新刊書紹介

新刊書紹介

FinTech特許入門 〜FinTech・ブロックチェーン技術を特許で武装せよ〜

編著 河野英仁 著
出版元 経済産業調査会 A5判 180p
発行年月日・価格 2017年9月7日発行 2,200円(税別)
 新聞やウェブニュース等で「FinTech」という言葉を目にしない日はないという程,近年急激な盛り上がりを見せているのがこの分野であ る。「FinTech」は「Finance(金融)」と「Technology( 技術)」を掛け合わせた言葉であり, 投資額や特許出願件数の推移という客観的な数値からも注目されていることが明白であることから,紹介者も非常に注目する分野である。本書は,このFinTech分野について,初心者からある程度知識を有している経験者と幅広い層を ターゲットとした書籍である。以下,本書の章構成に沿ってポイントを紹介する。

 まず,第1章で当分野における投資額や投資案件数の統計データの紹介から始まり,第2章では,この分野における代表的な米国企業が実 際にビジネス展開している内容と,それらに関 連する米国特許出願内容について紹介されている。この第2章を読めば,特許に不慣れな金融 ビジネスに携わる方々も,「Fintech」特許のイメージが湧くのではないかと思う。また,第3章では,FinTech分野で頻繁に取り上げられるテーマである,仮想通貨とブロックチェーン技術がどのようなものかを図を交えて簡単に解説されており,FinTech分野に馴染みがない読者にも配慮された構成となっている。

 さらに,第5章では,ブロックチェーン技術を特許によって保護する方策について言及されている。従来主流だった中央集権型のサーバ・クライアントモデルとは異なる,ブロックチェーン技術という分散型モデルにおいて,クレー ムドラフティングの際に留意すべき点について仮想事例を交えて解説され,どのようなクレー ムを作成すればこの分散型モデルを保護できるかという特許技術担当者ならではの視点での議論が非常に参考になる。

 続いて,第6章では,FinTech分野における近年増加傾向にある特許紛争事例について紹介されている。例えば,ベンチャー企業同士の特許紛争として非常に注目された,freee社とマ ネーフォワード社とのクラウド会計処理ソフトに関する国内事例に始まり,中国や米国での訴訟事例についても解説されている。FinTech等の分野は,特許保護対象がソフトウェアの場合が多いために他社の侵害行為を立証することが難しく,特許保護対象がハードウェアの場合と 比較して,特許紛争事例は少ない。そのため,本章における特許紛争事例の紹介は非常に興味深い。また同時に,特許紛争リスクを低減する手段について改めて見直す良い機会になるのではと考える。このように,本書は,FinTech 分野におけるビジネス傾向,主要技術の概要と権利保護へのアプローチ,さらには最近の訴訟動向がカバーされており,FinTech分野に興味がある幅広い層にとって有用な1冊である。

(紹介者 会誌広報委員 K.M)

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