役員談話室

心に残る経営者の言葉

2007年08月03日

「経営者は知財部門をどのように見ているのだろうか?」
この問いは、経営に資する知財活動を考える上で常に発せられるものでありますが、意外と経営のトップがこれについて本音で語ることは稀です。実務を通して経営トップに知財の状況を説明する機会があっても、説明が経営の核心にふれることが少ないためか、経営トップから「知財は大事なので、頑張って下さい。」という当り障りのないコメントをいただくことが多いのではないでしょうか?

ちょうど2年前に、当協会で行っている「知財変革リーダー育成研修会」のフォロー会が行われ、受講者15名と当協会の吉野前会長との間で意見交換を行う場が設けられました。吉野前会長には本田技研の会長というお忙しいお立場にありながら、知財の将来のリーダー候補との議論に時間を割いていただきました。約1時間半の議論でしたが、受講者から研修の取組み課題である「自社の知財を如何に変革していくか」についてのプレゼンを行い、その後吉野前会長に質問する機会が与えられました。

その議論の中で「経営者の目から知財がどのように写るのでしょうか?」というのがありました。非常に和やかな雰囲気で進められていた議論の中で、核心を問う質問が出たためか一瞬戸惑いの表情が浮びましたが、吉野前会長はしばらく考えた上で「そうだな、知財部門とシステム部門(社内ネットワーク関係)というのは、やや似ていると感じているんですよ。どちらも全社オペレーションに関連するんだけれど、俺たちの仕事はこれだからと感じているイメージがあります。内向きなんだよな。」と答えられました。

この時に、私もこの場におりましたが、この吉野前会長の言葉が非常に印象に残りました。たまたま、知財を学んでいる学生に講義する機会があり、その時にこれを題材にして議論を行いました。知財部門とシステム部門が似ている点として、どちらも経営者に対して馴染みのない専門語を多く使うので、経営者になかなか内容を理解してもらえないことや、仕事が自己完結しやすく会社全体の活動との結びつきについて考えることが少ないことなどが挙げられました。
一方、似ていない点として、システム部門では全社統一のシステムを構築するために、ある特定の部門に特殊なシステムを作らないのに対して、知財部門では、全社の知財を取扱うが事業部門ごとに異なる知財戦略を作ることなどが意見として出ました。

もともと吉野前会長の言葉は、「知財部門もシステム部門も全社に係わる仕事をしているので、もっとやり方を考えればもっと会社に貢献できるのになあ」という気持ちが裏にあったのではと思っております。経営に資する知財活動を考える上で、システム部門との対比で知財部門の活動を見直すと新たな視点が得られるかも知れません。そういった意味で、吉野前会長の言葉は非常に示唆に富んでいると思い、御紹介したしだいです。
最後に、ある学生から「知財部門とシステム部門とで共同で知財のシステムを構築したことがありましたが、もっとも使いにくいシステムになってしまいました。」というコメントがありましたが、これも考えて見ると面白い着眼点を提供しているかも知れません。

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百瀬 隆(日本知的財産協会 常務理事)

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