新刊書紹介

新刊書紹介

中国における技術標準と特許をめぐる最新動向と日本企業の戦略

編著 遠藤 誠 著
出版元 日本機械輸出組合 B5判 297p
発行年月日・価格 2018年6月1日発行 2,500円(税込)
 中国ビジネスに関わる日本企業は,特許だけでなく,技術標準の問題に直面することが今後 ますます増えると言われている。典型的には,第三者の特許が組み込まれた中国の標準を実施する場合や,自身の特許が中国の標準に組み込まれる場合が考えられる。

 中国を中心とした一大経済圏を構築する「一 帯一路」構想のもと,中国政府は標準化政策を 重視し,沿線国との標準の相互接続を推し進め ている。2018年1月には,30年ぶりに全面改正された標準化法が施行された。中国独自の法令,判決,運用や議論の状況について,十分に情報を得ておく必要がある。

 本書は,中国ビジネスの知財・法務に豊富な経験を持つ著者が,正確かつ丁寧な筆致で,中国の標準化の現状を網羅的に解説するものである。以下の構成になっている。

 はじめに,技術標準に関する基本的な定義に加え,標準必須特許は標準化法,特許法,独占禁止法の3つの法分野に関わることが説明される(第1章)。次に,標準化法を中心とする中国の標準化制度(第2章),標準化の運用の統計的な実態(第3章),そして中国政府が国際標準化活動に積極的に参加している状況(第4 章)が紹介される。特許法からのアプローチでは,差止めが認められる限界とロイヤリティ額の算定の問題が取り上げられ(第5章),独占禁止法からのアプローチでは,特許権者の行為が独禁法やその関連規定との間で生じ得る様々な問題が示される(第6章)。最後に,日本企業のとるべき対応がまとめられている(第7 章)。

 また,資料の厚さも本書の特徴であり,標準化法を初めとする関連法令の和訳と,近年大きな注目を集めた下記3件の判決・決定の全文和訳が収録されている。

 このうちの2件は,標準必須特許を有する米国インターデジタル(IDC)が中国ファーウェ イ(華為)にライセンス受諾を迫り,米国で権利行使を行ったことに対して,華為が中国でIDCを訴え返した事件(2013年)に関する,FRAND 条件のロイヤリティ料率をIDC要求の約100分の1に定めた判決,及びIDCに市場支配的地位の濫用を認めて逆に華為への損害賠償を命じた独禁法違反の判決である。もう1件は,中国独禁当局が米国クアルコムに対して,不当に高いライセンス料を取るなどの独禁法違反行為につ いて,60.88億元(約1,150億円)という過去最高額の過料を課した決定である(2015年)。著者は本文中で,独禁法違反の調査・行政処罰は今後も活発に行われることが予想されると注意を促す。

 時にはその展開に驚き,予測し難いとさえ思える中国の動向に,日本企業はどう対処していくべきか。技術標準と特許の今を知り,冷静に向き合うには,実に頼りになる一冊と言える。

(紹介者 会誌広報委員 Y.O.

AI/IoT特許入門 〜AI/IoT発明の発掘と権利化の勘所〜

編著 河野 英仁 著
出版元 経済産業調査会 A5判 240p
発行年月日・価格 2018年6月11日発行 2,500円(税別)
 本書は,近年のAI技術の普及の背景や動向に始まり,AI発明の事例やIoTと関連のあるビジネスモデルの事例を解説した上で,AI/IoT特 許請求項の記載における留意点までを網羅する一冊となっている。

 基礎知識の部分ではAI技術の範囲や要素技術としてのディープラーニング技術,強化学習について初心者向けに解説している。次に,日米企業のAI特許について,特許発明の内容をポイントや補足説明を交えて詳述している。ま た,ビジネスモデルとAI/IoT特許とを関連付けた事例についても詳述している。その上で,積極的に出願すべきIoT特許は何かについて,AI/IoT特許請求項を作成する上で注意すべき5か条について特許実務者向けに解説している。このように,AI技術の基礎知識,AI/IoT特許事例,実務者向けの指針が体系的にまとめられていることにより,AI発明をこれから担当していく特許実務者が,一通りの知識を理解し,習得できる点で好ましい。

 これまで,AI/IoT発明を単なるシステムや制御の発明の一類型としかとらえていなかったのであれば,本書を一助としてAI/IoT特許請求項の記載の仕方を学び直す価値はあろう。また,AI/IoT発明について一定以上の案件数を担当することで社内,担当者が経験を蓄積していても「AI/IoT特許請求項を作成する上で注意すべき5か条」を参照するなどして,自社のAI/IoT特許の質を高めることを検討できよう。 本書を通じて分かることは,AI/IoT特許請求項の記載の仕方によって,将来得られる権利の強さ,使い易さが大きく変わってしまうことである。具体的には,AI/IoT発明のポイントをつかみ,「どのような行為に注目するのか,あるいはどのような行為を含めないようにするのか」といった特許請求項の記載上の注意事項 をおさえることで,自社の製品,サービスをカバーする特許権を適切に取得し得る。これによ り,他社に対する参入障壁を築いて,自社のビジネス優位に進めることができる。一方で,せ っかく時間と費用をかけて特許権を取得しても,特許請求項の記載上の注意事項をおさえることができていないと,他社に対して権利行使 が実質的にできず,けん制力の弱いものになってしまいかねない。よって,出願前に特許請求項の記載をどれだけ工夫をするかが重要であることを実感できる。

 AIの専門知識を有しない特許実務者でも,本書は読みやすい。AIプログラムについて詳細に解説しているだけではなく,ビジネスと関 連付けながら相関図などとともに説明していることで,読者が事例の内容をイメージしやすいことが理由であると考える。

 企業の特許実務者に限らず,AI/IoT特許に不慣れなクライアントに対してアドバイスしたいと考えている特許事務所の方々にもおすすめしたい一冊である。

(紹介者 会誌広報委員 M.S)

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