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会務報告&部会報告
関西金属機械部会（第５回）
| 時 | 2月22日（金）13:30〜16:30 |
|---|---|
| 所 | 見学・部会・懇親会：ヤマハ株式会社本社・グランドホテル浜松12階グランディ |
| 人 | 村上業種担当役員、馬場、上松、近藤 各幹事を含む
20社、29名 |
議 事
１．ヤマハ株式会社 イノベーションロード見学
ヤマハ株式会社の本社内にある見学施設「イノベーションロード」にて見学した。1887年（明治20年）の創業から現在に至るまでの歴史が詳細に、かつ、理解しやすく紹介されている。 施設内には、格式ある演奏会でのみ弾けるピアノや管弦楽器のみならず、歴代の名器、音の出る仕組みやバーチャルステージ等、多種多様の展示物があり、参加者は皆興味深く展示物を見学していた。２．部会報告
村上業種担当役員より、年間の運営方針と活動計画の報告が行われた。今年度の活動内容をふりかえった。また、2019年度関西金属機械部会の新役員・幹事の氏名が紹介された。
３．講演
| 演題 | 「技術情報秘密管理（事例も交えながら）」 |
|---|---|
| 講師 | 新日鐵住金株式会社 知的財産部 戦略推進室 室長 矢田部 英爾 氏 |
講演概要
■事例紹介
競合会社が新日鐵住金のOBを通じて同社の高級鋼板製造技術に関する営業秘密を不正に取得し使用したことが疑われた事例の紹介。（不正競争防止法に基づく損害賠償請求、関与したOBに対する責任追及） 講演では、情報漏洩の概要、関与したOBに対する責任追及に対する考え方など、多岐にわたる項目について、講師から紹介していただいた。＜関与OBに対する責任追及の難しさ＞
以下の項目に対し、難しい対応を迫られる。
�� 漏洩情報における漏洩時期・場所・開示者・相手先の特定
�� 漏洩情報の営業秘密特定（秘密管理性、有用性、非公知性）
�� 損害額、不法収益の特定
�� 和解交渉
＜情報漏洩防止の難しさ＞
技術情報を共有し有効に活用すること（情報活用管理）と、情報守秘管理の両立が求められる中で、情報にアクセスする権限を有する（有した）人物からの情報漏洩を防ぐことは、
なかなか難しい。また、不法行為立証のための証拠収集は非常に困難である。
情報を守秘管理するには、技術情報漏洩を許さない（重大な法律違反であることの）自覚と風土醸成が必要である。そのために「万一情報漏洩が起きた場合には断固たる措置を講じること」が何よりも大切といえる。
技術情報漏洩の端緒を掴んだら、「免責も視野にヒアリングする」、「弁護士に相談する」といった第一歩を確実に踏み出すことが欠かせない（「確実な証拠が無いので…」
といって放置しない）。
■営業秘密管理のポイント
（１）技術情報管理は喫緊の課題グローバル競争の激化による、技術・営業情報の価値の高まり、アライアンス等、他社との情報交流機会の増大、情報電子化の進展、人材の流動化（価値観の多様化、高齢化）は、情報漏洩・ 流出のリスク増大を招く。
（２）技術情報管理の考え方
”情報管理”＝”強みを理解”×（”情報守秘管理”+”情報活用管理”）である。会社の強みがどのような情報に立脚しているのかを理解する。これら情報が漏洩または意図せずに流出することがないよう、
技術情報漏洩が重大な法律違反であることを自覚して業務を遂行する（情報守秘管理）。また、法令および社内ルールに則り、これら情報を共有して有効に活用し競争力強化に努める（情報活用管理）。
大切なのは、社員一人一人の自覚（情報、技術を尊重する心）、情報を大切にする風土の形成である。ルールや法律があるから情報守秘するわけではない。
■技術等の情報の管理に係る認証制度
2017年4月に、情報管理に関し「製造産業による重要技術の情報の適切な管理に関する基準となる考え方の指針（ガイドライン）」が経済産業省製造産業局から発行された。2018年5月23日に「改正産業競争力強化法」が公布され、重要技術情報（技術情報に限らない）を対象として、認証制度が措置された（第二章第5節第67条〜79条）、 2018年9月25日に 「改正産業競争力強化法に基づく告示」が発行され、技術等情報漏洩防止措置の実施の促進に関する指針等が告示された。
事業所管大臣及び経済産業大臣が認証機関を認定し、同機関が各企業に対して技術等の情報漏洩防止のための基準への適合認証を実施することとなる。
■質疑応答
ご講演いただいた内容に対し参加者に危機感が響いたと思われ、講演終了後のみならず懇親会の席においても、質疑応答が多数成された。本テーマに対する参加者の関心の高さを実感した。４．懇親会
見学、講演の後、懇親会を開催した。会員23名に加え講師の矢田部様、会場提供会社のヤマハ株式会社様にもご出席頂き、幅広く意見・情報交換を行い、会員相互の親睦を深めた。以上
関西二業種合同部会
| 時 | 2018年12月7日（金）14:30〜16:30 |
|---|---|
| 所 | 部会： 住友クラブ多目的ホール 懇親会：住友クラブ洋室５号 |
| 人 | 松本、村上各業種担当役員、柴原、坂口、長尾、馬場、上松、近藤、各幹事を含む
60社、66名 |
議 事
1. 講演
| 演題 | 「オープン＆クローズの戦略思想を必要とする時代の到来」 ＝ＩｏＴ時代の知財・法務をどう方向付けるか＝ |
|---|---|
| 講師 | 東京大学 政策ビジョン研究センター シニア・リサーチャー 小川 紘一 氏 |
講演概要
（１）100年に一度とも言うべき大規模な産業構造転換
18世紀末頃、イギリスを中心に第一次経済革命が起こった。その背後で、所有権や知的財産権などの権利制度・法体系が定着し、効率的な経済組織が広がっていた。 これがイギリスで蒸気機関など経験（職人技）の産業化がはじまった理由である。その100年後の19世紀末になると、ドイツやアメリカを中心に、少し遅れて日本でも、第二次経済革命が発生した。その特徴は科学者が発見した自然法則を活用して 可能になった新技術の産業化であり、代表的事例として電機事業や化学事業が挙げられる。その背後で、アメリカ、ドイツ、日本などが知的財産権を保護する法制度が整備されていた。
更にその100年後の20世紀末から全世界で第三次経済革命が生じたが、その背後で1980年代にソフトウエアへ知的財産権を付与する法制度が整備されていた。 ここからプログラム言語のような人工的な論理体系で開発されたソフトウエアが大規模に産業化されていった。アメリカがＩＴ産業のリーダーになった背景がここにあったのである。
このように、いま起きていることは、100年に一度とも言うべき経済革命である。その特徴として下記3点が挙げられ、ＩｏＴ時代はこれらがほぼ全ての産業で出現する。
�� グローバル市場がビジネス・エコシステム型に変わり、差異化や利潤獲得など価値形成のメカニズムが一変する。
�� 価値形成の場（利益を生み出す場）がモノ／Ａｓｓｅｔ空間とサイバー空間との2つに機能分離して産業が変わり、
価値形成のメカニズムが更に変わる。
�� データが価値形成を先導し、市場構造や競争ルールが人間の意志で事前設計できるようになる。ここから価値
形成のメカニズムが更に大きく変わっていく。 したがって知的財産のマネジメントも契約のマネジメントも価値形成
のメカニズム変化に合わせて変えなければならない。
（２）エコシステムの中で新たに生まれた知財マネジメントと契約マネジメント
エコシステム（本来は生物学における生態系を意味するが、産業構造で言えば多くの企業の協業によって価値を作り出し広げていく態様）では、その構造と競争のルールを 自社優位に事前設計できる企業が市場支配力を持つようになる。そのためには、オープン＆クローズ戦略と伸びゆく手を形成する、というこれまでと全く異なるビジネスモデルから知財マネジメントや契約マネジメントを再構築しなければならない。 オープン＆クローズ戦略の本質はエコシステムの中の“伸びゆく手”を構築することであり、これを背後で支えるのが知財と契約のマネジメントである。
例えばＰＣにおいて、インテルではチップﾟセットの中身（ＭＰＵ、とＭｅｄｉａ Ｃｏｎｔｒｏｌ Ｈｕｂとの関係、Ｍｅｄｉａ Ｃｏｎｔｒｏｌ ＨｕｂとＩ／Ｏ Ｃｏｎｔｒｏｌ Ｈｕｂの関係）について一切秘密にする（クローズ）。その一方で、自社特許を刷り込ませたインタフェース（ＩＦ）とプロトコルをライセンスする。 このライセンスに基づく特許が必然的に必須特許となる。ここで、パートナーが上記のＩＦとプロトコルを改版すると契約違反で脅す。ただし、インテルが関連する 知財を持っていない領域、例えばＵＳＢメモリなどでは、オープンなコンソシアムを形成して標準化させ、知財を全てオープン化させる。誰でも自由に使わせて、 多くのパートナーを呼び込むことで（自由競争）、全てのパートナーはインテルの「伸びゆく手」から逃げられないようにする。従って、オープン化が普及するほど ネットワーク効果が産まれ、インテルのみが儲かる仕組みとなっている。材料メーカーにもインテルモデルと類似のネットワーク効果を狙った仕掛けが沢山ある。
また携帯電話の事例を挙げれば、1990年頃の欧州ＧＳＭ方式では、携帯電話の無線基地局やその制御装置の基幹技術だけ国際標準の規格から外す。したがって国際 ルールの対象にならず公開する義務を負わないので、その使用権を契約で縛る（＝市場支配力）。 その一方で、携帯電話本体の内部も外部も完全にオープン標準化し、国際ルールで公開。誰でも作れるようなってネットワーク効果が大規模に起きて普及するが、携帯電話 システム全体の結合ノードになる上記の無線基地局（クローズ領域）を使わないと携帯電話として機能しない。したがってオープン技術を使う世界中のメーカーは欧州の 仕掛けから逃げられない。技術で圧倒的な力を持つ日本の携帯電話が勝てなかった背景がここにあったのである。
以上のように、自社のコア領域に知財を集中させると同時に結合領域へ知財を集中させ、コア領域だけはクロスライセンスを徹底的に排除する（クローズ）。一方でコア技術の
用途を権利化しユーザに使わせる（オープン）。クローズとオープンの境界領域の知財を契約で公開することで「伸びゆく手」が形成される。
まとめると、オープン＆クローズ戦略には以下の三要素が必要である。
�．�ープン：自社以外の企業による投資でイノベーションを起こし、ネットワーク効果を創出（そのためにインタフェース
／プロトコルを標準化）
＊協業領域、市場の利用コストをゼロとし参入障壁をなくす。
＊競争相手になりそうな企業をエコシステムパートナーにする。
＊パートナー企業のイノベーション活用で短期に市場を拡大させる。
�▲�ローズ：自社の内部イノベーション（技術革新）＋知財マネジメント）
＊競争領域で常に差異化を産みだし、高い参入障壁を作って独占する。
＊その為に、自社内部で次々に技術イノベーションを起こす。
��伸び行く手の構築（ビジネスモデル＋契約マネジメント）
＊自社内部のクローズ領域からオープン市場へ向かう目に見えない「手」を設けることで、市場コントロールのメカニ
ズムを形成する。
＊ビジネス・エコシステム（バリューチェーン全域）の付加価値を取り込み、自社の企業価値を高める仕掛けを構築する。
エコシステム構造を自社優位に事前設計してネットワーク効果を創り出し、同時にエコシステムに向かう“伸びゆく手”を形成する。このビジネスモデルを知財マネジメントと 契約マネジメントで支える。これがオープン＆クローズ戦略の本質である。
（３）オープン化（技術伝播）からオープン＆クローズ戦略へ
1980年代までは、知の蓄積が時間的・空間的に外部から伝播してくることで技術が進歩するとされていた。このようなアカデミアの理論では人類社会全体への貢献が 重視されて技術伝播（オープン化）が正当化されており、企業による外部知識の取り込みプロセスもなければ知的財産権も無視されていた。しかしながらこの考え方は、差異化が必須の資本主義の基本原理に反する。また、差異化で利潤を追求する企業の存在を説明できない。これがアカデミアで語られた オープン化であったが、知財権を考慮しないオープン化思想が日本企業を苦境に陥れた。
例えば、1990年前後に日本企業の特許が世界の80％を占めていたにも関わらず、日本企業は1980年代のＩＢＭのパソコンと同じ厳しい経営環境に遭遇している。 日本の電機産業が直面した苦境はアメリカでもドイツでも起きていた。決して日本だけの問題では無かった。
1990年代から産業構造がビジネス・エコシステム型に変わり、日本の電機産業（ＤＲＡＭメモリ、太陽電池、液晶ＴＶ、カーナビなど）は、たとえ日本が60〜80％もの 知財を持っていても技術開発投資を回収できなくなっていたのだ。投資が回収できなければ日本でイノベーション連鎖が起きない。
ビジネス・エコシステムの進展が、アメリカでは1980年代末から、ヨーロッパでは1990年代中期から、日本では2000年代末から起きた。この時いずれの国でも大規模企業が市場撤退を繰り返した。
ＩｏＴ時代はエコシステムがサイバー空間へ広がる。従って過去の経験から学ばなければ多くの産業領域でもっと大規模に市場撤退が起きる。市場撤退を早く経験した欧米の 企業はすでに学び終えてＩｏＴ時代を迎えているが、2000年代に経験した日本企業はまだ学び終えていない。これが非常に心配である。
（４）ＩｏＴ経済環境の価値形成とオープン＆クローズ戦略
�＿礎遊狙�の場がサイバー空間へ移行2010年代になると、欧米だけでなく中国でも多くの企業がサイバー空間を価値形成の場と考えはじめた。その基本思想が“ＣＰＳ”（Ｃｙｂｅｒ Ｐｈｙｓｉｃａｌ Ｓｙｓｔｅｍ）である。サイバー空間とフィジカル空間は、イノベーションが機能的には分離しているが、データがサイバーとフィジカルを繋ぐことで新たな価値を生み出す。 ここで、サイバーとは、コンピュータが創る仮想世界、例えばクラウドやデジタルプラットフォームなどのシステムや3Ｄや人工知能などの技術モジュールであり、 アーキテクチャ思考を必須となるイノベーション領域のことである。フィジカルとは、手で触り、目で見えるモノの世界、すなわち現実社会であり、コンポーネント思考を 必要とするイノベーション領域のことである。
2010年代は価値形成の場が更に大規模にサイバー空間へシフトしはじめた。例えばＵｂｅｒやＡｍａｚｏｎでは、モノやＡｓｓｅｔ空間で価値を形成する既存ビジネス （コンポーネント思考）で発生するデータを活用し、サイバー空間で価値を形成させる新規のサービス産業（アーキテクチャ思考）を構成している。
�⊆�動車産業のゲームチェンジ
これまで自動車を利用する人は自動車メーカーから自動車を購入するが、ＩｏＴ時代になると自動車産業と自動車を利用する人との間にサイバー空間が介在し、
自動車を使う人や自動車の稼働情報をデータ化し、新たな価値をサイバー空間で形成する新規サービス業が発生している。
その代表的な事例がＵｂｅｒやＤｉＤｉである。彼等は配車、保険などを含めたＦｌｅｅｔなどの各サービスをクローズ領域にし、自動車側（現在はタクシー）を実質的にオープン化している。
将来、ＥＶの自動運転が普及すれば、スマートフォンによる配車が大規模に発生し、世界の自動車需要が大幅に減少すると想定される。無人タクシーが増えると人件費が 削減できるので、料金が有人タクシー料金の1／4〜1／10になるであろう。
以上のように、ビジネスの主導権がモノではなく、サイバー空間で価値形成されるサービスへシフトしていく。ここでは運転や乗車などの関するデータの所有権とアクセス権が重要となる。
��インダストリー4.0を支えるオープン＆クローズ戦略
ドイツのＩｎｄｕｓｔｒｉｅ4.0では、モノとサイバー空間を連動させる“ＣＰＳ”の考え方で価値を形成しようとしている。
2010年にドイツは、10年後にドイツの産業がアメリカのＤｉｇｉｔａｌ Ｐｌａｔｆｏｒｍに支配され、ドイツ製造業が中国に勝てなくなると予想した。
2015年頃からＲＡＭＩ4.0（Ｒｅｆｅｒｅｎｃｅ Ａｒｃｈｉｔｅｃｔｕｒｅ Ｍｏｄｅｌ Ｉｎｄｕｓｔｒｉｅ 4.0（ＲＡＭＩ4.0））をアナウンスし、サイバー空間による
価値形成を前面に出し、モノ／Ａｓｓｅｔ側へゲームチェンジを仕掛けようとしたのではないか。
事実ドイツは2016年頃から管理シェルのオープン標準化へ向かった。ここがオープン標準化されればモノ／Ａｓｓｅｔ側をＡＰＩとして扱うことが可能になり、モノ
／Ａｓｓｅｔの価値形成をサイバー空間へシフトさせることが可能になる。モノ／ＡｓｓｅｔをＡＰＩ化してサイバー空間へ誘導する仕組みができれば、モノ造り技術の弱い
アメリカＧＡＦＡへの対抗策になる。
日本企業はアメリカやドイツの後追いをする必要はない。ＧＡＦＡもインダストリー4.0も、日本企業の価値をサーバー空間で創る便利なツールを提供する集団と考え、
積極的に利用すればいい。この方向性を支えるのが、第一にデータはモノ／Ａｓｓｅｔから出るという事実であり、第二に日本企業には世界に誇る断トツのモノ造り蓄積と
人材があり、したがって第三にモノから出るデータへアクセスする優先権を日本企業が持てる、という事実である。
従って我われは、どうすればデータ利活用で主導権を取れるか検討しなければならない。特にモノ／Ａｓｓｅｔから出るデータ／サービスのＡＰＩ化に注力すべき。また差異化・
利潤特定のプラットフォームにロックインされない仕組みが漸く見えて来たので、これを積極的に活用しなければならない。
最後に再度繰り返すが、日本企業が製造業のサービス化を検討する場合は、データがモノから出るという事実を再度確認し、モノの所有権を持ってデータのアクセス権を獲得することが重要となる。
さらに日本企業は決してフルセット自前主義になってはならない。オープン＆クローズ戦略でパートナー企業とのビジネス・エコシステムを自社優位に構築して
ネットワーク効果を創り出す。これを踏まえたエコシステム型の統合モデルへ向かうべきである。このモデル設計では、まずコア領域を必ず自社内部に持ち、その具体化に
ＧＡＦＡやインダストリー4.0が提供する便利なツールを使えばいい。
これを使いこなせる人材を社内で養成する時間的な余裕が無いのなら外部から獲得しなければならない。知的財産や法務の人材も決して例外ではなく、大規模なエコシステムや
サイバー空間による価値形成など、ビジネスモデルを支える新しい知財マネジメントや法務・契約マネジメント人材が必須になったのである。
■質疑応答
講演終了後、活発な質疑応答が成された。講演内容は非常に濃く、参加者にとって大変興味深い内容であった。２．今後の部会日程
関西電気機器部会の今後の予定について、松本役員より説明していただいた。関西金属機械部会の今後の予定について、村上役員より説明していただいた。
３．懇親会
講演の後、懇親会を開催した。会員34名に加え講師の小川様にもご出席頂き、幅広く意見・情報交換を行い、会員相互の親睦を深めた。以上
2018年度 関西三業種合同部会
| 時 | 2018年10月26日（金）〜27日（土） |
|---|---|
| 所 | 【講演会】ＡＮＡクラウンプラザホテル宇部 東の間 【見学会】宇部興産株式会社 【懇親会】ＡＮＡクラウンプラザホテル宇部 西の間 |
| 人 | 【関西化学部会】 ・業種担当役員：皆川（東レ） ・幹事：早瀬（石原産業）、本田（シキボウ）、中馬（千寿製薬） 【関西金属機械部会】 ・業種担当役員：村上（山陽特殊製鋼） ・幹事：馬場（川崎重工業）、上松（東洋アルミニウム）、近藤（豊田自動織機） 【関西電気機器部会】 ・業種担当役員：松本（ダイキン） ・幹事：柴原（タツタ電線、）坂口（アイコム）、長尾（ローム） 講師２名、ＪＩＰＡ４名、他８０名 合計８６名 |
議 事
１．見学
宇部興産株式会社にて、２台のバスに分乗し、宇部地区工場群、興産大橋・ダブルストレーラーを見学した。 ダブルストレーラーは、40トンの積載が可能な荷台が、２つ連結されたトレーラーであり、日本最長の私道である宇部興産専用道路でクリンカー等を輸送するために用いられている。
また、総合案内施設「UBE-i-Plaza」にて、宇部地区工場群の全体像に関する解説を受けた。
２．関西部会
２−１．開会の挨拶
関西三業種合同部会の皆川役員から開会の挨拶が行われた。２−２．会務報告
関西事務所の志村所長より、配付資料に沿って会務報告が行われた。新たに正会員として２件の入会が承認され、賛助会員として東京大学が加入した旨の報告があった。
また、今月の関東部会で取り上げられた「特許ライティングマニュアル」（改訂版）が紹介された。当該資料は、Japioのホームページから無料でダウンロード可能であり、
文章表現に関して留意すべき７つのカテゴリと、細分化された27のルールで構成されている。
２−３．JIPA委員会等の活動紹介
宇部興産株式会社知的財産部の島野様（人材育成委員会委員、中国四国九州協議会幹事）より、配付資料「JIAP委員会等活動紹介」に基づいて以下の紹介が行われた。
人材育成委員会では、様々な研修を開催している。昨年度、参加者数の多かった研修は、知財の管理事務や、営業担当者・技術マネージャ向けの知財知識をテーマとするものであり、 知財部員のみならずそれ以外の方々の関心の高さもうかがわれた。
中国四国九州協議会は、中国・四国・九州地区における会員の知財活動の活性化を目的として企画を展開している。同協議会への入会条件は、JIPAの会員であることと、 中国・四国・九州のいずれかに知的財産を創出する事業所があることである。現在のべ52団体が入会しており、入会条件を満たす関西地方の企業からの入会を受け付けている。
３．講演１ （1日目）
| 演題 | 「宇部興産の知的財産活動について」 |
|---|---|
| 講師 | 宇部興産株式会社 知的財産部 部長 宮田 博之 氏 |
３−１．素材メーカー（化学）を取り巻く環境
石油化学や産業ガス等の基礎化学品分野で欧米企業に対して高い競争力を維持することが困難な中、機能性プラスティックやファインケミカルといった 機能性化学品分野の強化が重要性を増している。特に、ユーザーニーズを把握したうえでの戦略的な知的財産活動が求められている。３−２．宇部興産グループの概略
1897（明治30）年に創業した沖の山炭鉱と、その後に設立された宇部新川鉄工所・宇部セメント製造株式会社・宇部窒素工業株式会社とが合併され、 1942（昭和17）年に宇部興産株式会社が設立された。2018年3月末現在において、資本金は584億円であり、従業員数は連結で10799人である。
2017年度の連結売上高は6955億円であり、主な事業分野は、化学・医薬・建設資材・機械・エネルギー・環境分野である。その中でも、化学分野が売上シェアの約44％を占めている。
３−３．宇部興産グループの事業と知的財産活動
事業に活用できる特許を重視しており、事業ごとの特性を考慮し、保有特許の見直しを適宜行っている。その結果、2014年には350件を超えていた 新規国内登録件数が、2014年から2017年の間で新規国内登録件数が30％程度減少した。新規登録特許数の減少は、事業の縮小によるものではなく、適正化の結果である。出願の内容やタイミングの決定に際しては、常に事業の出口を意識し、知的財産部門と、事業部門・研究開発部門とで密にコミュニケーションを取り、判断している。
３−４．宇部興産グループの新規事業創出活動
今後志向する４つの事業ドメインとして、環境・エネルギー、モビリティ、建築・インフラ、ヘルスケアがある。新規事業創出に向けて、それぞれの分野で膨大な知財情報に基づき、自社の客観的なポジションや保有特許の評価を行い、関係部門へ結果を提供している。
３−５．宇部興産グループの海外対応と知的財産教育
タイ拠点においては、JETROバンコクと協力してタイ知財局への技術説明会を開催することもある。社内の知財教育は、新入社員・中堅社員・テーマ責任者の各レベルに応じて、自社の具体的な事例を題材とした教育を行っている。知財部員が講師を担当することで、 より質問しやすい雰囲気作りをしている。
各グループ会社の状況に応じた知財教育を行っているが、ＩＰマナー教育に関しては各社で共通した内容としている。
４．懇親会
講演１の後、ホテル内の別会場にて懇親会を開催した。多くの参加者にご来場頂き、闊達な意見交換、会員相互の親睦を深めることができた。５．講演２ （2日目）
関西三業種合同部会の松本役員による開会の挨拶の後、以下の講演が行われた。| 演題 | 「ASEANの知財概況」 |
|---|---|
| 講師 | 特許庁 総務部 国際協力課地域協力第一班長 袴田 知弘 氏 |
５−１.ASEAN概況
シンガポールでは比較的先進的な知的財産法が整備されているが、ミャンマーにはまだ知的財産法自体が存在しないなど、各国で抱えている課題は異なっている。フィリピン・マレーシア・シンガポール等の英語を使用できる国では、米国からの出願件数が最多である。他方、タイ・インドネシア・ベトナムでは、日本からの出願件数が最も多い。
５−２.対ASEAN知財政策の考え方
各国での異なる課題に対応するため、ASEANとの多国間協力と、二国間協力の双方が用いられている。多国間協力としては、ASEAN全体で取り組んでいる課題について、日ASEAN知的財産アクションプランを策定し、審査基準の策定等の支援をしている。一方、二国間協力では、 審査官の派遣や、ミャンマーでの知財庁設立支援など、各国の実情に応じた支援を行っている。
５−３.多国間関係
首脳レベルから事務レベルに至るまで、様々な階層を通じて各国への働きかけを行っている。首脳レベルの働かきかけの結果、2017年11月の日ASEAN首脳会議では、 議長声明に知的財産に関する文言が盛り込まれた。多国間関係の施策のひとつとして、日本国特許庁がASEAN各国から審査基準の策定や改訂に関与する人材を招聘し、研修を行っている。また、国際条約への加盟の支援や、 模倣品対策として取り締まり機関に対する研修等も実施している。
５−４.二国間関係
様々な機会を利用して各国のトップレベル同士での会談を実施している。二国間関係の施策としては、ASEAN6の全ての国（シンガポール・フィリピン・インドネシア・タイ・マレーシア・ベトナム）との間で特許審査ハイウェイを実施中であることや、 公報データの交換について合意に至っていること等が挙げられる。
加えて、カンボジア・ラオスとはCPG（特許の付与円滑化に関する協力）、ブルネイとはPPH+が既に開始されており、これにより特許審査体制やリソースが不十分な国においても、 日本の審査結果を活用して迅速な権利設定が可能となっている。
５−５.産業界への期待
どの国のどの法律の何条を改正して欲しいといった、知財分野におけるASEAN向けの要望を政府に共有して欲しい。また、ASEAN知財庁が参加する知財イベントでの登壇等、 ASEANに対する働きかけへの参画をお願いしたいと考えている。産業界が日本政府に対して働きかける際のタイミングとしては、間もなく制度改正が行われる時期・ハイレベル会合の準備時期・官民対話の時期等が効果的だと思われる。
６．閉会の挨拶
関西三業種合同部会の松本役員より閉会の挨拶が行われた。以上
関西金属機械部会（第2回）
| 時 | 9月14日（金）13:30〜17:00 |
|---|---|
| 所 | 見学・部会： オムロン株式会社 京阪奈イノベーションセンタ 懇親会：テバス高の原店 |
| 人 | 村上業種担当役員、馬場、上松、近藤 各幹事を含む
19社、22名 |
議 事
１．オムロン株式会社 京阪奈イノベーションセンタ（以下、センタ）見学
センタは東西200m、南北75mの敷地内に、幅120m奥行60mで地下1階、地上3階のオフィスを2003年から構える。派遣社員を含め400名が在籍する。建物内の照明はすべて間接照明で、 エアコン噴出口は床に設置されており近代的な建物である。まずセンタ内の会議スペース「協創エリア」にて、オムロン様の紹介ＶＴＲを視聴し、その後、2グループに分かれ、センタ内の実験室とＳ＆Ｃプラザを見学した。 センタの実験室では、3種類の装置を見学し、まず卓球ロボットを見学した。このロボットは、人と機械の融和をコンセプトに、対戦相手の卓球の能力を見定め、その能力に応じて返球するロボットである。 参加者が数名相手をし、参加者のスキルに応じたラリーが実演された。
次に、ドライバーモニタリング装置を見学した。車の運転者の視線をモニタリングし、居眠り運転や脇見運転をチェックする事故防止装置である。運転者が運転方向周辺の動体を目視したことを センサが感知すれば問題なし、と判断する。
最後に、製造現場における自動化装置を見学した。リアルタイムに異常を検知し、正常稼動までの時間を早める装置である。人の場合は異常時の事例を考慮した異常対策の作りこみが必要であるが、 本装置ではＡＩにてデータ解析し不具合を防止する。
Ｓ＆Ｃプラザでは、「笑う」「怒る」「驚く」の表情の推定や空間投影、制振制御のデモンストレーションを見学した。
実験室内にて最新状態の卓球ロボットの体感等、普段経験することが難しいことを体験できたので、参加者は皆興味深く見学された様子だった。
２．部会報告
村上業種担当役員より、年間の活動方針と活動日程の報告が行われた。今年度の活動方針を再確認し、今後の活動日程と場所、演題／講師について、第4回までの連絡と、未定であった第5回について報告が行われた。
３．講演
| 演題 | 「事業統合に伴う知財業務の取組みについて」 |
|---|---|
| 講師 | 株式会社ソシオネクスト 知財法務統括部 特許部 課長 川口 謙一 氏 |
■会社（株式会社ソシオネクスト様）概要
富士通株式会社とパナソニック株式会社の半導体部門がそれぞれ分割され、2015年3月1日に承継会社として統合され事業を開始。社員約2,800名。イメージング、コンピューティング、 ネットワークの高い技術に基づき半導体回路を設計。製造はアウトソーシング。■事業統合「前」（事業発足のための知財上の課題抽出、準備段階）に直面する諸問題
（１）企業再編の手法企業再編は、以下の4パターンに大別される。
�� パターン1：新設分割
＜例＞事業Ｃが独立
- 分割前
分割会社：事業Ａ、Ｂ、Ｃ - 分割後
分割会社：事業Ａ、Ｂ
設立会社：事業Ｃ
＜例＞事業Ｃが承継会社に移転
- 分割前
分割会社：事業Ａ、Ｂ、Ｃ
承継会社：事業Ｄ - 分割後
分割会社：事業Ａ、Ｂ
承継会社：事業Ｃ、Ｄ
＜例＞事業Ｃ同士が分離独立
- 分割前
分割会社1：事業Ａ、Ｂ、Ｃ
分割会社2：事業Ｃ、Ｄ、Ｅ - 分割後
分割会社1：事業Ａ、Ｂ
分割会社2：事業Ｄ、Ｅ
設立会社：事業Ｃ
＜例＞事業Ｃ同士が承継会社に移転
- 分割前
分割会社1：事業Ａ、Ｂ、Ｃ
分割会社2：事業Ｃ、Ｄ、Ｅ
承継会社：事業Ｄ - 分割後
分割会社1：事業Ａ、Ｂ
分割会社2：事業Ｄ、Ｅ
承継会社：事業Ｃ、Ｄ
（２）契約に関する諸問題
親会社の傘下から離脱するにあたり、企業再編の形態、契約の記載等によって、新会社に持ち込める場合と、持ち込めない場合がある。
契約内容によって、以下のように対応を分類し、見直す。膨大な時間と労力がかかるので、必要なら外部弁護士を利用する。
Ａ：特段の手続なく包括承継されるもの
Ｂ：第三者（相手方）の同意を得ることにより承継されるもの
Ｃ：第三者（相手方）と新規に契約を締結し直すもの
（３）知財に関する諸問題
１）知的財産の持ち込み
事業に必要な知的財産を新会社に持ち込む必要があるので、リストアップし親会社と交渉する必要がある。
２）知的財産の移転
移転作業は高額な費用、工数がかかるので、準備ができる案件から開始する。共願や国家プロジェクトなどの
取り扱いについては、契約の確認や事前の協議が必要である。
３）管理業務
独自に管理業務を行う場合、どのような体制で管理するか、早くから準備していく必要がある。
４）職務発明
お互いの会社の職務発明規程について意見交換をして、新会社ではどのような制度とすることが好ましいか、
方針を決めておく。
■事業統合「後」（事前に検討していたことを具体的に進める段階）に直面する諸問題
（１）知的財産の移転手続事前準備に基づき作業を開始するが、国内の知的財産については、一般承継や特定承継に留意が必要。件数が多い場合は特許庁へ事前に連絡することでスムーズに移転手続が進む。 海外の知的財産は、国ごとに必要な書類が異なるため、特許事務所との連携が不可欠である。
（２）知財管理業務の立上げ
１）管理業務
専任者を割り当て、システム導入と並行して業務フローを構築する。文化の違う会社の統合なので、業務の
流れを文書化（規程策定）して統一化した業務とすることが大事である。
２）システム導入
ポートフォリオの大きさ、人員数などを考慮し、どのような管理手段を採用するか検討する。特許管理システム
導入は1年半から2年程度かかるので、会社発足時からシステム稼働までの 間の管理方法の検討も必要で
ある。
３）アウトソーシングマネジメント
アウトソーシングを検討する業務として、出願・権利化業務（明細書作成、中間処理等）、調査業務（先行特許
調査、動向調査等）、維持管理業務（審査請求、年金納付）、 新人の知財教育などがある。しかし、何を重要
視するかでアウトソーシングする業務は異なってくる。知財活動方針、ポートフォリオの大きさ、人材、工数、コス
トなどを考慮して決定する。
４）年金管理
年金は知財部門の費用比率が高いので、権利維持に関してしっかりと方針をたてて管理していく必要がある。
事業統合は、知財費用を圧縮するには良い機会となり得る。国内年金は 手続が整備されているので、社内
処理が望ましい。海外年金は年金管理会社の利用が好ましい。
（３）社内の知財活動体制構築
経営、事業、知財との三位一体の体制作りをするため、まず社内委員会を設置すると知財部門の組織体制を構築しやすくなる。また、知財活動方針の設定については、知財部門の発足時は
発明創出が低調なので、できるだけ早く活動を活性化させるべきである。なお、職務発明、及び、輸出入管理体制（第1国出願義務を課す米国、中国等）には注意すべきである。
（４）規程類策定
企業として内部統制は絶対に必要であるが、知財も例外ではない。上述してきた管理業務、社内体制などがすべて社内規程として必要なものであり、検討と同時に策定する。
■まとめ
- 文化の違うメンバーから構成される知財部門をスタートする場合、早い段階から意見交換を行い、新しく構築する活動体制、管理業務などについて構想していくということになる。
- 親会社からの独立は不安な面もあるが、自ら理想とする知財業務を構築することができる機会となり得る。未経験の領域へチャレンジしなければならないので、大きくスキルを向上できる機会でもある。
■質疑応答
講演終了後、質疑応答が多数成された。本テーマに対する参加者の関心の高さを実感した。４．懇親会
見学、講演の後、懇親会を開催した。会員17名に加え講師の川口様、会場提供会社のオムロン株式会社様にもご出席頂き、幅広く意見・情報交換を行い、会員相互の親睦を深めた。以上
関西金属機械部会（第1回）
| 時 | 6月22日（金）13:00〜17:00 |
|---|---|
| 所 | 見学・部会・懇親会：理化学研究所 放射光科学研究センター 大型放射光施設SPring-8、SACLA・普及棟中講堂会議室・江戸屋 |
| 人 | 村上業種担当役員、馬場、上松、近藤 各幹事を含む
21社、25名 |
議 事
１．大型放射光施設SPring-8、SACLA見学
まず会議室で施設の紹介ビデオ及び概要について理化学研究所様からご説明頂いた。その後、�‖膩進�射光施設 SPring-8、および、��X線自由電子レーザー施設 SACLA の順に見学した。��SPring-8はSuper（超高性能の） Photon（光の粒）ring（円形加速器＝蓄積リング）-8 GeV（8ギガ電子ボルト＝80億電子ボルト）の略である。昭和63年（1988年）10月に日本原子力研究所 （原研）と理化学研究所（理研）が大型放射光施設研究開発共同チームを設立して以来、今年で20周年となった。
SPring-8は加速された高エネルギー電子ビームから発生する放射光を利用して実験・研究する施設である。SPring-8は直径500mのドーナツ状の建物であり、建物内部を電子ビームが高速で回転し、 コーナーで電磁石によりビームの進行方向を中心側に曲げた際に接線方向に放射光が放出されている。この放射光をビームラインと呼ばれる装置から取り出して様々な実験を行う。 ビームラインは建物内部で放射光が回転する円周に沿って直線状に48本配置されている。24時間体制で稼動し、基礎研究や企業の製品開発への応用など、多種の分野に利用・応用されている。
実験結果を公表する場合の使用料は無料となるが、公表しない場合は、1時間あたり6万円（48万円／8時間）の使用料が必要である。国の管轄下であるが、ビームラインを貸切状態にしている企業もある。 世界的にみても希少な施設であり、国内のみならず海外からも大学・研究機関・民間企業等が利用している。
��SACLAは平成17年（2005年）4月から国内650社が参加して建設され、平成24年3月から供用を開始した。X線自由電子レーザー（X-ray Free Electron Laser : XFEL）と呼ばれるXFELを用いて、 原子や分子の瞬間的な動きが観察できる施設である。建物は700mの直線状で、400mの加速器棟、240ｍの光源棟、60ｍの実験研究棟で構成される。
加速器棟から高品質電子ビームをSPring-8に供給したり、SACLAのXFELとSPring-8の放射光を同時照射できる世界唯一の相互利用実験施設があり、この施設ではフェムト秒単位 （1フェムト秒は1,000兆分の1秒で、光が0.3μmしか進めない時間）で原子レベルを探索できる。
最も興味深かったのは、極めて大規模な施設で、極めてミクロな世界を探求している点であった。世界的にも珍しい研究施設を見学できたので参加者は皆満足された様子だった。
２．部会報告
村上業種担当役員より、年間の活動方針と活動日程の報告、今年度の幹事の紹介が行われた。今年度の活動方針は、「企業の知財総合力の向上に資する知財情報の提供と、企業間交流の活性化」を基本方針とし、(1)「グローバル戦略から日々の知財戦術までにわたる幅広く有用な情報提供による会員の知財力」、(2)「業種・世代・性別を超えた人的交流の促進による企業間交流の活性化」を進める。また、5回の内第4回までの活動日程と場所、演題／講師の報告が行われた。
３．講演
| 演題 | 「知財訴訟における立証の工夫〜証拠収集に際しての留意点〜」 |
|---|---|
| 講師 | 弁護士法人中央総合法律事務所 弁護士 加藤 幸江 氏 |
■知財紛争処理手段
知的財産戦略本部等において、特許侵害訴訟では侵害者に証拠が偏在している傾向にあり、権利者の立証が困難であるとし、�‥�切かつ公平な証拠収集手続、 ��適切な損害賠償額、�８⇒�の安定性の向上、について議論すべきとの方向性が認識され、これを受け産業構造審議会特許制度小委員会において議論されてきた。 平成29年3月30日 産業構造審議会知的財産分科会 特許制度小委員会が「我が国の知財紛争処理システムの機能強化に向けて」を公表した（特許庁は4月に概要を発表）。この中では、以下を目的としている。
- 適切かつ公平な証拠収集手続の実現
侵害の立証の困難性、被疑侵害者の営業秘密の保護、証拠収集制度の濫用防止等を踏まえて、�．ぅ鵐�メラ手続の活用、�� 第三者の技術的専門家の活用、を提言 - ビジネスの実態やニーズを反映した適切な損害賠償額の実現
まずは上記１にいう証拠収集手続の強化から始める - 権利付与から紛争処理プロセスを通じての権利の安定性の向上
特許権は一定程度安定していると評価
産業構造審議会知的財産分科会 特許制度小委員会は、平成29年12月26日に、「第四次産業革命等への対応のための知的財産制度の見直しについて（案）」を発表し、証拠収集手続の強化として、 下記を提言した。
- 書類提出命令の必要性判断におけるインカメラ手続の導入
- 訴え提起後における公正・中立な第三者である技術専門家の関与
- 訴え提起前において、第三者の技術専門家が執行官に同行する制度
■我が国訴訟の基本姿勢
我が国の訴訟は、原告（訴訟を提起した側） 対 被告（訴訟の相手方）の対立構造であることと、弁論主義（裁判の基礎となる「事実と証拠の収集・提出」を当事者の責任とする主義）が基本姿勢である。訴訟における最初の書面である「訴状」の請求原因に記載された事実について、被告は認否を行う。具体的には「認める」「否認する」「不知」である。ここで「認める」と答弁した事実については、 原告による立証の必要性は無く、裁判所は「当該事実は争われない」ということで、その事実を前提に判断するので、被告は「認める」と答弁する場合は、事実を厳密に特定して行うべきである。
■特許訴訟における特徴〜 2段階審理 〜
特許訴訟では通常の訴訟とは異なり、2段階審理となっている。第1段階として侵害論が審理され、侵害と認められた場合に、第2段階として損害論の審理に移る。損害論の審理に関して、 東京地裁知的財産権部が公表する「特許権侵害訴訟の審理モデル」では、3回程度の弁論準備期日を想定している。また、知財に関する仮処分の申立においては簡単に決定を出すことはなく、 本訴を審理し、侵害の蓋然性が高い場合に申立認容の仮処分決定が出される。■主張と立証
主張には「要件事実」と「間接事実」がある。「要件事実」とは、原告側の場合は法律効果が発生するために必要な事実であり、被告側の場合は法律効果の発生を阻止乃至消滅させるために必要な事実である。 「間接事実」は、要件事実の存在を基礎付ける事実である。立証は「証拠」に基づいて為されるものであり、「証拠」には、要件事実の存在を基礎付けるための判断資料としての直接証拠と、間接事実の存在を 基礎付けるための判断資料としての間接証拠がある。「証拠の種類」としては「証拠書類」「証拠物」「人証」がある。■特許訴訟における主張（原告）〜請求の原因〜
差止請求の場合、原告は、�仝狭陲諒殕�する特許権、��被告の行為、�Ｈ鏐霎宿覆旅柔�と作用効果、�と鏐霎宿覆砲茲觚狭霪探�権の侵害、を主張する。また、損害賠償請求の場合は、 �仝狭陲�蒙った損害（損害額の推定・特102条）、��過失の推定（特103条）を主張する。■特許訴訟における主張（被告）〜抗弁等〜
被告の主張等としては、�／�害行為の否認、�∪荵藩儻◆↓�消尽、�じ⇒�濫用、�ゾ談濃�効、�ζ探�権等の無効がある。この中で、�，聾狭陲亮臘イ紡个垢詒鏐陲療�弁であり、�△�ら�Δ蓮� 抗弁事由として被告が立証する必要がある。＜質疑応答＞
［質問］公然実施と先使用権を主張する事例の場合、裁判所に対し先にどちらの主張を審理するかリクエストできるか。
［回答］リクエストできるが、原告の主張が複数ある場合にどれから判断するかは裁判所の裁量で決められる。一般的には公然実施よりも先使用権についての審理がしやすい （証拠に基づく判断がしやすい）。原告を負けさせるには、どの抗弁に基づく判断でもよいのであり、被告の主張についてすべて判断しなければならないものではない。
■原告の立証−差止請求
原告は、保有する特許権として特許公報を提出する。被告の侵害行為（イ号）を特定する必要があるが、特定が困難な場合も少なくない。証拠保全を申し立てる、協力者の協力を得て侵害品を入手する などの工夫が必要である。また、写真・証拠物・陳述書等を用いて被告の行為を立証する。最近では、ビデオ等の動画を証拠として提出する事例が増加している。■原告の立証−損害賠償請求
原告が蒙った損害についての立証は、請求額の根拠として何を主張したかによる。特102条は下記3種類の損害の額の推定規定をおいている。��1項 侵害品の譲渡数×権利者が得たであろう利益の単位額
��2項 侵害者が得た利益
��3項 ロイヤリティ相当額
それぞれの推定規定における立証では下記の問題点がある。
�仝⇒�者の利益の単位額の開示と営業秘密の問題
�∩蠎蠅�得た利益の額をどのように立証するか
��ロイヤリティの参考となる資料が見つかるか
なお一般的に�，粒曚茲蠅皚△粒曚�多いので、�，了残蠎阿�規定された当初は�，鮑陵僂垢觧�例があったが、この場合は自社の原価や利益額等の秘密情報を開示して立証する必要があるため、 �△了残蠎阿鮑陵僂垢詈�が多い。
■原告の立証−損害賠償請求〜損害額の立証〜
102条2項による算定式を用いる場合、侵害者たる被告の手元にある貸借対照表、損益計算書、売上帳、仕入台帳、個々の取引に関する注文書、納品書、売上伝票等が損害額立証の資料となる。資料の証拠化の手段としては、�’ぐ娚�示、�⊇駑狡鷭侈仁瓠米�105条1項）、�７彁惨嫩蝓米�105条の2）が挙げられる。
秘密情報に関しては、�．泪好�ング、��閲覧制限の申立（民訴92条1項）、�Ｈ詭�保持命令（特105条の4）が挙げられる。
■原告の立証〜 書類提出命令 〜
特102条2項（損害賠償額の推定）の立証方法として、特105条1項の書類提出命令が考えられる。要件は下記の通りである。- 当事者の申立により
- 当事者に対し
- 必要な書類の提出を命じることができる
■被告の立証
被告の反論としては、上述したとおり�／�害行為の否認、�∪荵藩儻◆↓�消尽、�じ⇒�濫用、�ゾ談濃�効、�ζ探�権等の無効が挙げられる。�，砲弔い討話韻法嵌歿Г垢襦廚箸いε�弁ではなく、 どこがどう違うか説明する積極的否認を求められる。�△砲弔い討聾綵劼垢襦���から�イ砲弔い討蓮⊆臘イ靴浸�実を根拠づける証拠を提出する必要がある。�Δ砲弔い討蓮¬妓�理由を証明する証拠 （新規性、進歩性欠如事由等）を提出しなければならない。■被告の立証−�∪荵藩儻△領�証
先使用権は特79条に規定されている。出願より前に実施あるいは事業の準備をしていたとの立証のために、関連書類を以下に留意して保管するとよい。
- 保管状態を写真やビデオ撮影しておいて、保存状態を証明できるようにする→書類が黄ばんでいないなどとして、作成日付が特許出願より前だという被告の主張は疑義があるなどと反論されて、 立証に不毛な労力を使うことがある。書類自体はきれいだがそれを保管していた段ボールは古いことが明白な状態とかネズミの糞が落ちていた状態など、現状を裁判所に理解してもらうために映像を駆使する。
- ルーズリーフ等簡単に一部を外すことができる体裁の紙に記録を記載するのではなく、はずしにくいノート類で情報を保存すると証明力が向上
- 筆記具は必ずしも同一である必要はなく、自然体でその時々に応じて変えてよい
- 公証役場で確定日付をとったものは、当該日付の時に当該情報が存在していたことの証明力が高く、その内容が先使用権の証明に資するものである場合は特許権侵害の裁判に発展しないことが多い
■証拠としてのアンケート
商標の周知性（商標の先使用権）、類否（商標）、混同（不競法）に関する立証において、アンケートの活用が有効となる場合がある。立体商標登録の事例としては、ヤクルト容器、キッコーマンの醤油瓶が例示される。キッコーマンの醤油瓶の事例では、アンケートを実施して、当該容器の区別性を立証して登録に至った。
標章の類否判断の証拠としてのアンケートの事例として、東京地裁平成8年3月31日判決が挙げられる。被告提出アンケートの質問の文言やタグ等の提示の方法等を検討して、原告提出のアンケートと 異なり類否についての十分な資料となり得ないと判示された。この事例では、被告のアンケートは広告代理店が作成しており、原告と被告の係争対象物を回答者に混同させやすい質問内容であった 模様である。公明正大な質問事項で複数回アンケートをとることが重要であろう。
■アンケート収集時の留意点〜不実証広告規制に関する指針を参考に〜
不実証広告規制に関する指針として、平成15年10月28日 公正取引委員会が公表し、平成28年4月11日に消費者庁が一部改正した「不当景品類及び不当表示防止法第7条第2項の運用指針」では、 アンケート対象者の選択、収集場所の選択、アンケート数について等がのべられており、アンケートを取る場合の参考になる。■質疑応答
講演終了後、活発な質疑応答が成された。講演内容は非常に内容の濃いものであり、参加者が実務を行う上で大変参考になるものであった。
４．懇親会
見学、講演の後、懇親会を開催した。会員18名に加え講師の加藤氏にもご出席頂き、幅広く意見・情報交換を行い、会員相互の親睦を深めた。以上
