新刊書紹介
新刊書紹介
ストーリー漫画でわかるビジネスツールとしての知的財産
編著 | 大樹 七海 著 杉光 一成 監修 |
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出版元 | アップロード A5判 256p |
発行年月日・価格 | 2018年2月1日発行 1,200円(税別) |
著者は,弁理士試験に合格した知財マンガ家であり,理系大学出身で国立研究機関での勤務経験もあるという稀有な経歴をもっている。 K.I.T.虎ノ門大学院教授の杉光一成先生が監修 しており,一般のビジネスパーソンを対象とし て書かれている。基本中の基本が書かれている書籍であり,知財の実務を専門にやられている方よりも,営業,マーケティング,経営企画,役員などを務めているような知財経験が少ない方や,文字ばかりの専門書,入門書は中々読めないと思っている方々にお薦めしたい書籍である。
ストーリーは人工知能(AI)ソフトを販売するベンチャー企業が遭遇する問題に対してビジネスツールとして知財を活用して解決していく内容になっている。
最初のテーマはパテント・トロールから警告状が届いたときの対応が描かれており,杉光一成先生や正林真之弁理士が登場して知財を使ってビジネスを成功させることの必要性を説明している。続いて特許情報を用いた事業環境分析が経営判断に活用できることが解説されている。
その後,物語はAI囲碁ソフトの開発に移っていく中で,アイデアやデザインを営業秘密として管理していくことの重要性,開発ソフトに「イゴ助」と名付けて商標出願をしていくブラ ンド戦略,デザイン・ドリブン・イノベーションがとり挙げられていき,最後にはIPランドスケープの解説も記載されており,最近話題のテーマが紹介されている。
ストーリーは,主人公のベンチャー企業にスパイが侵入していて秘密情報が漏洩してしまう事件や大手企業とのAI囲碁ソフトでの対決へと展開していく。その中でいろいろな人間模様が描かれていて,主人公が夢をかなえていくと いう白熱した内容となっている。
職場で漫画を広げているわけにはいかないかもしれないが,難しい文字ばかりの書籍を読むよりはよほどわかりやすく解説されており,今の企業の知財部で日々検討されているテーマを簡単に把握するにはいいのではないかと感じたので,本書を紹介してみた。知財実務者の方々も是非プライベートな時間に本書を広げてみてはどうだろうか。
(紹介者 会誌広報委員 Y.О)
新刊書紹介
攻めの農林水産業のための知財戦略〜食の日本ブランドの確立に向けて〜
農水知財基本テキスト
編著 | 農水知財基本テキスト編集委員会 編 |
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出版元 | 経済産業調査会 A5判 500p |
発行年月日・価格 | 2018年2月6日発行 4,900円(税別) |
このような話題が持ち上がっている中で発行されたのが本書である。本書は,農林水産物・食品の輸出額が増えているのに関わらず,その知財保護の普及が遅れている等の問題意識から執筆されたものであるが,発行の時期としてはとてもタイミングの良いものとなっている。本書は,弁護士だけでなく,農林水産省,経済産業省,特許庁などの関係省庁のみならず,財務省,法務省や内閣府など,オールジャパンの体制で作り上げたものである。
タイトルに「テキスト」とある通り,本書は農林水産業の知財保護に関連する種苗法を始め,特許法,商標法,不正競争防止法や地理的表示の法律の概要,権利化までの手続きや水際措置などの保護対策を,多くの事例とカラーの 写真や図表を用いて,今までに知財に関心のな かった農林水産に関わっている方でも理解できるようにわかり易く解説している。さらに,種苗法や特許法といった知的財産法だけでなく,事業の設立や法人化,農地の取得・賃貸,生産 物の販売に関する法律や手続きなど,これから農業を始める起業家や事業者に向けた解説も盛り込まれている。このように,本書は農林水産業の攻めの知財戦略にとどまらず,経営を含めた農林水産業の競争力強化のためのテキストである。
農林水産業の知財保護と言えば種苗法が思いつくが,ブランドの保護の観点から言えば商標法や地理的表示も重要であり,栽培方法など技術に関するものは特許法で,ノウハウやデータ は不正競争防止法で保護といったように,工業製品を知財権で保護するよりも広い法域での対応が必要である。そのため,農林水産業の知財保護に携わる専門家は幅広い専門知識の習得が不可欠となる。各法域で分かれている専門書が多い中で,本書は農林水産というキーワードで, 広い法域を1冊にまとめている点が非常にありがたい。本書が,農林水産業全体の知財に対す るマインドの向上と,農林水産業の知財戦略を立案し実行できる専門家の育成に貢献できるよう切に望むところである。
(紹介者 会誌広報委員 H.N)