新刊書紹介

新刊書紹介

M&Aを成功に導く知的財産デューデリジェンスの実務〈第3版〉

編著 TMI総合法律事務所 デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー 合同会社 編
出版元 中央経済社 A5判 568p
発行年月日・価格 2016年5月27日発行 5,400円(税別)
 M&Aにおけるデューデリジェンス(以下, DDという)とは,買い手企業が買収対象企業の経営実態を把握し,問題点の有無をチェックするための調査及び査定を意味する。その中でも,知的財産DDは,知的財産を対象として,技術,ビジネス,財務・税務,法務等さまざまな観点から総合的に調査することを対象としている。昨今,時間をかけて研究開発をするより も,技術や知的財産を他社から取得することを 選択することがあり,技術や知的財産の取得の際に,その価値とリスクを調査,査定をする知的財産DDが着目されている。
 本書は,この知的財産DDという分野を体系的に説明したものである。以下,本書の概要について簡単に説明する。
 第1章「知的財産デューデリジェンスの概要」では,M&Aにおける知的財産の意義,知的財 産DDの目的,調査内容,M&Aスキームによる知的財産の扱いや知的財産DDで検出された事項の契約条項への反映について説明されている。
 第2章「法律面からの調査」では,その目的と手順,権利関係の確認(登録系及び非登録系),海外知的財産DDについて説明されている。
 第3章「M&Aに伴って必要となる法的手続」では,産業財産権,著作権,営業秘密,ドメイ ンについての移転,権利侵害・紛争の調査,管理体制の確認について説明されている。
 第4章「ビジネス・技術・財務面からの調査」では,ビジネス・技術・財務面からの知的財産DDの位置づけ,計画の作成,調査・分析手法,知的財産DDでの検出事項と交渉への反映について詳細に説明されている。
 第5章「価値分析」では,知的財産の種々の評価手法と評価結果の実務応用上の留意点について説明されている。
 第6章「スキーム,契約上の留意点」では,知的財産DDにより顕在化した問題点のM&Aスキームに与える影響,知的財産DD指摘事項の契約への反映について説明されている。
 特に第三版では,第二版からの追記事項として,最新の実務を反映するとともに,法改正や重要判例等を織り込んでいる。例えば,職務発明制度の見直し(平成27年改正)に対する知的財産DDでの新たな留意事項や,カーブアウト 案件における譲渡対象特許を特定する際の留意点について,記載を充実させている。
 トムソン・ロイターのデータによると,2015年に完了した世界のクロスボーダーM&A総額 は前年比20.5%増の1兆818億ドルと,前年に引き続き増加したそうである。第四次産業革命とも言われる昨今,技術の取得を主たる目的と したM&Aも増加傾向にあると思われ,知財部門が知的財産DDに貢献できる機会も増えてくるかもしれない。本書は,そうした機会に備え,企業の知財部員が知的財産DDを俯瞰するうえで,まさに教科書と言ってもよいだろう。

(紹介者 会誌広報委員 D. I.)

新刊紹介

Q&A 商標・意匠・不正競争防止の知識100問

編著 清水 節,髙野 輝久,東海林 保 編著
出版元 日本加除出版 A5判 504p
発行年月日・価格 2016年5月30日発行 4,200円(税別)
 先に刊行している「Q&A 著作権の知識100 問」の姉妹書であり,商標法,意匠法,不正競争防止法に関する実務上の様々な問題点について,Q&A形式でまとめたものである。
47名の裁判官が3つの法分野についての裁判例の中から重要なものを選択し,その判例を素材として100のQ&Aとしてまとめている。各事例について裁判官がどのような思考回路で事案を検討し,判断を下すのか,対象となる条文, 過去の判例を挙げて解説している。
多くの方が執筆されているため個々の案件で書きぶりに多少差はあるものの,概ね次のような構成で記載されている。
Q:まずは登録要件,審査,審判,侵害,不使用などの項目ごとに設題が用意されている。例えばQ12では,一般名詞「X」が宣伝販売の結果「A社といえばX」と知られるようになった場合,A社は商品名Xを商標登録できるか,という設題が挙げられている。
A:次に設題に対する回答になるが,まずは簡単に結論が記載されている。上の例だと,単に可能性はある,と書かれている。その後,そのような結論となるに至る詳細な解説が始まる。最初は問題の所在を整理している。ここでは, 条文およびその解説など一般的なことをわかりやすく解説しており,課題となっているポイン トをどの条文に当てはめて考えたら良いかがわかる。
 次に設題に近い判例についての解説がなされ,その上で本設題においてはどのように考えられるか,が解説されている。Q12ではあずきバー事件が詳しく説明されており,設題との共通点を解説している。最後に判例だけではカバーしきれていない部分を追加で解説しており,設題について考えうる当てはめを漏れなくしている。Q12においては商標法3条2項の判断に関し他の判例を挙げて,どのような論点があるか,さらに掘り下げて解説している。
 このような構成で商標63件,意匠10件,不正競争防止法27件について具体的事例が挙げられており,トラブルに直面したときの検討や解決に役立つ示唆や手がかりがまとめられている。 設題の中には平成27年度改正で導入された音商標などの新しい商標についても記載されており,登録要件,出願の仕方,類否問題などが簡潔に記載されている。また目次は項目だけが挙 がっているものではなく,Qがそのまま載っている点が使いやすい。
 本書は実務担当者にとって非常に役立つ内容になっているので是非お薦めする。

(紹介者 会誌広報委員 Y.О)  

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