新刊書紹介

新刊書紹介

データの法律と契約

編著 福岡 真之介 松村 英寿 著
出版元 商事法務 A5判並製 440p
発行年月日・価格 2019年1月発行 4,200円(税別)
 本書は出版時点(2019年1月)における,データに関連する法令や法的論点を網羅的に概説している。著者の一人である福岡氏は,2017年から18年にかけて「IoT・AIの法律と戦略」,「AI の法律と論点」(いずれも商事法務)をそれぞれ出版しており,本書を第4次産業革命3部作の集大成と位置付けている。データの取扱いは現在官民で検討が進められている事項であり,最新の論点がまとめられていることは有意義なことと言えるだろう。

 データについて法律上で定義されている例はほとんど見当たらないが,本書では概ね,電子化された情報という意味で使用している。また,ご存知の方は多いかと思うが,データに関する法律といっても,データを横断的に取り扱う法 律自体は存在しない。著者は本書でデータに関する法律をデータ法と名付け,体系的に解説している。まずデータについての基礎知識やデータ戦略の概要から始まり,不競法や知財法,民法,個人情報保護法,独禁法など関連する様々な法律が要点を踏まえて解説されている。また,データの取扱いに際しては,私人同士の契約も重要である。これは,データに現にアクセスできる当事者は,契約に定めない限り法律上自由にデータを利用できることとなるからである。 データは無体物である一方で知財権が成立しないことも多く,当事者間の合意の重要性が強調されている。この点,データの取扱いにおいて最も基本となる秘密保持契約書に関する記述が印象に残った。すなわち,従来の秘密保持契約書はデータ取引を想定しておらず,十分に対応できないリスクがあること,これを踏まえて従来の契約書ひな形を再検討すべきという点である。評者は社内で技術契約を担当しているが,深く考えさせられた。

 もう一点特筆すべきこととして,本書は経産省が2018年6月に公表した「AI・データの利用に関する契約ガイドライン」の「データ編」を参考にしていることである(ちなみに福岡氏は同ガイドラインを検討する会合の構成員であった)。すなわち,同ガイドラインで取り上げられているデータ提供型契約,データ創出型契約およびデータ共用型の3類型のデータ契約について,契約交渉や契約のドラフティングにあたっての実務上のポイントも含めて,それぞれ解説されている。同ガイドラインの内容を深掘りする役割を果たしている。

 前述の通り,データに関する法体系を理解するには一つの法令を理解するだけでは不十分である。ビッグデータに関する法律問題を検討する際には,関連する様々な法令および契約上の留意点を体系的に理解することが重要となる。 これらを網羅的に解説している書籍は,評者が知る限り現時点で見当たらない。今後データに関わりのある各社の契約担当者はもちろんのこと,データの取扱いに関心のある方々に是非お勧めしたい一冊である。

(紹介者 会誌広報委員 K.I)

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