新刊書紹介

新刊書紹介

改訂版 職務発明規定変更及び相当利益決定の法律実務

編著 高橋 淳 著
出版元 経済産業調査会 A5判 260p
発行年月日・価格 2016年4月15日発行 2,800円(税別)
 平成28年4月1日に「特許法等の一部を改正する法律」(平成27年法律第55条)が施行された。今回の改正によって一定の要件の下,職務発明の法人帰属が認められることとなったが,職務発明において企業の知財担当者が頭を悩ませる 問題は「相当の利益(改正前の相当の対価)」 の取扱いではないだろうか。
 従来より,職務発明の「相当の対価」は,その算定等の妥当性に関し難しい問題をはらんでいる。これに対し,筆者は本書の前身にあたる 「職務発明規定変更及び相当対価算定の法律実 務」を既に平成26年5月に出版しているが,本 書では,今回の改正で「相当の対価」が「相当 の利益」に変更されたことを踏まえ,知財部員 がかかる変更に対応できる様,ガイドライン案公表から間もない時期にタイムリーに出版された書物である点がポイントと言える。以下に本 書の内容に簡単に触れる。
 第1章,第2章では,従来の制度の概要と問 題点に焦点を当てて解説されている。即ち,旧法からの特許法35条を解説し,今日に至るまでの職務発明の一連の経緯を説明するとともに,従来採用されてきた支払方法,例えば実績補償 方式の問題点を説明している。実績補償方式を 採用している会社もあると思われるが,かかる方式のそもそもの問題点を確認する上でも本章は有用であろう。
第3章では,今回施行された改正特許法35条の内容が解説されている。ここでは単に35条が紹介されているだけではなく,改正に至る経緯や改正のポイント,法人帰属を採用すべきか否か,等,社内の職務発明規定の変更に当たり重 要なポイントが示されている。
 第4章,第5章では,「相当の利益」の決定 に向けた実務的な留意点が詳細に記載されている。まさに職務発明規定の改正に携わる知財部 員が知りたい内容が凝縮されており,内容は是非本書にて確認いただきたい。
 第6章では職務発明規定の具体的な変更手続きにおける留意点が,第7章には実務上の留意点が詳述されており,本書を一通り読むことで,「相当の利益」を含めた職務発明規定の改正のための知識を習得出来ると言えよう。
なお,「相当の利益」の算定方法に応じた職務発明規定案やガイドライン案が付録として記載されているため,これから職務発明規定の導入や改正を考えている知財担当者にとっても有 益な内容となろう。
 本書のはしがきにて著者は,ガイドライン公表から間もないことから憶測も含めて様々な情報が飛び交っている状況にあり,セミナーや書籍による情報収集を怠らないことが重要である ことを述べている。
 書は自社の職務発明規定の改正に携わる者にとってはもちろんであるが,企業の知財部員にとっても職務発明や相当の利益への理解のために重要な内容であろう。ぜひ,本書を手にとって理解を深めていただきたい。

(紹介者 会誌広報委員 Y.H.)

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日米欧 重要特許裁判例 第2版
―明細書の記載要件から 侵害論・損害論まで―

編著 片山 英二,大月 雅博,日野 真美,黒川 恵著
出版元 エイバックズーム A5判 515p
発行年月日・価格 2016年4月27日発行 5,400円(税別)
 本書は2013年5月に発行された同名の書籍の第2版である。読者にとって分かりやすい解説,日米欧の裁判例を比較する際に読みやすいように工夫された構成といった初版の基本的な特徴はそのまま継承した上で,初版発行後の約3年 間に相次いで示された実務上極めて重要な裁判例が追加で紹介されているところに第2版の特 徴がある。追加された裁判例の一部を以下に示す。
【日本】
  • プラバスタチンナトリウム事件最高裁判決(2015年):プロダクト・バイ・プロセスクレームに係る発明の技術的範囲の認定と,明確 性要件の判断基準を示した。
  • アバスチン最高裁判決(2015年):同じ有効成分,効能効果に係る先行処分が存在しても,後行処分に基づく延長登録出願が必ずしも拒絶される訳ではない旨を示した。
  • ごみ貯蔵器事件知財高裁大合議判決(2013年):102条2項の適用について,特許権者の実施を要件とするものではないとした。
【米国】
  • Nautilus最高裁判決(2014年):112条(b)のクレームの明確性要件について,従来のCAFC基準を破棄して,より厳しい新たな判 断基準を示した。
  • Myriad最高裁判決(2013年):単離されたDNAは101条の特許適格性がないが,相補的DNA(cDNA)には適格性があるとした。
  • Alice最高裁判決(2014年):コンピュータ関連発明について,101条の特許適格性の判断基準を示した。
  • Williamson v. Citrix CAFC大法廷判決 (2015):クレーム中にmeansという文言を用いなければ,112条(f)項の規定(means plus function)が適用されないという推定は強く ないとした。
 この他に,標準必須特許に関する裁判例が,日(2014年),米(2013年),欧(2015年)で立て続けに示されているが,これらは全て,第2 版で追加されている。
重要な裁判例が短期間に相次いで示されたため,中には,これらの理解が一部追いついていない読者もいるであろう。
 また,近年益々相互に影響を及ぼしながら動き続けている日米欧の最新の情報をアップデー トすべく,最新かつ同一テーマの裁判例を日米 欧で比較したい読者もいるであろう。
 そういった読者にとっても,本書は最適な一冊である。本書は最新の重要裁判例が網羅されているにもかかわらず,テーマごとに,かつコ ンパクトにまとまっているため,机上に常備しておき,必要な際に参照する資料としても最適 な一冊である。
 約3年間の裁判例の追加分の価値を踏まえれば,初版をお持ちではない方はもちろん,初版をお持ちの方でも,特許実務に関わるあらゆる 方に,入手をお薦めする一冊である。

(紹介者 会誌広報委員 S.Y.)

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不正競争の法律相談Ⅰ・Ⅱ

編著 小野昌延・山上和則・松村信夫[編]
出版元 青林書院 A5判 (Ⅰ)472p (Ⅱ)456p
発行年月日・価格 2016年4月27日発行 上下巻各 5,200円(税別)
 本書は「不正競争の法律相談」シリーズの最新版である。本シリーズは1997年に発売され,2002年,2010年と改訂を重ね,このたび最新版 が登場した。総勢70名を超える専門家が不正競争に関する100の質問に答えるという,なんとも贅沢な一冊である。冒頭で代表編集者の小野昌延先生(弁護士・法学博士)が語っておられるとおり,内容が充実しすぎて2分冊になったという本気度が窺える一冊である。
 私がこの一冊に出会ったのはこれまた偶然の出来事であった。本誌の企画ネタを探しにとある商標関連のセミナーに参加したときのこと, 偶然に小野先生がいらっしゃった。小野先生はその場にいた実務家のメンバーに対して激励の 言葉を投げてくださるとともに,本書を紹介してくださったのである。なお,その席には共同編集者の松村信夫先生,執筆者の足立勝先生もいらっしゃったので,なるほどこれは読んでみなければと俄然興味が湧き,このたび新刊書紹介を願い出た次第である。
 まず(Ⅰ)では総論として「不正競争」の概念や渉外に関する解説が置かれ,次に2条1項1号〜10号の各種不正競争行為が解説されている。ここで注目すべきは本シリーズの特徴である質問形式での論点解説である。しかも,その質問というのが今まさに実務の最先端にいる実務家が直面しそうな悩みなのである。とくにわかりやすい一例を挙げると,「3Dプリンターで 商品がコピーされたとき,取りえる法的手段はなんですか?」である。質問が具体的なため読 書の目的意識が働き,頭に入りやすい。そして各セクションが10ページ程度と短くまとめられているのも筆者のように脳内メモリの少ない人間には優しい設計である。通読するのもよいが,手元に置いておいて気になった問題があったときにパッと開いて使うのに重宝しそうだ。
 そして(Ⅱ)では,2条1項11号〜18号,民事訴訟,刑事責任に関して(Ⅰ)と同じく質問形式で解説されている。
 本書は判例を中心にまとめてあるため,教科書的な内容というより極めて実務的な内容となっている。不正競争行為の概念は技術・ビジネスの発達に伴って日々刻々と変化しているため,最新の判例をベースにした正確な知識を習得するには最適だろう。
 不正競争防止法は産業財産権四法を補完する重要な法律である。その一方で,不競法がカバーする領域は技術,デザイン,商品等表示など多岐にわたるため,正確な解を導くには個別の論点での深い知識が要求される。本書はこのような多岐にわたる論点に対して各方面の専門家が解説してくれるというのだから,とてもありがたい一冊だと思う。実務の最先端にいる知財マンの皆様にぜひお勧めしたい。

(紹介者 会誌広報委員 T.K.)

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