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会務報告&部会報告
関西電気機器部会（第５回）
| 時 | 2019年2月1日（金）13:30〜19:00 |
|---|---|
| 所 | ・講演会：柏原市立市民プラザ ・見学：河内ワイン ・懇親会：河内ワイン |
| 人 | 役員：松本（ダイキン工業） 幹事：坂口（アイコム）、柴原（タツタ電線）、長尾（ローム） 講師１名、 他３６名 合計４１名 |
議 事
1. 講演
| 演題 | 『ナブテスコ知的財産経営戦略におけるＩＰランドスケープの実践』 |
|---|---|
| 講師 | ナブテスコ株式会社 理事 技術本部知的財産部長 兼 ナブテスコＲ＆Ｄセンター長 菊地 修 氏 |
1981年 東京芝浦電気株式会社（現株式会社東芝）入社
多数の事業分野における知財戦略業務を担当すると共に、知財訴訟や知財リスク管理等の知財法務を担当。東芝ソリューション株式会社 知的財産担当部長、株式会社東芝 知的財産権法担当部長等を歴任。
2007年 株式会社ＡＣＣＥＳＳ入社
知的財産部長、情報システム部長。
2012年 ナブテスコ株式会社入社
技術本部知的財産部長として会社のグランドビジョン実現に向け知財経営戦略を推進し、、2018年からは理事ナブテスコＲ＆Ｄセンター長も兼務。
講演概要
１．はじめに
知的財産経営戦略における環境分析（マーケティング）の手法としてＩＰランドスケープをどのように活用しているかについて紹介いただいた。２．ナブテスコについて
帝人製機とナブコが2003年に統合して出来た設立15年の会社で、 モーションコントロールの部品などでグローバルなニッチトップの会社。主な製品として、ロボット用の減速機、パワーショベル用走行ユニット、 新幹線のドア、ブレーキやスタビライザー、及び船舶のコントロールパネルやエンジン制御のバルブ機構などについても紹介いただいた。
特に青色で縁取った商標が付された自動ドアは、ナブテスコの自動ドアである。
ご講演頂く知財経営戦略やＩＰランドスケープの事業戦略への活用により、2018年度の知財功労賞の経済産業大臣賞を受賞されている。
３．ナブテスコの知財経営戦略
安全・安心・快適の追及という企業理念の下、知財経営戦略を会社の�〇�業競争力を高め、�⊆�益性を向上させ、�４覿伐礎佑鮃發瓩覲萋阿醗銘嵒佞院�知財活動として、企業のコア価値の獲得を強化する 知財経営戦略体制の構築（経営者型知財活動）、ＩＰランドスケープを活用した事業戦略の指導(経営コンサル型知財活動)、ノウハウ保護と知財網構築の知財武装戦略の徹底（知財管理型知財活動）を実践し、 これが先に説明した知財功労賞を受賞した理由にもなった。４．経営者型の知財活動
ナブテスコの中期計画では、３本柱として�／兄埔譴粒容澄↓⊃靴燭淵愁螢紂璽轡腑鵑料和ぁ↓�収益・効率性の向上を掲げている。それに対応する知財活動としては、ＩＰランドスケープや４Ｃ分析等による市場調査や知財創造により「市場拡大」を実現し、コア価値の保護強化を図ることで「競争力を強化」し、知財の事業への活用や 模倣品対策によって「収益確保」を図ることを目標としている。
経営に関わる活動を行うには、従来の下請け的な知財活動から企業経営をリードする知財戦略体制への変革が必要である。
全社知財戦略の審議には、知財部長が主催し、ＣＥＯ、技術本部長、各管掌役員、各カンパニー社長等が参画する。また、全社知財戦略に基づく横串組織として、本社全部長と、各カンパニーの企画を 担当し知財強化責任者である計画部長等で組織される知財強化委員会が設けられている。
また、新事業・新技術の知財創造の活発化と創造人材の育成を目的として、知財創造活動でカンパニーの業績評価も行っている。具体的には、各カンパニーにコア価値強化計画に即した知財活動の目標を 設定させ、その達成状況に応じて知財部が業績評価を行っている。
５．経営コンサル者型の知財活動
会社全体の「グローバルに成長し続けるベストソリューションパートナー」という長期ビジョンに対して各カンパニーが事業競争力拡大の目標を作り、これに対して会社の経営企画を担う企画部と知財部が 一緒になってコア価値の獲得強化計画と知財戦略を作る。更に各部門でも自分たちの価値について棚卸しをして競合との分析を行い評価し、コア価値を見極めて強化を行う活動を知財活動として行う。
顧客に買ってもらえるのは何らかの価値があり、競争力は製造や販売などのノウハウ、サービスのノウハウがコア価値として重要になる。
ナブテスコのカンパニー側での知財戦略の目的と活動内容として、
�，�客の事業と製品を守る
��競合との競争にかつ
��パートナーとのつきあい
という切り口から紹介いただき、知財戦略会議でカンパニーの事業の方向性とコア価値の分析により、技術・生産・保守などの洗い出しから、知財と一緒に考えるのがカンパニーの 知的財産活動になり、発明者分析や品質・ノウハウの保護など、コア価値の見える化をして知財クリアランスなどの活動を実行していくのが、知財コンサル型であると説明いただいた。
６．IPランドスケープの実践活動
2017年７月17日付けの日経新聞で自動車部品会社の買収にIPランドスケープを活用したことが大きく紹介された。ナブテスコでは、ＩＰランドスケープは、「グローバル市場における知財情報を分析し、 顧客ニーズや技術動向、プレイヤ状況等を多角的に洞察し、製品の新市場や新用途探索、新事業・新製品の開拓、事業連携やＭ＆Ａ候補の探索等を行い、事業競争力・経営体制を強化し、企業価値を向上 させるもの」と定義されている。特に新規事業やＭ＆Ａではその威力を発揮し、知財部が、ＩＰランドスケープを活用して、新事業テーマやM&A候補の探索や評価を行い、その実行にている。関与している。
技術的側面でみれば、もっと良い技術を持っている会社を見つけたり、現在の付き合っている会社の技術力などを再評価している。具体例として、洋上風車システムでの活用事例を説明された。 ２０万件を対象として、まずマクロ分析をして、切り口を絞ってからミクロ分析していく手法を取り、そうすると検討しているテーマに様々な観点の課題が見え、コアを持っている会社が見えてくる。 また、発明者の研究履歴などを含め、分析手法とその活用についても紹介いただいた。事業に役立てるためにＩＰランドスケープは如何にすれば良いかは、事業部門等から何をやりたいこと、不安に 感じていることを議論し、事業部門が感じている肌感覚とすり合わせるが必要との説明をいただいた。
７．知財管理者型の知財活動
第４次産業革命は、機会とＩＴが融合するもので、ＩＴを介して機械と機械のコミュニケーションがなされるようになる。そうなると、第２次産業革命の際は機械（ハード）が中心で知財では特許が 重要であったのが、著作権やデータ等が重要になってくる。これからはエッジやプラットフォーマーなどにおける特許の出し方が重要になると考えられ、欧米先進企業の特許取得事例を解説し、技術的な進歩性がが高くなくても先に出して広い権利を取ってい る事例を紹介いただいた。
また、ナブテスコにおけるノウハウ戦略にふれられ、開発の成果は、原則すべて秘密情報としてノウハウ化し、特定の条件を満たす場合のみ出願していることを紹介いただいた。
また、中国などにおける先使用の証拠を確保するための対応や、特許については出願する際にマップを作成して特許ポートフォリオを見える化していることについても説明いただいた。
今後の知財部とは
これからの企業経営はマーケティングが重要といわれている。現在のカンパニーの事業強化や撤退、Ｍ＆Ａ、Ｒ＆Ｄやジョイントベンチャーとの提携などの戦略をＩＰランドスケープにより考えていくのが知財の経営戦略になる。
これから企業の技術経営で求められるミッションは、�／卦蚕僂粒�発、��技術の獲得（オープンイノベーション）、��人財育成であり、これらは、ＩＰランドスケープを活用して、市場の技術環境、 顧客の課題、オープンイノベーション相手を調査分析し、ソリューションの事業企画を実行すれば見えてくる。
特に、新技術を作るには、マーケティングによってお客の将来をイメージすることが必要となり、そのイメージに対して自分たちのコア価値で足りるか否かを明確にし、足りない部分について
オープンイノベーションをしていく必要があり、その際にＩＰランドスケープが大きな役割を発揮する。
事業活動の全てにおいて知財戦略を実行する必要があり、このためナブテスコ知財部では、全社の知的財産を創造企画し、集中管理し、事業活用して利益貢献するために活動しているとの紹介をいただいた。
最後に知財部は、出願やその件数を成果とするのではなく、経営戦略を指導し、その成果として売上げや利益が上げることを成果とすべきであり、経営と一緒に事業をそだてる参謀になるのが知財の役割と 考えると紹介いただいた。
質疑応答
Ｑ１：調査結果について、同じデータを調査しても事業部が欲するポイントが見える人と見えない人がいる。知財部が調査結果を事業部に見せても役に立ててもらえないことも多い。出てきたデータを見れる知財マンを如何育てているか？
Ａ１：知財部には答えが無い。事業部に答えがある。このため、事業部が、事業をどうしたいか？や、こういう客がいるがどのような課題があるのか？、インドでの顧客や競合の状況はどうか？ などを聞いてくるので、事業部と対話し、知財部で必要な情報を調査・分析し、その結果を事業部を、コミュニケーションすることにより再度調査分析を繰り返し行い、事業貢献できるように話をしていくのがいい。
Ｑ２：ノウハウが重要ということだが、ノウハウか特許にするかは、他社が気付かないなどの基準をもっているか？
Ａ２：基本は、秘匿。特許を出すのは、こういうものとを出すと評価基準を決めている。 この基準によれば競合が思いつく可能性があっても原則は秘匿にするケースが多い。日本企業の競争力低下の要因の 一つには、特許の出しすぎがあるのではと感じており、出願による情報公開は戦略的に考える必要がある。
２．部会報告
松本役員から今年度の部会活動計画と、新役員、幹事の紹介があった。３．見学
河内ワインにて、ワイナリーの見学を行うとともに河内ワインの歴史について学んだ。また、ソムリエによるワインセミナーを受講した。
４．懇親会
講演・部会報告の後、懇親会を開催。講師の菊地様にもご参加頂き、講演内容を元にした意見交換を行い会員相互の親睦を深めた。
以上
関西二業種合同部会
| 時 | 2018年12月7日（金）14:30〜16:30 |
|---|---|
| 所 | 部会： 住友クラブ多目的ホール 懇親会：住友クラブ洋室５号 |
| 人 | 松本、村上各業種担当役員、柴原、坂口、長尾、馬場、上松、近藤、各幹事を含む
60社、66名 |
議 事
1. 講演
| 演題 | 「オープン＆クローズの戦略思想を必要とする時代の到来」 ＝ＩｏＴ時代の知財・法務をどう方向付けるか＝ |
|---|---|
| 講師 | 東京大学 政策ビジョン研究センター シニア・リサーチャー 小川 紘一 氏 |
講演概要
（１）100年に一度とも言うべき大規模な産業構造転換
18世紀末頃、イギリスを中心に第一次経済革命が起こった。その背後で、所有権や知的財産権などの権利制度・法体系が定着し、効率的な経済組織が広がっていた。 これがイギリスで蒸気機関など経験（職人技）の産業化がはじまった理由である。その100年後の19世紀末になると、ドイツやアメリカを中心に、少し遅れて日本でも、第二次経済革命が発生した。その特徴は科学者が発見した自然法則を活用して 可能になった新技術の産業化であり、代表的事例として電機事業や化学事業が挙げられる。その背後で、アメリカ、ドイツ、日本などが知的財産権を保護する法制度が整備されていた。
更にその100年後の20世紀末から全世界で第三次経済革命が生じたが、その背後で1980年代にソフトウエアへ知的財産権を付与する法制度が整備されていた。 ここからプログラム言語のような人工的な論理体系で開発されたソフトウエアが大規模に産業化されていった。アメリカがＩＴ産業のリーダーになった背景がここにあったのである。
このように、いま起きていることは、100年に一度とも言うべき経済革命である。その特徴として下記3点が挙げられ、ＩｏＴ時代はこれらがほぼ全ての産業で出現する。
�� グローバル市場がビジネス・エコシステム型に変わり、差異化や利潤獲得など価値形成のメカニズムが一変する。
�� 価値形成の場（利益を生み出す場）がモノ／Ａｓｓｅｔ空間とサイバー空間との2つに機能分離して産業が変わり、
価値形成のメカニズムが更に変わる。
�� データが価値形成を先導し、市場構造や競争ルールが人間の意志で事前設計できるようになる。ここから価値
形成のメカニズムが更に大きく変わっていく。 したがって知的財産のマネジメントも契約のマネジメントも価値形成
のメカニズム変化に合わせて変えなければならない。
（２）エコシステムの中で新たに生まれた知財マネジメントと契約マネジメント
エコシステム（本来は生物学における生態系を意味するが、産業構造で言えば多くの企業の協業によって価値を作り出し広げていく態様）では、その構造と競争のルールを 自社優位に事前設計できる企業が市場支配力を持つようになる。そのためには、オープン＆クローズ戦略と伸びゆく手を形成する、というこれまでと全く異なるビジネスモデルから知財マネジメントや契約マネジメントを再構築しなければならない。 オープン＆クローズ戦略の本質はエコシステムの中の“伸びゆく手”を構築することであり、これを背後で支えるのが知財と契約のマネジメントである。
例えばＰＣにおいて、インテルではチップﾟセットの中身（ＭＰＵ、とＭｅｄｉａ Ｃｏｎｔｒｏｌ Ｈｕｂとの関係、Ｍｅｄｉａ Ｃｏｎｔｒｏｌ ＨｕｂとＩ／Ｏ Ｃｏｎｔｒｏｌ Ｈｕｂの関係）について一切秘密にする（クローズ）。その一方で、自社特許を刷り込ませたインタフェース（ＩＦ）とプロトコルをライセンスする。 このライセンスに基づく特許が必然的に必須特許となる。ここで、パートナーが上記のＩＦとプロトコルを改版すると契約違反で脅す。ただし、インテルが関連する 知財を持っていない領域、例えばＵＳＢメモリなどでは、オープンなコンソシアムを形成して標準化させ、知財を全てオープン化させる。誰でも自由に使わせて、 多くのパートナーを呼び込むことで（自由競争）、全てのパートナーはインテルの「伸びゆく手」から逃げられないようにする。従って、オープン化が普及するほど ネットワーク効果が産まれ、インテルのみが儲かる仕組みとなっている。材料メーカーにもインテルモデルと類似のネットワーク効果を狙った仕掛けが沢山ある。
また携帯電話の事例を挙げれば、1990年頃の欧州ＧＳＭ方式では、携帯電話の無線基地局やその制御装置の基幹技術だけ国際標準の規格から外す。したがって国際 ルールの対象にならず公開する義務を負わないので、その使用権を契約で縛る（＝市場支配力）。 その一方で、携帯電話本体の内部も外部も完全にオープン標準化し、国際ルールで公開。誰でも作れるようなってネットワーク効果が大規模に起きて普及するが、携帯電話 システム全体の結合ノードになる上記の無線基地局（クローズ領域）を使わないと携帯電話として機能しない。したがってオープン技術を使う世界中のメーカーは欧州の 仕掛けから逃げられない。技術で圧倒的な力を持つ日本の携帯電話が勝てなかった背景がここにあったのである。
以上のように、自社のコア領域に知財を集中させると同時に結合領域へ知財を集中させ、コア領域だけはクロスライセンスを徹底的に排除する（クローズ）。一方でコア技術の
用途を権利化しユーザに使わせる（オープン）。クローズとオープンの境界領域の知財を契約で公開することで「伸びゆく手」が形成される。
まとめると、オープン＆クローズ戦略には以下の三要素が必要である。
�．�ープン：自社以外の企業による投資でイノベーションを起こし、ネットワーク効果を創出（そのためにインタフェース
／プロトコルを標準化）
＊協業領域、市場の利用コストをゼロとし参入障壁をなくす。
＊競争相手になりそうな企業をエコシステムパートナーにする。
＊パートナー企業のイノベーション活用で短期に市場を拡大させる。
�▲�ローズ：自社の内部イノベーション（技術革新）＋知財マネジメント）
＊競争領域で常に差異化を産みだし、高い参入障壁を作って独占する。
＊その為に、自社内部で次々に技術イノベーションを起こす。
��伸び行く手の構築（ビジネスモデル＋契約マネジメント）
＊自社内部のクローズ領域からオープン市場へ向かう目に見えない「手」を設けることで、市場コントロールのメカニ
ズムを形成する。
＊ビジネス・エコシステム（バリューチェーン全域）の付加価値を取り込み、自社の企業価値を高める仕掛けを構築する。
エコシステム構造を自社優位に事前設計してネットワーク効果を創り出し、同時にエコシステムに向かう“伸びゆく手”を形成する。このビジネスモデルを知財マネジメントと 契約マネジメントで支える。これがオープン＆クローズ戦略の本質である。
（３）オープン化（技術伝播）からオープン＆クローズ戦略へ
1980年代までは、知の蓄積が時間的・空間的に外部から伝播してくることで技術が進歩するとされていた。このようなアカデミアの理論では人類社会全体への貢献が 重視されて技術伝播（オープン化）が正当化されており、企業による外部知識の取り込みプロセスもなければ知的財産権も無視されていた。しかしながらこの考え方は、差異化が必須の資本主義の基本原理に反する。また、差異化で利潤を追求する企業の存在を説明できない。これがアカデミアで語られた オープン化であったが、知財権を考慮しないオープン化思想が日本企業を苦境に陥れた。
例えば、1990年前後に日本企業の特許が世界の80％を占めていたにも関わらず、日本企業は1980年代のＩＢＭのパソコンと同じ厳しい経営環境に遭遇している。 日本の電機産業が直面した苦境はアメリカでもドイツでも起きていた。決して日本だけの問題では無かった。
1990年代から産業構造がビジネス・エコシステム型に変わり、日本の電機産業（ＤＲＡＭメモリ、太陽電池、液晶ＴＶ、カーナビなど）は、たとえ日本が60〜80％もの 知財を持っていても技術開発投資を回収できなくなっていたのだ。投資が回収できなければ日本でイノベーション連鎖が起きない。
ビジネス・エコシステムの進展が、アメリカでは1980年代末から、ヨーロッパでは1990年代中期から、日本では2000年代末から起きた。この時いずれの国でも大規模企業が市場撤退を繰り返した。
ＩｏＴ時代はエコシステムがサイバー空間へ広がる。従って過去の経験から学ばなければ多くの産業領域でもっと大規模に市場撤退が起きる。市場撤退を早く経験した欧米の 企業はすでに学び終えてＩｏＴ時代を迎えているが、2000年代に経験した日本企業はまだ学び終えていない。これが非常に心配である。
（４）ＩｏＴ経済環境の価値形成とオープン＆クローズ戦略
�＿礎遊狙�の場がサイバー空間へ移行2010年代になると、欧米だけでなく中国でも多くの企業がサイバー空間を価値形成の場と考えはじめた。その基本思想が“ＣＰＳ”（Ｃｙｂｅｒ Ｐｈｙｓｉｃａｌ Ｓｙｓｔｅｍ）である。サイバー空間とフィジカル空間は、イノベーションが機能的には分離しているが、データがサイバーとフィジカルを繋ぐことで新たな価値を生み出す。 ここで、サイバーとは、コンピュータが創る仮想世界、例えばクラウドやデジタルプラットフォームなどのシステムや3Ｄや人工知能などの技術モジュールであり、 アーキテクチャ思考を必須となるイノベーション領域のことである。フィジカルとは、手で触り、目で見えるモノの世界、すなわち現実社会であり、コンポーネント思考を 必要とするイノベーション領域のことである。
2010年代は価値形成の場が更に大規模にサイバー空間へシフトしはじめた。例えばＵｂｅｒやＡｍａｚｏｎでは、モノやＡｓｓｅｔ空間で価値を形成する既存ビジネス （コンポーネント思考）で発生するデータを活用し、サイバー空間で価値を形成させる新規のサービス産業（アーキテクチャ思考）を構成している。
�⊆�動車産業のゲームチェンジ
これまで自動車を利用する人は自動車メーカーから自動車を購入するが、ＩｏＴ時代になると自動車産業と自動車を利用する人との間にサイバー空間が介在し、
自動車を使う人や自動車の稼働情報をデータ化し、新たな価値をサイバー空間で形成する新規サービス業が発生している。
その代表的な事例がＵｂｅｒやＤｉＤｉである。彼等は配車、保険などを含めたＦｌｅｅｔなどの各サービスをクローズ領域にし、自動車側（現在はタクシー）を実質的にオープン化している。
将来、ＥＶの自動運転が普及すれば、スマートフォンによる配車が大規模に発生し、世界の自動車需要が大幅に減少すると想定される。無人タクシーが増えると人件費が 削減できるので、料金が有人タクシー料金の1／4〜1／10になるであろう。
以上のように、ビジネスの主導権がモノではなく、サイバー空間で価値形成されるサービスへシフトしていく。ここでは運転や乗車などの関するデータの所有権とアクセス権が重要となる。
��インダストリー4.0を支えるオープン＆クローズ戦略
ドイツのＩｎｄｕｓｔｒｉｅ4.0では、モノとサイバー空間を連動させる“ＣＰＳ”の考え方で価値を形成しようとしている。
2010年にドイツは、10年後にドイツの産業がアメリカのＤｉｇｉｔａｌ Ｐｌａｔｆｏｒｍに支配され、ドイツ製造業が中国に勝てなくなると予想した。
2015年頃からＲＡＭＩ4.0（Ｒｅｆｅｒｅｎｃｅ Ａｒｃｈｉｔｅｃｔｕｒｅ Ｍｏｄｅｌ Ｉｎｄｕｓｔｒｉｅ 4.0（ＲＡＭＩ4.0））をアナウンスし、サイバー空間による
価値形成を前面に出し、モノ／Ａｓｓｅｔ側へゲームチェンジを仕掛けようとしたのではないか。
事実ドイツは2016年頃から管理シェルのオープン標準化へ向かった。ここがオープン標準化されればモノ／Ａｓｓｅｔ側をＡＰＩとして扱うことが可能になり、モノ
／Ａｓｓｅｔの価値形成をサイバー空間へシフトさせることが可能になる。モノ／ＡｓｓｅｔをＡＰＩ化してサイバー空間へ誘導する仕組みができれば、モノ造り技術の弱い
アメリカＧＡＦＡへの対抗策になる。
日本企業はアメリカやドイツの後追いをする必要はない。ＧＡＦＡもインダストリー4.0も、日本企業の価値をサーバー空間で創る便利なツールを提供する集団と考え、
積極的に利用すればいい。この方向性を支えるのが、第一にデータはモノ／Ａｓｓｅｔから出るという事実であり、第二に日本企業には世界に誇る断トツのモノ造り蓄積と
人材があり、したがって第三にモノから出るデータへアクセスする優先権を日本企業が持てる、という事実である。
従って我われは、どうすればデータ利活用で主導権を取れるか検討しなければならない。特にモノ／Ａｓｓｅｔから出るデータ／サービスのＡＰＩ化に注力すべき。また差異化・
利潤特定のプラットフォームにロックインされない仕組みが漸く見えて来たので、これを積極的に活用しなければならない。
最後に再度繰り返すが、日本企業が製造業のサービス化を検討する場合は、データがモノから出るという事実を再度確認し、モノの所有権を持ってデータのアクセス権を獲得することが重要となる。
さらに日本企業は決してフルセット自前主義になってはならない。オープン＆クローズ戦略でパートナー企業とのビジネス・エコシステムを自社優位に構築して
ネットワーク効果を創り出す。これを踏まえたエコシステム型の統合モデルへ向かうべきである。このモデル設計では、まずコア領域を必ず自社内部に持ち、その具体化に
ＧＡＦＡやインダストリー4.0が提供する便利なツールを使えばいい。
これを使いこなせる人材を社内で養成する時間的な余裕が無いのなら外部から獲得しなければならない。知的財産や法務の人材も決して例外ではなく、大規模なエコシステムや
サイバー空間による価値形成など、ビジネスモデルを支える新しい知財マネジメントや法務・契約マネジメント人材が必須になったのである。
■質疑応答
講演終了後、活発な質疑応答が成された。講演内容は非常に濃く、参加者にとって大変興味深い内容であった。２．今後の部会日程
関西電気機器部会の今後の予定について、松本役員より説明していただいた。関西金属機械部会の今後の予定について、村上役員より説明していただいた。
３．懇親会
講演の後、懇親会を開催した。会員34名に加え講師の小川様にもご出席頂き、幅広く意見・情報交換を行い、会員相互の親睦を深めた。以上
2018年度 関西三業種合同部会
| 時 | 2018年10月26日（金）〜27日（土） |
|---|---|
| 所 | 【講演会】ＡＮＡクラウンプラザホテル宇部 東の間 【見学会】宇部興産株式会社 【懇親会】ＡＮＡクラウンプラザホテル宇部 西の間 |
| 人 | 【関西化学部会】 ・業種担当役員：皆川（東レ） ・幹事：早瀬（石原産業）、本田（シキボウ）、中馬（千寿製薬） 【関西金属機械部会】 ・業種担当役員：村上（山陽特殊製鋼） ・幹事：馬場（川崎重工業）、上松（東洋アルミニウム）、近藤（豊田自動織機） 【関西電気機器部会】 ・業種担当役員：松本（ダイキン） ・幹事：柴原（タツタ電線、）坂口（アイコム）、長尾（ローム） 講師２名、ＪＩＰＡ４名、他８０名 合計８６名 |
議 事
１．見学
宇部興産株式会社にて、２台のバスに分乗し、宇部地区工場群、興産大橋・ダブルストレーラーを見学した。 ダブルストレーラーは、40トンの積載が可能な荷台が、２つ連結されたトレーラーであり、日本最長の私道である宇部興産専用道路でクリンカー等を輸送するために用いられている。
また、総合案内施設「UBE-i-Plaza」にて、宇部地区工場群の全体像に関する解説を受けた。
２．関西部会
２−１．開会の挨拶
関西三業種合同部会の皆川役員から開会の挨拶が行われた。２−２．会務報告
関西事務所の志村所長より、配付資料に沿って会務報告が行われた。新たに正会員として２件の入会が承認され、賛助会員として東京大学が加入した旨の報告があった。
また、今月の関東部会で取り上げられた「特許ライティングマニュアル」（改訂版）が紹介された。当該資料は、Japioのホームページから無料でダウンロード可能であり、
文章表現に関して留意すべき７つのカテゴリと、細分化された27のルールで構成されている。
２−３．JIPA委員会等の活動紹介
宇部興産株式会社知的財産部の島野様（人材育成委員会委員、中国四国九州協議会幹事）より、配付資料「JIAP委員会等活動紹介」に基づいて以下の紹介が行われた。
人材育成委員会では、様々な研修を開催している。昨年度、参加者数の多かった研修は、知財の管理事務や、営業担当者・技術マネージャ向けの知財知識をテーマとするものであり、 知財部員のみならずそれ以外の方々の関心の高さもうかがわれた。
中国四国九州協議会は、中国・四国・九州地区における会員の知財活動の活性化を目的として企画を展開している。同協議会への入会条件は、JIPAの会員であることと、 中国・四国・九州のいずれかに知的財産を創出する事業所があることである。現在のべ52団体が入会しており、入会条件を満たす関西地方の企業からの入会を受け付けている。
３．講演１ （1日目）
| 演題 | 「宇部興産の知的財産活動について」 |
|---|---|
| 講師 | 宇部興産株式会社 知的財産部 部長 宮田 博之 氏 |
３−１．素材メーカー（化学）を取り巻く環境
石油化学や産業ガス等の基礎化学品分野で欧米企業に対して高い競争力を維持することが困難な中、機能性プラスティックやファインケミカルといった 機能性化学品分野の強化が重要性を増している。特に、ユーザーニーズを把握したうえでの戦略的な知的財産活動が求められている。３−２．宇部興産グループの概略
1897（明治30）年に創業した沖の山炭鉱と、その後に設立された宇部新川鉄工所・宇部セメント製造株式会社・宇部窒素工業株式会社とが合併され、 1942（昭和17）年に宇部興産株式会社が設立された。2018年3月末現在において、資本金は584億円であり、従業員数は連結で10799人である。
2017年度の連結売上高は6955億円であり、主な事業分野は、化学・医薬・建設資材・機械・エネルギー・環境分野である。その中でも、化学分野が売上シェアの約44％を占めている。
３−３．宇部興産グループの事業と知的財産活動
事業に活用できる特許を重視しており、事業ごとの特性を考慮し、保有特許の見直しを適宜行っている。その結果、2014年には350件を超えていた 新規国内登録件数が、2014年から2017年の間で新規国内登録件数が30％程度減少した。新規登録特許数の減少は、事業の縮小によるものではなく、適正化の結果である。出願の内容やタイミングの決定に際しては、常に事業の出口を意識し、知的財産部門と、事業部門・研究開発部門とで密にコミュニケーションを取り、判断している。
３−４．宇部興産グループの新規事業創出活動
今後志向する４つの事業ドメインとして、環境・エネルギー、モビリティ、建築・インフラ、ヘルスケアがある。新規事業創出に向けて、それぞれの分野で膨大な知財情報に基づき、自社の客観的なポジションや保有特許の評価を行い、関係部門へ結果を提供している。
３−５．宇部興産グループの海外対応と知的財産教育
タイ拠点においては、JETROバンコクと協力してタイ知財局への技術説明会を開催することもある。社内の知財教育は、新入社員・中堅社員・テーマ責任者の各レベルに応じて、自社の具体的な事例を題材とした教育を行っている。知財部員が講師を担当することで、 より質問しやすい雰囲気作りをしている。
各グループ会社の状況に応じた知財教育を行っているが、ＩＰマナー教育に関しては各社で共通した内容としている。
４．懇親会
講演１の後、ホテル内の別会場にて懇親会を開催した。多くの参加者にご来場頂き、闊達な意見交換、会員相互の親睦を深めることができた。５．講演２ （2日目）
関西三業種合同部会の松本役員による開会の挨拶の後、以下の講演が行われた。| 演題 | 「ASEANの知財概況」 |
|---|---|
| 講師 | 特許庁 総務部 国際協力課地域協力第一班長 袴田 知弘 氏 |
５−１.ASEAN概況
シンガポールでは比較的先進的な知的財産法が整備されているが、ミャンマーにはまだ知的財産法自体が存在しないなど、各国で抱えている課題は異なっている。フィリピン・マレーシア・シンガポール等の英語を使用できる国では、米国からの出願件数が最多である。他方、タイ・インドネシア・ベトナムでは、日本からの出願件数が最も多い。
５−２.対ASEAN知財政策の考え方
各国での異なる課題に対応するため、ASEANとの多国間協力と、二国間協力の双方が用いられている。多国間協力としては、ASEAN全体で取り組んでいる課題について、日ASEAN知的財産アクションプランを策定し、審査基準の策定等の支援をしている。一方、二国間協力では、 審査官の派遣や、ミャンマーでの知財庁設立支援など、各国の実情に応じた支援を行っている。
５−３.多国間関係
首脳レベルから事務レベルに至るまで、様々な階層を通じて各国への働きかけを行っている。首脳レベルの働かきかけの結果、2017年11月の日ASEAN首脳会議では、 議長声明に知的財産に関する文言が盛り込まれた。多国間関係の施策のひとつとして、日本国特許庁がASEAN各国から審査基準の策定や改訂に関与する人材を招聘し、研修を行っている。また、国際条約への加盟の支援や、 模倣品対策として取り締まり機関に対する研修等も実施している。
５−４.二国間関係
様々な機会を利用して各国のトップレベル同士での会談を実施している。二国間関係の施策としては、ASEAN6の全ての国（シンガポール・フィリピン・インドネシア・タイ・マレーシア・ベトナム）との間で特許審査ハイウェイを実施中であることや、 公報データの交換について合意に至っていること等が挙げられる。
加えて、カンボジア・ラオスとはCPG（特許の付与円滑化に関する協力）、ブルネイとはPPH+が既に開始されており、これにより特許審査体制やリソースが不十分な国においても、 日本の審査結果を活用して迅速な権利設定が可能となっている。
５−５.産業界への期待
どの国のどの法律の何条を改正して欲しいといった、知財分野におけるASEAN向けの要望を政府に共有して欲しい。また、ASEAN知財庁が参加する知財イベントでの登壇等、 ASEANに対する働きかけへの参画をお願いしたいと考えている。産業界が日本政府に対して働きかける際のタイミングとしては、間もなく制度改正が行われる時期・ハイレベル会合の準備時期・官民対話の時期等が効果的だと思われる。
６．閉会の挨拶
関西三業種合同部会の松本役員より閉会の挨拶が行われた。以上
2018年度 関東・関西合同電気機器部会（第2回）
| 時 | 2018年9月7日（金）〜 8日（土） |
|---|---|
| 所 | 【工場見学】 ＹＫＫセンターパーク 【講演会】 同上 【懇親会】 延対寺荘 |
| 人 | 【関東電気機器部会】
|
議 事
１．工場見学
YKKセンターパークにて、YKKグループの技術の歩みや歴史、創業者である吉田忠雄氏の経営理念や思想、等について学んだ。２．講演
| 演題 | 「YKK知財活動について」 |
|---|---|
| 講師 | YKK株式会社 知的財産グループ長 林 隆典 氏 |
講演概要
以下のアジェンダに沿って、ファスニング事業に係るYKK知財組織、具体的活動、課題についての説明が成された。（講演時間：50分）
��YKKグループ概要と知財組織について
�▲好薀ぅ疋侫．好福爾竜蚕囘�特徴
��YKKの事業上の特徴と知財活動（一貫生産体制、競合他社、顧客、YKKブランド）
�い修梁床歛�
※講演内容につきましては、YKK様のご意向により概略のみとさせていただいております。
３．懇親会
講演会終了後、延対寺荘に場所を移動して懇親会を開催した。講演内容を元にした意見交換を行うとともに、会員相互の親睦を深めた。以 上
関西電気機器部会（第1回）
| 時 | 2018年6月8日（金）14:00〜19:30 |
|---|---|
| 所 | 講演会：(株)アシックス 見学：アシックススポーツミュージアム 懇親会：アリストンホテル神戸１６Ｆバルセロナ |
| 人 | 役員：松本（ダイキン工業） 幹事：坂口（アイコム）、柴原（タツタ電線）、竹下（ローム） ４８社 合計６１名 |
議 事
１．株式会社アシックスご挨拶
知的財産部部長：齊藤 浩二 様よりご挨拶があった。２．講演
| 演題 | 『Ｍ＆Ａと知財デューデリジェンスの実務〜初めてのＭ＆Ａもこれだけ知っておけば怖くない〜』 |
|---|---|
| 講師 | デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社 執行役員 大阪オフィス統括パートナー 中道 規雄 氏 |
講演概要
２．１ 講師ご経歴
国内大手都市銀行を経て、２０００年に監査法人トーマツ（現、有限責任監査法人トーマツ）大阪事務所に入社。以来、Ｍ＆Ａアドバイザリー、デューデリジェンス、企業価値評価、 知的財産関連、再生支援業務などＭ＆Ａ全般にわたるプロセスの支援や不正調査業務にも従事し、経験多数。２．２ はじめに
Ｍ＆Ａは、これまで知財部が関与せずに進められるケースも多かったが、最近は知財部の関与が求められるケースが徐々に増えている。このような中でＭ＆Ａに直面した場合に、例えば用語 ひとつをとってもしっかりとした定義を理解していないと、誤った行動をとりかねない。守秘性もあるので、なかなか周囲にも相談しづらい中で、こういったことを知っておけば対処しやすくなる、 といった話を展開していく。２．３ デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリーの概要
デロイト トーマツ グループは、監査（会計）、税務・法務、コンサルティング、ファイナンシャルアドバイザリーの４つの分野の専門サービスを提供するプロフェッショナル・ファームである。 デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社（ＤＴＦＡ）は、このうち、日本におけるＦＡの分野で核となってサービスを提供している。リーグテーブルランキング（Ｍ＆Ａ案件に おいて証券会社などのＦＡ業務獲得実績ランキング表）において、ＤＴＦＡは、案件数ベースでは全体で第５位、会計事務所系で第１位となっている。２．４ Ｍ＆Ａとは
Ｍ＆Ａで重要なのは、自社に無いものを取り込む、もしくは時間を買うなどそもそも何のために買うのか、というところである。しかし、検討を進めていくうちに、ややもするとＭ＆Ａ自体が 目的化してしまうケースに陥りやすいが、この目的を見失うと本末転倒である。「何のために」という点を常に念頭に置いておく必要がある。２．５ ストラクチャー
Ｍ＆Ａは、１）目的、２）買いやすさ、３）買収対価および条件、４）リスクを考慮して判断していく。Ｍ＆Ａを行う上で、何が欲しいか、何はいらないか、顕在・潜在しているリスクを 明確にして、最適なストラクチャー（例えば、会社単位で必要なのか、特定のビジネスなどがほしいのか、特許だけ購入すれば目的を達成できるのか等）を見極める。そういったことを、 プロセスの途中もさることながら、事業購入を進める前に予め検討しておく必要がある。また、ストラクチャーの違いで税務の取扱も異なることから、税務が非常に重要な位置づけを占める。２．６ Ｍ＆Ａのプロセス
フェーズ０は、Ｍ＆Ａの戦略を検討するフェーズである。事業ビジョン・戦略の確認、スクリーニング計画の立案・候補企業の選定・分析をし、相手方にコンタクトを行う。以前と異なり、 最近は買収のコンタクトを受ける相手方はむしろウエルカムな状況であることが多い。特に創業オーナーの場合には、（売ってくれるかどうかは別として）自分の会社をどのように評価されて いるかに非常に関心が高い。条件次第で売っても良い、という流れになると、フェーズ１に移行する。フェーズ１は、基本条件交渉を行うステージである。ＮＤＡを結んでスタートし、初期的ＤＤ（デューデリジェンス）を実施する。この際、ある程度の情報を含む資料を取得する必要がある。 なお、売り手の立場からは、初期的ＤＤで買い手候補が１社のみとなった場合でも、交渉を優位に進めるために、複数社残っているように振る舞うことが多い。
フェーズ２に進むと、最終条件交渉のために、詳細なＤＤを実施する。よほどの売り手市場でなければ、ある程度の情報を提供してくれるケースが多い。この詳細なＤＤを経たのち、 条件等を詰めて最終的な契約を結ぶ流れとなる。
フェーズ３として、クロージングを行う。
以上のフェーズの中で特に重要なのは、フェーズ０である。フェーズ０での検討や判断が不十分だと、失敗するケースが多い。
また、フェーズ３の後、購入後の対応も重要である。フェーズ２が終了すると、Ｍ＆Ａ部門が事業部に丸投げするケースもあるが、買収後のスムースな立ち上げを図るには、 クロージング前後で買収対象企業と十分なコミュニケーションをとっておくことが重要である。
２．７ デューデリジェンスとは
デューデリジェンスとは、主に、買い手企業又は投資家が買収の意思決定を行うために、売り手や対象会社の協力を得て、対象会社の情報収集や問題点を発見するための調査である。 外部から見ているだけでは把握しきれない対象会社の真の姿（正常収益力・実態純資産、各種リスク）を把握し、その後、買収可否、ストラクチャー（買収対象）選定、買収価格交渉、 契約条件、ＰＭＩ（Post Merger Integration：Ｍ＆Ａ後の効果を最大化するための統合プロセス）に活用する。デューデリジェンスの種類には、主要なものとして、ビジネス、財務、税務、法務、人事、環境、ＩＴ、知財があるが、法務ＤＤまでは、ほぼ必須で実施されることが多い。理由としては、 項目を増やしていくとコストが上がっていくためである。費用対効果を意識し、何が重要かを見極めながら取り組むことが重要である。
主な手続きの内容としては、１）対象会社に必要な資料を依頼するステップ、２）データルームと呼ばれる、ＤＤ作業に必要な資料の閲覧場所が用意されるステップ（最近の流行として、 ＶＤＲ（バーチャルデータルーム）とよばれる、Ｗｅｂ上のサーバで展開するものがある）、３）対象会社の強み・弱み、事業リスク等を把握するマネジメントインタビュー、 ４）実務担当者へのインタビューやＱ＆Ａシート（エクセルなど）のやり取り、５）ＤＤ調査結果の報告会、がある。
ちなみに、２つ目のステップで閲覧に供されるデータについて、売り手側が印刷不可の条件を設定するケースがあるが、買い手側としては、検討の効率と精度を考えて、印刷できるように 交渉したいところである。４つ目のステップのやり取りとしては、実際にある程度顔を合わせて行う方が好ましい。
２．８ 価値と価格
価値と価格は重要な要素である。価値は価格とイコールではない。価値は、あくまでも主観で決められるものであり、嗜好、立場（買い手v.s.売り手）、 置かれている状況等によって変わる。一方、価格は交渉の結果として決まるものであり、交渉力、意欲、スピード、競合の存在等によって変わる。特に、交渉力が重要であり、これによって大きく変わってくる。
なお、「他社に買われたくない」という思考は、他社に買われることによるビジネス的な不利益が大きいケースではやむを得ないが、買い手が考える価値以上の価格となりやすい点に注意が必要である。 また、業界情報を鵜呑みにするケースもあるので、これにも注意が必要である。
Ｍ＆Ａが成立に至るのは、通常は、買い手にとっての価値が、売り手にとっての価値よりも高い場合である。双方にとって有利な条件で合意が形成（価格決定）できるためである。 原則としてこの関係が逆転することは無い。この関係が逆転している場合は、交渉の際、買い手にとっては売り手が評価する価値が高すぎることを示す、売り手にとっては買い手が 評価する価値が低過ぎること示す等して合意形成を目指すことになる。この交渉を行う上で重要なのがＤＤである。
２．９ Ｍ＆Ａにおける価値
また、評価する価値の定義を正しく理解することが重要である。Ｍ＆Ａで評価する価値の種類としては、資産価値、事業価値、企業価値、株式価値が存在する。
事業価値に、株や不動産等の非事業資産価値を加えたものが企業価値である。その企業価値から有利子負債等を差し引いたものが株式価値である。これとは別のところに、資産価値がある。 これらの定義をしっかり理解しておくことが重要である。
２．１０ 価値評価の方法
価値評価については、評価対象物が何であれ、３つのアプローチがある。具体的には、１．インカムアプローチ、２．マーケットアプローチ、３．コストアプローチ、に分けられる。
- インカムアプローチとしては、主な評価手法としてＤＣＦ（Discounted Cash Flow）法、収益還元法、配当還元法がある。将来の収益性・リスクを反映でき、シナジー効果が期待できる一方で、 恣意性が入る可能性があるので注意が必要である。
- マーケットアプローチは、相場評価であり、主な評価手法として、市場株価法、類似会社比較法、類似取引比較法がある。客観性が高く、事業計画が無くても試算できるが、対象会社の個別事象の 反映が困難であり、類似取引が存在しないことが多く、非公開の条件が包含されている可能性が高いため、注意が必要である。
- コストアプローチとしては、主な評価手法として、修正簿価純資産法、時価純資産法がある。客観性が高く、事業継続性が無い場合に有用であるが、将来の収益性・リスクを反映できない点で 注意が必要である。
評価対象が無形資産である場合も、評価対象によって最適な評価アプローチを選択する必要があるが、特許・商標・著作権などの知的財産は、費やしたコストが同じでも使う者によって価値が 大きく変動するため、インカムアプローチが最も適している。
２．１１ ロイヤリティ免除法
特許の価値評価については、本方法が使われることが多い。インカムアプローチの評価手法であるＤＣＦの考え方として、将来の利益の積み上げを行うが、本方法においては、これを使用し、 特許関連の売上高にロイヤリティ料率を掛け合わせ、さらに貢献度を掛け合わせて算出する。この際に、無形資産特有の割引率が考慮される。なお、ロイヤリティ料率に関するサイトは有料ものがよく使われているが、経済産業省も「知的財産の価値評価を踏まえた特許等の活用の在り方に関する調査研究報告書」を無料で公開している。
２．１２ 質疑応答
| Ｑ１： | 会社からＤＤとして知財部に落ちてくる仕事としては、買おうとしている企業がどのような特許を持っているか、買おうとしている商品が特許的に問題ないか、などがあるが、具体的に、知財部としてはどのようなアプローチをしたら良いか。 |
| Ａ１： | 特許が対象企業にあると思っていたら無い、技術が別のところにある、などの場合がある。やりたいビジネスが継続できるか、買って自社に取り込んだ場合にうまくやっていけるか、を知財の観点から見ていく必要がある。 |
| Ｑ２： | ＰＭＩのところで知財部がどういった関与をしていけばよいか。 |
| Ａ２： | 知財のＰＭＩをやったことがないので詳細は不明であるが、Ｍ＆Ａによってグローバルに知財が散在しており、どのように管理するべきかという相談がよくある。ＰＭＩに限定したものではなく、そもそもの管理方針を策定しておくことが有用だと考える。 |
| Ｑ３： | トップがその気になってしまうとなかなかＭ＆Ａを止めにくいが、詳細ＤＤに移った場合に機密情報を掴んで、それでトラブルになったケースはあるか。 |
| Ａ３： | 私の経験ではない。海外などでは、そもそも競合などに対して情報を出せない法制度があり、一部黒塗りや専門家のみに開示されるなどがある。なお、買い手よりも売り手にとってリスクが多いと考える。 |
| Ｑ４： | 特許貢献度について、目安の数字はあるか。 |
| Ａ４： | 事業に精通した方へのヒヤリングで技術サイクルの残年数に基づき計算するのが一般的である。 |
３．部会報告
松本役員から今年度の部会活動計画と、新役員、幹事の紹介があった。４．見学
アシックススポーツミュージアムにて、アシックスの歴史を学んだ。５．懇親会
講演・部会報告の後、懇親会を開催した。講師の中道様にもご参加頂き、講演内容を元にした意見交換を行い会員相互の親睦を深めた。以上
