新刊書紹介

新刊書紹介

コピペと捏造

編著 時実 象一 著
出版元 樹村房 四六判 224p
発行年月日・価格 2016年11月7日発行 1,800円(税別)
 日頃仕事をする上でパソコンをはじめとする電子機器を使わない日はないだろう。そして,業務上様々な文書を作成している中で「コピペ」機能を繰り返し使っている。「コピペ」は言わずもがな「コピー&ペースト」の俗称的な略語であり,日本でしか通じない言葉であろう。イ ンターネットのサイトから文章などを引用する際にはとても便利な機能である。しかし,「コ ピペ」を行う場合著作権などの法的問題に注意が必要であることは,社内教育が行き届いている昨今もちろんわかっていることではあるが,何気なくつかってしまうと,後で大変な問題につながってしまう。

 著者は本書のねらいの中で「コピペ」を行う行為について何がよくて,何が悪いのか,絶対的な尺度はないので,本書では様々な分野での事例をたくさん挙げ,読者がそのような場面に直面したとき考えるヒントを提供するもの,と述べている。

 本書の中で「コピペ」に似た言葉が様々登場する。「パクリ」,「パロディ」,「オマージュ」,「捏造」,「改竄(かいざん)」がそうである。これらの行為は,○か×かというと×に決まっているが,その境界は極めて難しく,複雑な議論が行われているところである。盗用の問題は歴史が古く,本書で紹介されている例は江戸時代のものがある。古い事例は主に文章や美術品として残っているものであるが,最近の事例では音楽,映画,演劇,漫画,キャラクターはもちろん,最近話題になったオリンピックのエンブレム問題も挙げられている。珍しいところになると,政治家や役所が行う報告書,教育現場における読書感想文などのコピペ,捜査報告書の改竄,といったものが事例として挙げられている。

 本書はとにかく様々な事例が載せられており,事例を通して個々の問題を考えるきっかけを提供するという位置づけである。アメリカでは「フェア・ユース」により「パロディ」が認められる場合がある。フランスでは法律で保護されている。一方日本はこのような仕組みがないため,「パロディ」の製作は極めて困難である。 先般TPPで議論が進んでいたが,米国大統領の交代で先行きが不透明になっている。

 近年ニュースで取り上げられるケースが多くなっている行為であるので,本書から社会的に問題となった事例を知識として取り入れておき,日常的に行われている「コピペと捏造」に対する問題に対処してはどうであろうか。

(紹介者 会誌広報委員 Y.О)

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