新刊書紹介

新刊書紹介

ファッションロー

編著 角田 政芳,関 真也 著
出版元 勁草書房 A5判 312p
発行年月日・価格 2017年9月20日発行 3,800円(税別)
 私は長年,知財を業務としてきたが,ファッ ションに絡む知財業務をしたことは無い。加えて恥ずかしながら本書の存在により「ファッシ ョンロー」という言葉を初めて知った。だが本書を開いてすぐに興味深く読むことができた。 私のような知財担当者が,急にファッションに絡む知財業務を行うようになった場合であっても(もちろん従来からファッションに絡む知財業務をなさっていた方にとっても)分かりやすく記載されているからであり,ファッションを はじめとして模倣が容易でライフサイクルが短い事業の知財担当者にとって必須の1冊といえる。理由を本書に記載されている事項を一部拝借しながら具体的に以下に示す。

 「ファッションロー」とは,そのような名称の単一の法律があるわけではなく,ファッションデザイナーやファッション産業に関わる知的財産法,契約法,会社法,不動産法,労働法,広告法,国際取引法,関税法等を含む法領域の総称を指す。本書では中でもファッションビジネスを保護するのに特に活用されている著作権法,商標法,不正競争防止法などについて,フ ァッションビジネス特有の事情を踏まえながら 詳しく書かれている。

 ファッションデザイン等は,もともと模倣が容易であり,さらに,ライフサイクルが短く,登録等の方式を要求する産業財産権では権利獲得の時点で,模倣品の多くはすでに市場から消え去っているという特徴がある。そのため,フ ァッションデザイン等の保護については方式を要求しない著作権や不競法による保護が特に期待される。

 一方,ファッションデザインを著作権により保護しようとしたときに「応用美術の著作物性」の問題が立ちはだかることになる。本書では,この点が争点になった裁判としてTRIPP TRAPP事件(本誌2016年3月号,2018年1月号を参照)についても詳しく解説されている。 こういったファッションビジネスの保護において必須ともいうべき判例を多数紹介しながら,本書で対象とする具体的なテーマを章に分けて解説がされている(ファッションショーの法的保護,ファッションデザインの法的保護,ファッションブランドの法的保護,ファッションモデルの法的保護,コスプレの法的保護,およびドイツにおけるファッションロー,アメリカにおけるファッションロー)。

 このようにファッションビジネスを保護するのに必要である知財の基本的な知識が網羅されている。しかも,知財業務経験者であれば,聞いたことのある判例も多数紹介されており,馴染み深くまとまっている。

 既にあるいは新規に,「模倣が容易でライフサイクルが短い」事業の知財を扱う方にとって広くお薦めする一冊である。

(紹介者 会誌広報委員 S.Y.

Copyright (C) Japan Intellectual Property Association All Rights Reserved.