新刊書紹介

新刊書紹介

プラットフォーム企業のグローバル戦略 オープン標準の戦略的活用とビジネス・エコシステム

編著 立本 博文 著
出版元 有斐閣 A5判 414p
発行年月日・価格 2017年4月発行 5,400円(税別)
 標準化の方式としてコンセンサス標準が頻繁に使われるようになり,標準を戦略的に狙うようになると,新しいタイプのいわゆるプラットフォーム企業が競争力を増すようになった。 プラットフォーム企業の研究は近年世界中で行われているが,本書は若手の経営学者による示唆に富む分析と新しい視点を示すものである。

 これまでの製品重視の戦略は自社製品の競争力を上げることが中心であったのに対し,プラ ットフォーム戦略は自社と他社で作られる経済的なエコシステムの拡大が戦略になる。つまり自社の事業を補完する位置付けの他社を想定し,他社の製品拡大を自社製品の需要拡大につなげ,自社事業がより発展することを目指すのだが,ここに各種データの定量的な実証分析と理論モデルを駆使してプラットフォーム戦略の有効性を検証しているので,本書は非常に説得力がある。引用されている海外の文献も多く,よく調べられており,それらの文献の中では不十分であった国際的な産業構造の転換の仕方についても丁寧に説明している。取り上げられている主な事例は,GSM携帯電話の中国市場導入,半導体製造装置産業のグローバルエコシステム,インテルの共存企業との関係マネジメン ト,ボッシュとデンソーの取引先企業との関係マネジメントなどであり,各国の企業へのイン タビューの多さも圧倒的である。

 日本企業はオープンイノベーション力の強化が必要だが,Forbes誌のトップ100にランクイ ンしている企業の60社までがネットワーク効果を利用した成功であり,それはプラットフォーム戦略による成功とも言える。

 本書が日本企業に与える示唆としては,プラ ットフォーム戦略は標準化をトリガーとして経済的なエコシステムをつくることが目標になる こと,次に標準化に際しハブの立場への位置取 り,他社との分業マネジメントという手法を使い展開させることにより効果が上がること,そ してプラットフォーム戦略による産業構造が転換する可能性の存在である。またプラットフォ ーム企業が他社との分業マネジメントとして共存企業を選ぶとき,世界の中から新興国企業を選ぶことにより市場開拓も含めた効果をあげていることも示されている。

 これからグローバル産業競争はますます激戦になる。本書は世界で起きている事象を情報として把握し,自社の知識として役立てるために,企業戦略,知財戦略を策定すべき企業人が今のうちに読んで置くべき一冊である。自社のプラ ットフォーム戦略策定だけではなく,他社のプ ラットフォーム戦略への対応戦略を考えるときにも役立つヒントが多く含まれている。

(紹介者 専務理事 久慈直登)

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知的財産契約実務ガイドブック第3版 −各種知財契約の戦略的考え方と作成−

編著 石田 正泰 著
出版元 発明推進協会 A4判 408p
発行年月日・価格 2017年7月10日発行 4,000円(税別)
 ライセンス契約を中心に,知的財産契約の実務が一冊にまとめられた本である。本書は学術的な解説書とは異なり,知的財産契約に特化した実務解説書である。そのため,知的財産契約を皮切りにして,知財法務実務の全体像が概観できる内容となっている。第3版では,オープンイノベーションに関するテーマが加えられるなど,さらに内容が充実したが,各テーマがコンパクトなため,読みやすくなっている。

 第Ⅰ〜Ⅲ編では,知的財産契約を考えるために必要となる考え方が,あらゆる視点から示されている。
 第Ⅰ編では,知的財産の経営戦略上の機能に加え,戦略的知的財産人材といった組織の在り方にも触れられており,実践的な内容となっている。

 第Ⅱ編では,知的財産の基礎的事項に加え,ライセンス契約に先立つ事前調査について説明されているほか,契約の交渉,契約締結,契約 締結後の契約管理の各フェーズが概観されている。このように,契約書の審査にとどまらず,契約締結前後のプロセス全体を意識した検討がなされているのが本書の特徴である。

 第Ⅲ編では,知的財産と独禁法の関係がまとめられており,独禁法違反のリスクを考慮したライセンス契約の作文について,詳しく解説さ れている。

 第Ⅳ〜Ⅴ編では,知的財産契約書のドラフティングについて詳細に書かれている。
 第Ⅳ編では,契約ドラフトの基礎的事項として,「よい契約」について解説するものである。 第Ⅴ編では,特許・ノウハウのライセンス契約,特許譲渡契約,商標・意匠,著作権のライ センス,キャラクターの使用許諾契約に加え,共同研究契約など,幅広い契約類型について,それぞれ詳しく解説されている。本章では,前章までの解説を踏まえ,各契約類型の特徴に沿 って,契約交渉の事前調査から契約締結までの各プロセスに沿った解説が加えられている。ま た,契約ドラフトにあたって事実関係の整理に役立つチェックリストや契約文例なども掲載されており,本章だけでも非常に充実した内容と なっている。

 第Ⅵ編はケーススタディーが掲載されているが,第3版では「オープンイノベーションと知的財産契約」といった最新のテーマが加えられ,21ものケースについての考え方が示されている。 第Ⅶ編では,資料として公正取引委員会の指針等が掲載されており便利である。

 本書は,経営戦略や人材育成の視点を織り交ぜながら知的財産分野の契約実務が解説されているため,知財担当に求められる能力を考えるきっかけにもなる。

 契約担当のスキルアップ,知財実務をこれから学ぶ新入社員など,あらゆる読者にとって役立つ内容である。

(紹介者 会誌広報委員 Y.N.)

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米国特許出願書類作成および侵害防止戦略

編著 ベンジャミン J. ハウプトマン,キエン T. リー 著
川上 桂子 監修 安江 佳奈 翻訳
出版元 経済産業調査会 A5判 420p
発行年月日・価格 2017年9月4日発行 4,000円(税別)
 米国における実務に関する書籍はたくさん出版されているが,条文の解釈,MPEPの説明などに終始し,実際にクレーム作成,中間応答に即対応できる書籍は中々見かけない。通常,知財部員はスキルを磨くために米国研修などで特許弁護士から直接指導を受けることで習得する。小生自身,現地の特許弁護士からクレーム作成,中間応答のResponse作成を学んだが,そこで身に着けたノウハウがこの書籍の所々に見受けられる。以下で少し詳しく触れてみる。

 本書は,第1章で出願書類の作成について記載されている。まずは付録に記載されている「よだれかけの発明」についてのクレームドラフティングを解説している。米国特許弁護士の研修を受けると,発明事例を設定し,それについて クレームドラフティングの練習をすることがよくあるが,この章はまさにそのような研修が再現されたようである。一度作成したクレームを 一言一句,批判的に見直すことまで指摘しており,講師がそばにいて指摘しているようである。明細書の作成についての解説が続くが,ここで もクレームが限定的に解釈されないように使用する用語にも注意を払うことが記載されている。例えば,inventionという用語の使用を一切推奨しない,といった徹底ぶりである。

 第2章,3章では中間処理について解説している。著者は「中間手続において最も重要な要件は,出願経過履歴をできるだけ無傷な状態に保つこと」と言ってはじめている。このような考えは知財交渉に関わることがない限り,お目にかかることはないが,当初から強い特許取得を目的に書かれていることがうかがわれる。意見書の書き方についても丁寧に記載されている。小生の米国研修中にKSR最高裁判決があったが,それに伴い,103条拒絶への応答の仕方 についてとても注意を受けたことを記憶している。本書では第3章でKSR後の反論の仕方について大変わかりやすく解説している。反論に際 し,論理的記載に注意しながら,判決文で使われている文言をうまく入れ込むと効果的であるが,そのようなことも本書では指摘しており,研修当時の記憶がよみがえってきた。

 米国人による書籍は読みにくい場合が多い が,本書はとても読みやすい翻訳がなされていることも特徴である。しいて欠点を指摘するとすると,もう少し英語表記のままでもいいのでは,という箇所がある点であろうか。それにも増して米国実務経験者としては,実務経験者に是非本書を手元においておくことを推奨する。

(紹介者 会誌広報委員 Y.О.)

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