新刊書紹介

新刊書紹介

新・注解 特許法[第2版] 上巻・中巻・下巻

編著 中山信弘・小泉直樹 編
出版元 青林書院 A5判 上巻1,152p 中巻1,312p 下巻1,120p
発行年月日・価格 2017年9月発行 上巻16,000円 中巻18,000円 下巻16,000円(税別)
 本書は特許法のコンメンタールとして我が国随一の大書である「新・注解 特許法」の初版から6年ぶりとなる第2版である。日本の知財学の第一人者である編者の中山信弘先生が自ら 「ライフワーク」と語る制度解釈研究の結晶とも言える。

 前版からの6年間で特許異議申立制度の復活,職務発明制度見直し,といった重要な改正が行われ,本書の解説を待ちわびていた知財専門家においては必携の最新版である一方で,若手の知財部員等においては分厚い本書を手にす ることに敷居を感じる方もいるのではないだろうか。しかし,本書では解釈に窮する難しい説明は少なく,丁寧な解説によって各条文の理解をストレートに進めることができるため,初学者にも是非手にとって欲しい。

 本書の特徴は逐条で制度の沿革,改正趣旨,審議会や国会での重要な発言,判例に至るまで網羅的に精緻な解説がなされているところである。例えば平成26年に創設された特許異議の申立てに関しては,冒頭の「I 特許異議の申立制度について (1)意義及び趣旨」において,改正法提案の閣議決定資料からの抜粋や,国会における経済産業大臣や特許庁長官の発言を解説に引用しており,改正時の臨場感を感じつつ異議申立制度の意義や趣旨について理解することができる。更に続く「(2)沿革」では,大正10年に我が国で最初に導入された異議申立制度(特許付与前の異議申立制度)から始まり,平成26年の特許異議の申立てまで,特許異議申立制度の変遷を俯瞰する解説ぶりとなっており,過去,特許異議申立制度が辿ってきた問題点を克服して現在の特許異議申立制度が設計さ れていることを条文の文言単位で理解することができる。

 更に注目すべきは,審判や権利侵害等,争訟に直接関わる規定以外にも過去判示された判例が豊富に紹介されている点である。例えば,手続きに関する規定(第43条パリ条約による優 先権主張の手続き等)に関して,判例を用いて条文の解釈をこれほどまでに徹底的に解説しているコンメンタールは本書以外にはないだろう。 編者である小泉直樹先生による「あとがき」 に,「『いろいろ調べたけれど,さすが新・注解にだけは書いてあった。役立った』と言ってい ただける出来栄えとなっていることを切に祈りつつ,世に送りたい」とある。特許法に関するあらゆる情報をワンストップで提供してくれる本書は,大学や特許事務所,法律事務所においてはもちろん,企業の知財部員も含めたあらゆる特許関係者にとってこの上ない知の源泉となろう。

(紹介者 会誌広報委員 T.A.)

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