新刊書紹介

新刊書紹介

紛争解決のためのシステム開発法務:AI・アジャイル・パッケージ開発等のトラブル対応

編著 松尾 剛行,西村 友海 著
出版元 法律文化社 A5判 564p
発行年月日・価格 2022年4月発行 6,820円(税込)
 本書は,IT系の案件を数多く手掛けてきた弁護士が,いかにトラブルを未然に防止するか,ということに重点を置いて解説している。近年のAIブームもあり,ビジネスにおけるシステム開発の重要性は高まっていると言われている。一方で,開発が暗礁に乗り上げた際の紛争事例もしばしば耳にする。これは,契約交渉,作成実務と実際の開発のそれぞれの段階で,システム開発契約の特性や特有のリスクを十分に把握,対処出来ていないことが理由として挙げられる。例えば,メーカーの契約担当者は自社の事業の性質上,有体物を成果物とする開発委託契約と同じような感覚でシステム開発契約を確認することがあるだろう。
 本書は564頁と重厚感のある内容に仕上がっているが,その分読み応えがあった。本書では,システム開発契約の留意点の一つとして,システム開発の特性を十分に把握する必要がある,という点が挙げられている。有体物の開発委託契約では,委託者の大まかな役割は費用の供出と成果物のスペックの提示のみであり,実際の開発作業に関与することはほとんど無い。しかし,システム開発では開発の受託者のみならず委託者の協力も必要となる。これは,システムとは何らかの業務の円滑化のために開発されるものであるが,その業務の詳細やシステム開発での改善点については,委託者側の専門的知見も必要になるからである。このため,当事者間のより詳細な役割分担や委託者の協力義務に関する規定が重要となる。
 また,システム開発では対象物が抽象的なことも留意点の一つとして挙げられている。有体物の開発委託の場合は,成果物について当事者間ですり合わせが出来ていることが多いが,システムの場合,初期段階は抽象的なものであり開発の進展とともに具体化されるため,成果物の具体像をめぐってトラブルとなりやすいからである。成果物の具体像については,本書でも詳述されているシステム開発における瑕疵(契約不適合)の定義が参考になるだろう。また,かかるトラブルの未然防止のためには,各工程を逐次的に進めるウォーターフォール型開発と,工程を細かく分類し優先度の高い要件から順に開発していくアジャイル型開発のそれぞれの特性を理解し,使い分けることも一つの方法である。
 本書の内容はシステム開発に関する留意点のみならず,有体物の開発契約に関しても,開発を進めないと費用や期間,成果物の実像が見えてこない案件などにも応用できるだろう。前述の通り,ボリュームのある内容であるが,読みこなせばシステム開発に関する契約の知識が相当程度身につくこと間違いなしである。契約担当者にお勧めしたい一冊である。

(紹介者 元会誌広報委員 K.I)

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