新刊書紹介

新刊書紹介

著作権・商標・不競法関係訴訟の実務〔第2版〕

編著 髙部眞規子 編
出版元 商事法務 A5判 592p
発行年月日・価格 2018年4月発行 5,800円(税別)
 本書は平成27年に発行された「著作権・商 標・不競法関係訴訟の実務」の第2版である。 初版発行以降の判例や学説が追加され,解説も 最新の実務に改められたほか,「第3章 商標をめぐる審決等取消訴訟」に「第4講 商標登 録の取消審判に係る審決取消訴訟」が新たに追加された。執筆陣は知財高裁,東京地裁および大阪地裁の知的財産権専門部において,知財訴訟を専門的に担当してきた裁判官である。

 本書は,目を通す前は,「訴訟の実務」とのタイトルから判例の解説が中心となる内容ではないかと思っていたが,法令の概要・趣旨を中心に,学説や判例にも言及・解説するなど,基本書のような構成となっている。基本書の中に は,詳細な解説のため通読に時間がかかるものや,読者にある程度の知識・知見を求めるものもある。しかし,本書は訴訟実務上で問題となりやすい主要な論点に絞って紹介され,それでいて,判例への言及は索引にして24頁と十分なボリュームとなっており,企業の知財部員が実務遂行する上で必要と考えられる情報がコンパクトかつバランスよく網羅された書物となって いる。

 そして本書で最も強調すべき特徴は,計23名の裁判官が,現役裁判官ならではの観点から解説している点にある。一例を挙げれば,「第4 章 不正競争関係訴訟」の「第5講 営業誹謗 行為」では,過去に請求内容の不特定を理由に不適法な訴えとして却下された裁判例を取り上げ,訴状段階における請求の趣旨の記載方法を原告側代理人の注意点として解説している。このように,本書では,現役の裁判官ならではの視点から,どのような点に注意すべきかの情報が多分に含まれており,裁判実務を知る上での貴重な手がかりとなるだろう。

 一方で,多数の裁判官による分担した執筆にもかかわらず,読み手が理解しやすいように, 同一人が執筆したような記載ぶりとなっている点も印象的である。ユーザーフレンドリーな本書は実務家の理解をより助けるであろう。

 第2版の改訂特有の内容についても紹介す る。今回の改訂では,商標審決取消訴訟の重要な論点である商標登録の取消審判とその審決についての訴訟実務に関して,より手厚い解説が なされている。とりわけ,商標登録の取消審判のうち,実務上最も多くみられる不使用取消審判について,手厚く説明されている。これは,当該審判が近年増加傾向にあることを受けてで あろう。もちろん,不正使用取消審判,不当登録取消審判に係る各審決取消訴訟も十分に説明されている。

 各社において行われる知財実務は,著作権,商標権,不競法関係を,同じ社員が担当する会社も多いと思われる。本書は最新の裁判実務・判例を知る上での道しるべとして有用であり,各企業の実務担当者には是非一読されることを お勧めしたい。

(紹介者 会誌広報委員 K.I)

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