応じて支払う方式は避けた方がよい。使用者側にとっては、訴訟提起されること自体が大きな損失であり、それが分かっているからこそ、発明者側が強気に出てくる側面もあり、こういった事案が減らない一因であるとも考えられる。
- 職務発明訴訟が提起される可能性を低める運用としては、発明者表彰をしない、他社とのライセンス契約の事実・実績・金額は発明者らには開示しない、他社とのライセンス契約交渉に発明者らを関与させない、などが挙げられるが、いずれも後向きの運用となってしまう点はご理解いただきたい。
第三者が実施するような特許を取得することが重要であり、自社が実施する発明にはあまり価値がないことを認識すべきである。 - 発明のインセンティブついて考えてみると、譲渡補償金は、めんどうな提案書作成のインセンティブもしくは対価に近く、自社実施実績補償は、自社が実施する態様を補足するような中間処理をするインセンティブしかない。ライセンス補償では、他社が実施する態様を補足できるため、そのインセンティブは良いと思われる。これらの考え方については、皆様のご意見も伺いたいところである。
- 職務発明の相当の対価の所得分類は、出願補償金に関しては長期譲渡所得、登録補償金および実施補償金に関しては雑所得となる。和解金に関しては雑所得とされているが、過去に雑所得で申告し、その後更正請求を行い、長期譲渡所得に更正され1/2課税となった経験もある。
５．質疑応答
- 3名の受講者より質問を頂戴し、高橋先生にご回答いただいた。
以上
関東化学第二・商社部会（第2回）
| 時 | 2021年8月24日（火）14:30〜17:00 |
|---|---|
| 所 | 日本知的財産協会 東京オフィス（WEB開催） |
| 人 | 今泉業種担当役員、生塩、堀口、土井各正幹事 佐藤、池田、佐野、藤原各副幹事 協 力 ： JIPA 赤井様 JIPAでの参加者 ： 今泉業種担当役員、生塩、堀口、土井各正幹事 当日の参加者は、計55社91名（関東金属機械部会からの参加1社1名を含む）であった。 |
Ⅰ．議 事
今泉業種担当役員による会務報告、弁護士 道下理恵子先生による講演を実施した。Ⅱ．講演会
| 演題 | 中国の模倣品対策 |
|---|---|
| 講師 | Bird ＆ Bird法律事務所 パートナー弁護士 道下理恵子 氏 |
講演概要
道下先生は、多くの日本と欧米企業が直面する多種多様な中国知財・法務問題に精通されており、現在は北京を拠点にご活躍されている。中国における知財紛争案件の豊富なご経験から、中国の模倣品対策をテーマに、その現状や最近の事例、模倣品対策の留意点に至るまで実体験に基づいた具体的な取り組みについてご紹介いただいた。１．コロナ禍の中国模倣品の現状
- コロナ禍において、人の移動の制限などもあり、模倣品もリアルマーケットからECサイトへの動きが活発化しており、模倣品が多く取り扱われるECサイトもある。また、ソーシャルメディアを通じた販売や、ソーシャルメディアとECサイトを組み合わせたものなど、様々な手法で模倣品が販売されている。著名な経営者が模倣品を許容するような発言があるなど、中国では模倣品はなかなか無くならないと思われる。
- 従来は冒認出願により取得した商標権を売りつけていたが、近年は中国全土で侵害訴訟を起こし、高額な賠償金を得ようとする動きもみられる。また「無印良品」の商標権紛争は20年以上続いているが、中国での商標権者は譲渡金や賠償金を得ることを目的とせず、「無印良品」とよく似た店舗及び事業展開で儲けることを目的としており、ハイブリッド型ともいえる。さらに、商品のデザインは模倣するが、自身のブランドをつけてあたかもオリジナル品のようなイメージ戦略をとる企業もある。
２．最近の事例
�‐ι幻△鮨�害した製品（図形商標を製品のデザイン（形状）に使用）がECサイトであるTaobaoで発見された事例。最初の数回はテイクダウンに成功したものの、その後模倣品業者は意匠権保有を主張し、明らかに商標権よりも後願であったにもかかわらずTaobaoも答弁を認め、テイクダウンはストップ。Taobao本社所在地及び模倣品の製造工場所在地の市場監督管理局にそれぞれ行政措置請求を提出し、解決した。�⊂ι幻△鮨�害した製品が、ECサイトではなくFacebook、Twitterなど、全て米国のソーシャルメディア上で発見されたことが特徴的な事例。製造は中国であるが、それを販売していたのは香港在住の個人であった。商標権侵害を理由にテイクダウンに成功。ECサイト同様、ソーシャルメディアでもテイクダウンは可能であり、特にFacebookはテイクダウンが1件でもあっても侵害品を掲載しているページを削除するのではなくアカウントが即閉鎖となるため、他の製品も多く販売していた模倣品販売者にとっては影響が大きく、アカウント再開の交換条件として誓約書を提出し解決した。
��コーポレート・ロゴデザインの著作権を侵害した製品が国際展示会で発見された事例。出展していた中国企業の会社名は酷似、製品には全く同じロゴが使用され、またHPのデザイン、コンテンツもそっくりであった。ただ、真正品メーカーは中国で商標登録しておらず、模倣品の製造企業は商標権を保有していた。商標無効宣告請求を提出すると同時に、ロゴに係るデザインの著作権侵害の侵害訴訟を提訴し、解決した。
�と�明特許を侵害した製品が発見された事例。本来製造できるはずがないと思われていた中国企業が、同じものを低価格で入札したことが発端となり、模倣品サンプルを入手しテストした結果、複数の特許に抵触していることが判明した。また、ダミー企業の名前で偽の商談を持ち掛けサンプルを入手したが、トラップオーダーともいわれるこのような証拠入手のやり方は注文して作らせたのではなく既に製造していた製品であれば中国で認められる。また中国では訴訟における重要な証拠は全て公証が必要であるため、公証人を連れて再度サンプルの入手を試みたが、侵害企業は事業拡大中の重要な時期にあり、知財訴訟などに非常に警戒心が高く、拒否された。その後、警告書の送付や行政当局を通じた和解の説得を試みたが、侵害企業は取り合わず、最終的に提訴に踏み切った。
�テ探�を侵害した製品がECサイト上で発見された事例。Alibaba.comなどの海外向けECサイトで販売されており、中国国内では販売されていなかった。中国での特許権を基にテイクダウンを開始したが、当初は数十であったリンクが、テイクダウンする度に数百、数千単位で増加した。そして、模倣品業者はテイクダウンに対する抗弁をAlibabaに提出するようになった。その後、抗弁として意匠及び実案特許の保有を主張すると、Alibabaは答弁を認め、テイクダウンは膠着状態となった。ただ、意匠は真正品メーカーと殆ど同一のデザインであった。真正品メーカーは、Alibaba本社所在地及び模倣品業者所在地の市場監督管理局に行政措置申請を提出した。市場監督管理局の中にある行政調停委員会主導による和解の協議が行われた。訴訟はどんどん複雑化、長期化しており、調停による解決は訴訟よりも早く終わるという点で有効な紛争解決のオプションとなり得る。ところで、なぜ模倣品業者が意匠権を取得できたのかというと、中国では意匠の実態審査が無く、書類審査が通れば先行意匠があったとしても、意匠登録されてしまうためである。
３．模倣品対策の留意点
〈中国での知財権〉- 中国では、商標法は1983年公布、最近では2019年に改正、特許法（意匠、実用新案、発明の3つをまとめて専利と呼ばれる）は1984年公布、2020年改正、著作権は1990年公布、2020年改正、2021年6月施行、不競法は1993年公布、2019年改正と知的財産に関する法律が整備され、近年は相次いでその強化が図られている。
- 中国では、民事訴訟をしても十分な賠償金を得ることができず、訴訟にかかる費用と手間に見合わないと言われてきたが、法改正により、裁判所の裁量で決められる法定賠償金が500万元まで引き上げられ、更に故意に侵害した場合や情状が深刻な場合は、1倍から5倍の範囲で懲罰的賠償金が与えられることが定められた。侵害に対する抑止力となることが期待されるが、模倣品対策の前提として最も重要になるのは、中国の法律が提供する知財権を幅広く取得しておくことである。
- 商品の文字商標を中国で取得できれば良いが、商標を取得できなくともパッケージデザインなど意匠権や著作権の取得、あるいは不競法による保護を受けることは可能である。商標権は中国の中央政府が審査をして登録されるお墨付きの権利であり、テイクダウン、警告書、行政摘発などを短期・低コストで行える万能の権利である一方で、権利化が非常に難しいという側面がある。また、3年間使用していないと誰でも不使用取消を申請することができるため、権利行使の前に使用実績を作っておくなどのケアが必要となる。
- 近年はブランドを付けずにデザインを模倣する意匠権侵害が増えている。例えば、外装デザインだけでなく、デザイン性のある箱の中のトレーなども、意匠権を取得できるものは広く取得しておくことが好ましい。
- 著作権は中国の知財権の中では最も弱いといわれていたが、法改正により著作権を認められる客体が増え、例えばプロジェクションマッピングのような動く著作物も保護が明確化され、強化が図られた。しかし、著作権は登録制ではないが故に、その権利証明を様々な証拠をつないで書面で立証することが実務的には難しい。特に日本製品の場合、そのデザインは日本で行われていることが多く、その場合は、公証・認証の手続きが必要になり、また契約書や企画書が中国語以外の場合は、中国語に翻訳した上、その認証も必要となる。一方で、商標登録には時間と費用がかかり、権利化できない可能性もあるが、著作権は権利立証のハードルは高いものの積極的に利用を検討すべきといえる。また、著作権には届出制度があり、中国版権局に申請すると届出書が発行され、中国での初歩的な権利証明となり、オンラインテイクダウンなどの場合、多くの書類を揃えることなくスムーズに進行する場合がある。
- 日本企業で実用新案を利用する例は少ないが、逆に中国では実用新案をうまく利用し権利行使に成功している例がある。今後は、特許よりも取得しやすい実用新案の権利化を検討されてもよいのではないか。
- 商標権も意匠権も無い場合は、最終的に不競法での保護を検討する。不競法では、未登録の商標やパッケージデザインであっても、中国で著名と認められれば保護される。ただし、どの程度の知名度であれば保護されるのか、そのガイドラインが無いために、知名度立証のハードルが非常に高い。しかし、近年インターネットの普及により以前よりは立証しやすくなった。
- 商標登録の場合、最短で出願から6〜9か月かかる。オフィスアクションが出された場合は1〜2年、長ければ5〜6年かかる場合もある。一般的に商標権は取得しやすいと考えられているかもしれないが、中国は非常にトリッキーであり、実体審査で40〜55%が拒絶査定となり、拒絶再審や行政訴訟の手続きを踏むと数年かかることになる。中国では商品発売の数年前を見越して前倒しで商標権を取得しておくことが重要である。もし商標権が取得できない場合、不競法での保護は検討に値する。
〈中国で取り得る措置〉
- まずはネットで調査してみる。模倣品業者の数や被害状況を調べることができる。個人で簡易に調査できるが、非公開情報や実態をつかむことはできない。
- 模倣品専門の調査員に実地（実態）調査を依頼する。調査員は模倣品業者の登記住所や商品の返品先住所に行き、模倣品の製造場所や物流拠点などの実態を調査する。偽の商談を持ち掛け、ネット調査では得られない売上や顧客情報を入手できる可能性もある。1回の調査で調査員の交通費、宿泊費、サンプル購入費などの実費抜きで2,000〜3,000$の相場感であり、費用はかかる。調査依頼を出してから報告を得られるまでに通常１ヶ月程度の時間が必要となる。
- ECサイトやソーシャルメディアの知的財産ポリシーに従い、模倣品を掲載しているページを削除してもらうことができる（テイクダウン）。費用と時間をかけずに比較的簡単に行うことができ、複数回削除が繰り返されるとアカウント自体が閉鎖される場合もあり、効果も高い。しかし、プラットフォームの運営会社は司法のプロではないため、少し難しい案件になると判断できず、また、運営会社としては模倣品対策をあまりやりたくないという本音もあり、少しでも抗弁があったり、わずかでも非類似であれば削除してくれない、というデメリットがある。テイクダウンは最初のステップとしては重要であるが、万能ではないため、次のステップを考えておく。
- 上記プラットフォームによるテイクダウンが受理されない場合や事例�イ里茲Δ縫謄ぅ�ダウンが難しい場合などは、行政当局によるテイクダウンの一括処理を申請できる。Alibabaは非常に巨大なために、Alibaba本社内（杭州）に市場監督管理局のAlibaba窓口が設けられているが、中国は非常に広いために、地域をまたぐ取り締まりはしてくれない場合がある。ただ正式な請求書を揃える必要があり、委任状、授権法定代表人証明及び現在事項全部証明は公証・認証する必要があり時間と費用がかかる。現在事項全部証明は中国語の翻訳が必要となる。
- 中国では弁護士が出す警告書もかなりの確率で無視、軽視される。その理由として、多くの模倣品業者がいる中でなぜ自分たちだけ言われるのか、悪いことをしていない、権利侵害していない、などの意識があることが挙げられる。一方で上場している企業の事案では、知財紛争は株価に影響するため、警告書で真摯に対応してくれた事例もあり、相手を見て警告書を出すことも有効な手段となり得る。中国で有効な知財権を取得している場合は警告書、明確な権利が分かりにくい、もしくは無い場合は告知書となるが、告知書を警告書として出すと権利の濫用として逆に訴えられたりする場合があり注意が必要。
- 行政への通報や摘発では、模倣品の製造販売そのものを停止させることができる。権利が無い、もしくは権利を証明するのが難しい場合は、その品質上の問題や、製造者が正式な認許を受けていない場合があり、品質検査をして不認可成分などがあれば、それを理由に通報して撤去などを求めることができる。このように知財権以外の手段で模倣品対策ができる可能性もある。知財権を保有している場合には、権利侵害を理由に摘発をスピーディーに行うことができる。だいたい3か月、遅くても6か月で何らかの結果が出る。デメリットしては、品質問題の場合、模倣品業者に品質を改善されてしまうと製造販売を再開されてしまうことや、行政のため民事の損害賠償は請求できず、損害賠償金を得るためには、別途民事訴訟を提訴する必要があること。また、複雑な案件や著作権侵害の場合は、権利証明の理解が行政側にとって難しく、逆に行政側から訴訟を勧められる場合もある。
- 中国の事務所に相談すると、商標侵害以外は訴訟を勧められることが多い。これは、中国には4か所の知財専門の裁判所である知的財産権法院があり、さらに20か所の知的財産法廷も設けられており、専門の教育を受けた裁判官がハイレベルで審理をしてくれることから代理人としても楽という側面があるためであるが、まずは訴訟以外のオプションがないのか事務所に問いかけることが必要。民事訴訟では、損害賠償請求や複雑な案件を裁くことが可能であるが、費用と時間はかかる。現在の中国国内の4大事務所の費用感は、一審で2,000〜3,000万円、少なくとも1,000万円以上であり、一審までに1年〜1年半かかる。また、判決が出たとしても強制執行ができない場合が多い。特に、オンライン業者の場合、1社に対する判決が出ても、すぐに違う会社名で商売を再開されてしまい、いつまでも解決できない場合がある。模倣品には民事訴訟だけでなく、バランスの良い対策が必要となる。
〈判断基準を設ける〉
- すべての製品に同じレベルの模倣品対策を求めるとパンクしてしまう。例えば、事業への影響度より重要度を「大」「中」「小」に分類し、その対応をあらかじめ決めておけば、中国で大量に起こるかもしれない模倣品対策について、その都度その都度、事務所に相談して法律意見をもらう必要はなく、スピーディーな対応が可能になる。
〈PECOの紹介〉
- 中国北京で開発されたソフトウエア「PECO」は、中国の多くの事務所で使用されている。商品の文字（キーワード）や図形（イメージ）を入力することで、中国で模倣品がよく出るサイトを自動検索し、リスト表示してくれる。また模倣品のリスク高低を分析したり、ワンクリックでExcel出力する機能を有しており、使いやすいツールである。さらに、バイク便などの配送業者と提携し、模倣品業者とおぼしき住所の写真を配達員が撮ってきてくれるというサービスもある。その住所に何があるのかを知ることで、次のステップの判断がしやすくなる。このようなツールを利用することも模倣品対策として有効である。
４．質疑応答
� ‘�本の商標法では、外国で有名な標章を不正な目的で出願することは禁じられているが、中国ではどうか？
→ 規定はある。しかし、ある外国標章と同一の商標が中国で出願された時点で、その外国標章が「中国国内で」
周知されていたかを判断されるため、実務上は難しいものがある。
�◆｜羚颪覗幣戮�あった場合、日本企業でも対等に扱ってくれるのか、またその勝率は？
→ 日本企業は勝率の高い訴訟しかやらないので、結果的に勝率は高いが、基本的には対等に扱ってくれる。
レアケースではあるが、政治的な力が働いた事案もあるにはあった。
Ⅲ．講演会の動画配信
講師のご厚意により、2021年9月13日（月）〜2021年9月24日（金）の期間限定で、講演を収録した動画（前半；休憩前約51分、後半；休憩後約65分）を動画配信（Vimeo使用）した。視聴数は、前半56、後半31であった。
以上
関東化学第二・商社部会（第1回）
| 時 | 2021年6月3日 (木) 14:30 〜 17:00 |
|---|---|
| 所 | 日本知的財産協会 東京オフィス（WEB開催） |
| 人 | 幹 事 今泉業種担当役員、生塩、堀口、相澤各正幹事
佐藤、池田、佐野、藤原各副幹事 協 力 ＪＩＰＡ 赤井様、博多様 JIPAでの参加者：今泉業種担当役員、生塩、堀口、相澤各正幹事、土井（6/21〜相澤後任） |
Ⅰ．議 事
今泉業種担当役員による会務報告、相澤（会計）による会計報告、弁護士 柴山 吉報 先生による講演を実施した。Ⅱ．講演会
| 演題 | 電子契約導入経験者が語る、電子契約の基礎知識と導入・運用の手引 |
|---|---|
| 講師 | 阿部・井窪・片山法律事務所 弁護士 柴山 吉報 氏 |
講演概要
柴山先生は、電子契約導入に関し、企業コンサルティングの経験があり、実地に役立つ講演をしていただいた。まず、前置きとして、電子契約の導入状況がコロナ禍で拡大しているという現状ついて説明があった。
１．なぜ今、「電子契約の導入」が必要か？
電子契約の導入のメリットは、出社業務を減らせるということだけではなく、契約審査・稟議→契約締結→締結済みの契約書の管理まで「一気通貫」でデジタル化できることであり、システム間の連携やＡＩ活用によって、時間や工数減、契約書の管理・保管の場所・時間減、契約書紛失問題の解決、事業部からの質問対応への時間減などが可能となる。２．誤解が多い「電子契約」。結局「電子契約」とは何なのか？
- 電子契約とは、電子的に作成した契約書を、通信回線を用いて契約の相手方へ開示し、契約内容への合意の意思表示として、契約当事者の「電子署名」を付与することにより契約の締結を行うものである。
- 電子署名とは、暗号化技術を用いて本人性・非改ざん性を担保するものであり、電子契約サービス利用時にシステムの裏側で自動的に行われる。確認するためには契約書ファイルの「署名パネル」の確認が必要。
- 当事者型と立会人型があるが、当事者型は両者が同一サービスを使用している必要があるが、立会人型は当事者が電子署名を行う必要が無く、一方のサービス契約だけで良いため、立会人型が普及している。
- 注意事項：技術的な文脈での「電子署名」と、法律上の「電子署名」（総務省、法務省、経済産業省）とでは、定義にずれがある。
- 当事者型と立会人型の実際の契約締結の流れの説明。
３．立会人型電子契約は紙の契約と比べてどこがリスクか？
紙の契約書では、締結に印鑑（印章管理規程に基づき厳格に管理）が必要であるのに対し、電子契約は、メールアドレスに紐づくだけであるため、�．�バナンス上のリスク（稟議手続無しで締結、営業担当者がメルアドを教えて勝手に締結）、��効果不帰属のリスク（権限無いものによる締結）がある。- 適切な対応をとることによって、リスクを小さくすることが可能である。
�� ガバナンス上のリスクへの対応：社内体制・規程整備（アカウント管理リール作成、契約窓口・契約用アドレス作成）と事業部への周知
��効果不帰属のリスクへの対応：契約締結時のオペレーション変更（メールを全員へ送付）、ルール策定（高い役職をサイナーとする）、契約書の雛型の見直し（個別契約締結者に権限があることを基本契約で表明保証）と事業部への周知 - 紙契約と電子契約とを比較すると、正しく運用されていれば電子契約の方が有利と思われるが、運用が正しいか否かがまだわからない状態では、電子契約に少しデメリットがある。リスクの低い取引のみの契約を電子にするだけでも効果があるため、いきなり１００％ではなく、一部実施→拡大とする動きが多い。
４．導入時に行うべきことは何か？
- 電子契約導入をプロジェクト化し、サービス選定、対象とする契約決定、フロー見直し、規程・フロー策定等を行う。
- サービス選定：�ゝ’修鉢▲灰好函頁�間契約件数、権限による料金の差、稟議・管理システムとの連携、当事者型／立会人型、セキュリティ）、��使いやすさ（見やすさ、直感操作）、�し戚鸛蠎蠅了�情（海外サービス、同一サービス）を考慮して決定する。
５．電子契約の利用割合を上げるためにどうすればよいか？
- 導入企業は、成功／拡大しないに、２極化される。
- 社内対応：事業部（営業）のメリット（迅速化）を謳う。営業に負担にならない社内体制（問合わせ窓口設置、社内ポータルサイトにＦＡＱ設置など）を設置。一定の役職者の承認を必要とする等、手続を面倒にする。しつこく全社に周知する。
- 社外対応：説明資料（操作方法、自社の社内規程整備状況、効果不帰属リスクの説明、迅速化）を作成し、営業担当者等から相手に送付するオペレーションにする。
６．ＦＡＱ
�〇羞戚鵑覗輒海�社長印を捺すがごとく、総務が代理で契約可能か？原則は駄目であるが、社内ルールを明確にし、紐づけされる契約締結アカウントを作成することで可能となる。
�▲機璽咼皇鷆＿饉劼離機璽咼控抻漾�破産への対応
サービス休止の場合には一定期間の予告があるはず。電子契約の有効性も、電子署名の一般論や契約交渉のメール等の事実から立証できる。大手サービスを選択、バックアップ等によってリスクを減らすことができる。
��専門家の使い方
法的リスクに対する意見、体制作りのコンサルティングに利用する。また、他社法務からの情報収集が有益である。
Ⅲ．質疑応答（チャット及び口頭で質問を受け付けた）
�）［Ь紊匹糧楼呂泙播纏匳靆召�有効(法的証拠能力がある)なのかよく分かりません。海外も含め。→法律と契約の署名は分けて考える必要あり。電子署名と証拠能力は別問題。例えば、名前とメルアドを入れて登録する場合、契約は同意しているが、電子署名ではない。電子署名は必須でない。
海外は国で制度違う。個別確認要。
�⇔�会人型では一方当事者が電子契約サービスを利用していれば他方当事者は電子契約を利用できるということですが、他方当事者の電子署名はどのように行うのでしょうか？事前登録等必要なのでしょうか。また、海外との契約においては、捺印ではなくサインが一般的ですが、その場合はどうするのでしょうか？
→立会人型では、当事者は電子署名不要。ベンダーのみ電子署名。法的に電子署名と評価される場合あり。海外において、電子契約の場合、サイン無しの場合も有り。サインの画像でＯＫの場合あり。外観上それっぽくするため。
�７戚鷽�形の見直しについて、電子契約に際し必要な規定があれば教えてください。
→基本契約で総務担当を窓口にしておき、権限表明を保証する。単発では意味がない。基本契約のときに有効である。
→他の規定としては、まず、契約書の最後の文章。署名押印保管を電子的署名、電子ファイル保存に変更する。あと役に立つのは、効力発生日をデフォルトで入れる。紙では、６・１からとバックデートすることがあるが、電子契約では日付が残るので、デフォルトで発効日を入れる。
�で簀禊靄楫戚鵑覆匹錬隠闇�を超えるなど長期間にわたることが多いです。一方で、不正確な表現かもしれませんが、電子契約の法的証拠力は永続的ではないと理解しています（電子証明書の有効期限は５年程度、タイムスタンプも10年程度）。この点がネックとなり、全ての契約類型に導入しづらいと感じています。どのような工夫があり得るでしょうか。
→効力が切れたから、証拠能力が無くなる話ではない。基本契約は無効になることは少なく、発生可能性があまりないと思う。タイムスタンプは重ね打ちできる技術（長期署名技術）がある。長期署名ベンダーは少ないが、これはおそらく需要が少ないため。発生可能性が低いということだと思われる。
�ソ靆沼緲�について、総務担当者が結ぶことで二段推定が及ぶのか？
→及ばないという結論になる。 原則論に戻る必要あり。真正推定はそもそも紙でも限界あり。電子契約でも総務担当で締結可能。表見代理でケアすべきところである。社内規程つくる。相手方は、社内規程を聞く。サイナーのアドレス＆他のアドレスも入れるという運用をすること。
Ⅳ．講演会の動画配信
講師のご厚意により、2021年6月17日(木) 12:00 〜 2021年6月28日(月) 17:00の期間限定で、講演を収録した動画（前半：休憩前約56分、後半：休憩後約61分）を動画配信（Vimeo使用）した。視聴数は、前半61、後半45であった。
以上
