新刊書紹介
新刊書紹介
しなやかな著作権制度に向けて −コンテンツと著作権法の役割
編著 | 中山信弘・金子敏哉 編 |
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出版元 | 信山社 A5変 738p |
発行年月日・価格 | 2017年4月7日発行 7,800円(税別) |
第一線で活躍する15名の執筆陣による全17本の論文は「著作物の創作・利用に関わる環境は,従来の著作権法が前提としていた状況とは大きく異なり,現行著作権法の規定は,著作物に関わる多種多様な利害を適切に調整するためには硬直的に過ぎるものとなっている」との問題意識を共有する。その上で,著作権法学のみならず経済学,漫画文化論など広範な視座からそれぞれが考察を行うことで,各論文が相互に関連しあいながらもバラエティに富んだ内容となっている。
注目すべきは,著作権法学者ではなく法学者でもない経済学者の田中辰雄先生による論文「ぼくのかんがえたさいきょうのちょさくけんせいど−新しい方式主義の構想−」を,あえて第1章に据えている点である。「法律の門外漢だからこそ見えるものもあるだろう」と断りつつ,経済学者ならではの視点と分析に基づき,現行法制度に縛られず白紙の状態から理想の制度を大胆に論じている。本書のユニークさを体現するような示唆に富んだ提案内容であるが,「構想実現への道」を読めば決して夢物語ではないことに気付かされる。
一方で,ベルヌ条約も含め現行著作権法制度を前提とする中では,上野達弘先生をはじめ多数の執筆者が問題解決の鍵であると指摘するのが,米国フェアユース制度のような「柔軟な権利制限規定」の導入であり,様々な角度からその必要性や有用性が論じられている。
4月に公表された文化審議会著作権分科会報告書は「明確性と柔軟性の適切なバランスを備えた複数の権利制限規定の組合せによる「多層的」な対応」を行うとされており,今後改正法案の国会審議など具体的な検討が進んでいくと思われるが,法改正の内容と意義を正確に把握する上でも,また尚検討が必要である点を理解する上でも,本書は大きな助けになるであろう。
また現代は一億総クリエーター時代と言われ,好むと好まざるに関わらず著作権制度が一般の市民生活に影響する時代でもある。気軽に手に取れる分量と価格ではないが,著作権制度の役割とあり方について考察するには最良の一冊と言える。
(紹介者 会誌広報委員 S.M)