新刊書紹介
新刊書紹介
中国知財実務
編著 | 洗 理恵 著 |
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出版元 | 経済産業調査会 A5判 530p |
発行年月日・価格 | 2016年12月15日発行 5,000円(税別) |
本書は上記講座の教材としても使用されることから,「第1〜15講」という構成になっている。 最初に中国の知財法制度と国家知財戦略及び紛争解決システムについて概説したのち,専利(特許),実用新案,意匠,商標,著作権について,各2構程度を割いて権利化及び権利行使における制度と実務を詳述し,次いで反不正競争法,最後に技術移転の状況等を解説している。
大学院の講義と聞くと,各種法規の逐条解説的な内容を想像する方も居ると思われるが,本書では,重要な条項の解説はもちろん網羅しつつも,それのみに留まらず,出願・権利化の過程や権利行使における留意点,更に最近の判決例の解説等,企業の知財部員や特許事務所員等の実務担当者にも参考になる情報が盛り込まれている。
例えば,特許の審査における補正や分割出願の制限への対応,効果的な意見書の書き方等,実務上で担当者がしばしば悩まされる事項についても著者の経験をもとに丁寧に解説されているのに加え,特許以外の実用新案や意匠等も含め,日本の実務担当者として特にどのような点に注意すべきかが把握しやすいように,日中比較表や「日本にはあるが中国にはない制度」及び「中国にはあるが日本にはない制度」のような形で纏めるといった工夫がされている。
また,第14講(反不正競争法)では2016年にパブリックコメントの募集が行われた改正法の内容が,続いて第15講(技術移転等)では2015年までの技術契約の件数・金額といったデータ が,それぞれ含めて解説されており,変化が速い中国の知財分野の最近の動向を得る意味でも参考となる。
なお,第15講の後には付録として,専利法,専利法実施細則,商標法,商標法実施条例,著作権法,著作権法実施条例,更にそれぞれにつ いての司法解釈の和訳が掲載されている。これらは,日中双方の知財実務用語を知る著者が,日本の実務担当者が見て誤解を生じることのないように適切な語を選択し,また日本語にするとかえって紛らわしくなる場合は,敢えて中国語をそのまま用いて注記を付すといった形で翻訳したものであり,原文に忠実ながら理解しやすいように配慮されている。
前述の通り本書は,大学院の講義でも用いられるものであることから,幅広い内容が網羅的に系統立てて解説されており,初学者が基本事項を学ぶ際に役立つのは当然として,実務担当者が改めて留意点や最新情報を学んだり,実務上ふと気になることが出てきたときにそれを調べたりする際にも有用なものであるため,中国知財実務に携わる方にはぜひ手元に置いていただきたい一冊である。
(紹介者 会誌広報委員 H.A.)