新刊書紹介

新刊書紹介

実務詳説 著作権訴訟【第2版】

編著 髙部 眞規子 著
出版元 金融財政事情研究会 A5判 476p
発行年月日・価格 2019年12月9日発行 5,300円(税別)
 著者は,40年近い裁判官としてのご経歴の半分以上の長きにわたって,東京地裁の知的財産権部や知財高裁などで実際に知財関連訴訟を担当されてきて,平成30年5月より知財高裁所長を務められている。その豊富なご経験に基づき 「実務詳説 特許関係訴訟」,「実務詳説 著作権訴訟」「実務詳細 商標関係訴訟」という三部作を発表されているところ,本書は,平成24年の初版発行から8年間の著作権関係の注目判 決や法改正内容を盛り込んだ第2版として刊行されたものである。
 構成としては,まず第1章で訴訟手続きについて触れた上で,第2章から第7章の中で,著作権訴訟における主要な争点ごとに具体的な裁判例に沿って幅広く詳細に解説しているものとなっている。
 著作権は産業財産権とは異なり無方式主義であるため,著作者が誰なのか,その対象物にそもそも著作物性があるのか,といった根本的な部分から争点になる。そして対象行為が,複製権や公衆送信権など様々な支分権の中で,具体的に何の侵害行為に該当するのか,また引用など多数の権利制限規定に該当すなわち非侵害となるのか,更には昨今のデジタル技術の発達に より利用態様が複雑化している中,侵害の主体は誰なのか,などなど著作権訴訟の争点は非常に多様である。
 例えば,平成30年4月に知財高裁から出された「リツイート事件」の判決を元に,侵害の主体について解説しているが,このような著作権法の条文や基本書,解説書では学ぶことが難しいような内容を,本書では具体的な裁判例を通じて解説してくれているため,深く理解することができる。
 ちなみにこの「リツイート事件」は,ツイッターに他人の写真を投稿すなわちツイートした者が公衆送信権の侵害の主体であり,リツイートした者は主体ではないと判断されたのだが,一方で写真の縦横比を変更したという同一性保持権の侵害については,リツイートした者も侵害者とされた事で話題になった事件である。
 タイトルに「実務詳細」と付されている通り,本書は全くの初学者向けという位置づけではないと思われるが,実務を行うに際して必要な情報や知識が十二分に盛り込まれている事から,著作権関係の業務をこれから担当するような方には,本当にお薦めの一冊である。

(紹介者 会誌広報委員 S.M)

グローバル企業の知財戦略
米国特許訴訟・輸出管理法・知財デュー・デリジェンスがよくわかる

編著 岸本 芳也 著
出版元 丸善出版 A5判 414p
発行年月日・価格 2020年2月発行 5,200円(税別)
 本書は,米国弁護士である岸本先生がご自身の経験と知見に基づき,知財担当者が知っておくべき米国の情報をコンパクトにまとめた一冊である。私は,本書を読み進むほど,直接執筆者に対して面談のアポイントを取ることなく,これだけの米国の知財関連制度情報とtipsを得てしまってよいのだろうかという,非常に有り難いが一方で畏れ多い感を抱くようになった。
 本書は,グローバル企業という冠を背負っているものの,中身は米国に絞られている。そのため,広く世界の法制度等を俯瞰したいのであれば素直に別の書にあたることをお奨めする。逆を言えば,グローバル企業として展開していくに際し,避けては通れない米国の知財関連制度情報をしっかり知得したい方には,最適である。
 コンテンツとしては,輸出管理から始まり,知財デュー・デリジェンス,裁判システム,訴訟の各段階での攻撃防御対応,トロール対策,救済措置と展開される。それぞれ,法制度の解釈を含めた手続きの流れや条文の解説がなされ,要所でのtipsが示される。ここで特筆すべきは,このtipsである。もちろん,解説自体もとても平易な文章でわかりやすく解説されているため理解が進むことは間違いない。ただ,私は,理解した内容をさらに活用できる知識に昇華させるためにちりばめられたtipsこそが本書の一番の売りであると考える。まさにここに,執筆者の実務経験に裏付けられた貴重なアドバイスが盛り込まれているからである。
 また,各章に挿入される図表等,特に適時に示される仮想事例が,私のような米国実務経験の少ない浅学者にとっては非常にありがたいサポートであった。
 加えて本書で特筆すべきは,輸出管理まで解説の手を広げていることであろう。用語解説から手続全体の流れが簡潔にまとめられている。かつて私は輸出管理を担当する職場の先輩からこの分野における日本語の解説書の少なさ,そして制度自体の複雑性を聞かされた経験がある。それゆえ,ついに輸出管理に関する基本書,導入書が出たかと思った次第である。ただ,確かに畑が違う身としては非常に難解であった。まだまだ研鑽が足りないと痛感した限りである。
 本書の難度としては,本誌における一般論説(又は資料)と今更聞けないシリーズのちょうど中間に位置していると考える。ある程度実務を経験しているが米国での知財関連手続はこれからであったり,なんとなく制度は分かった気でいるがため誰かに訊くのを躊躇したりする中堅以上のクラスには必携の書といえよう。

(紹介者 会誌広報委員 K.N)

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