新刊書紹介
新刊書紹介
特許はいかにして発明されたか
編著 | 深見特許事務所 編 |
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出版元 | 経済産業調査会 A5判 520p |
発行年月日・価格 | 2018年11月27日発行 4,500円(税別) |
差止だ,損害賠償請求だ,自社実施より他社牽制が重要だ! 排他権を振りかざして自社の利益を守る。自社が良い商品・良いサービスを 提供することに貢献するのではなく,他社の事業を妨害する。これが俺の仕事か。。。もっと世の中の役に立つ仕事がしたい! こんな悩みは彼が最初ではない。昔の人も悩んだのだ。
アリストテレスは国家に有益なものを見出した者は報奨されるべきであると言ったそうだ。 特許制度に慣れている我々からすると奇異に思われるが,発明を奨励し産業を発達させるための手段としてはまず思いつく政策ではなかろう か。ルネッサンス・イタリアのギルド内部では発明者である職人の権利を尊重する特許制度に似た考えもあったようだが,新技術は他のギルドに利用されないように厳しく管理されていた。このような閉鎖的な環境では産業の発達のスピードには限界がある。他のギルドで生み出された新技術を導入したい。新技術の発明者である職人を自ギルド外から招聘して産業の発達を加速させたい。歴史的・地理的要因からそれを特に強く望んだのがヴェネツィアだった。
1474年ヴェネツィア特許法はヴェネツィア内で新規であることと実施を条件に発明者に独占権を与えた。これによってヴェネツィアは発展した。そして特許制度は他の都市国家にも拡がっていった。
時は下って明治初期,ガラ紡の発明家の悲運もあり,特許制度を求める声は大きかった。しかし当時の政府内部には発明に対して独占実施権を与えるのが良いのか報奨を与えれば十分なのかの迷いがあったようだ。また模倣が困難になるからという今では考えられない理由で特許制度に反対する声もあったとか。ようやくできた明治18年専売特許条例では医薬が特許の対象から外されていた。医薬が不特許事由から除外されるには昭和50年改正を待たなければならなかった。
その後も我々は悩みながら特許を発明し続けてきた。そしてこれからも。独占権は制限されるべきか(3章)? あるべきクレームの姿は(6章)? ソフトウェアやバイオテクノロジー をどう扱うべきか(9章,11章)? 訴訟は(13 章)?職務発明は(14章)?
理想の特許はまだまだ先かもしれないがこれだけは言える。知財部員なしに産業の発達はない。本書が悩みの解決の一助になると信じる。
(紹介者 会誌広報委員 H.T.)