新刊書紹介

新刊書紹介

特許の英語表現・文例集 増補改訂版

編著 W. C. ローランド,奥山尚一,N. マッカードル,J. T. ムラオカ,時國滋夫 著
出版元 講談社 A5判 272p
発行年月日・価格 2016年2月10日発行 3,400円(税別)
 特許の国際競争に勝つには,英文表現法にも コツが必要であると言われる。用語選定の誤り で思わぬトラブルを生じたり,類似の特許を取 られたりするからだ。
 本書は,英語のプロが特許の極意を指南する 良書として2004年に出版された「特許の英語表 現・文例集」の増補改訂版である。
 本増補改訂版では,先願主義が導入された 2011年の米国特許法改正(America Invents Act (AIA))を受けて必要な加筆修正を行い,さら に「特許翻訳」の章が新設されている。
 本書を目次に沿って紹介すると,
第1部 「米国特許の基礎知識」では,
第1章 米国特許制度の原則,
第2章 米国特許出願書類作成上の注意 が記載されている。
 第2部 「特許の英語表現」では,
第3章 米国特許出願書類を英語で書くとき の基本的事項,
第4章 特許でよく使われる英語表現,
第5章 日本語に対応する英語表現 が記載されている。
 第3部 「知っておきたい特許関連情報」では,
第6章 特許データベース
第7章 代理人選定の方法
第8章 特許翻訳についての一考察 が記載されている。
 本書では,実際に役立ちそうな例が豊富に挙 げられている。例えば,日本の明細書をそのま ま翻訳したときに用語選定や表現の問題で実際 よりも狭く解釈されるようなことがあるが,そ のようなミスをできるだけ少なくするノウハウ が具体的に記されている。類書の中では,一番 新しく実践的な内容だと思われる。特に,第3 部「知っておきたい特許関連情報」では,翻訳 以外の点でも有用なデータベース活用方法な ど,実務家にとって興味深い内容が記載されて いる。
 また,本書の特徴としては,必要な事項や語 彙を目次や索引から見つけて読むことができる ため,必要とする知識を容易に得ることができ る点である。その一方で,全文を読み通せば, 今まで断片的に有していた知識が有機的につな がり,英語の語彙に関する理解を深めることが 可能であろう。
以上,紹介したように,本書は,技術者,研 究者などの特許発明者,企業の特許担当者,弁 理士や特許事務所の担当者,特許翻訳者など, 米国を含むグローバル特許に関連した業務を行 う全ての方々にとって貴重な一冊になるであろ う。英語の得意な方も苦手な方も,机のそばに 置いてみることをお勧めしたい。

(紹介者 会誌広報委員 Y.D)

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特許法〔第三版〕

編著 中山 信弘 著
出版元 弘文堂 A5判 612p
発行年月日・価格 2016年3月30日発行 4,500円(税別)
 本書は知的財産法の第一人者である中山信弘 氏による旧版から3年半を経て出版された待望 の改訂版である。「はしがき」において「特許 法は完結した1つの法典ではあるが,社会的に は単独で存在するものではなく,社会の歯車の 1つに過ぎない」とあるとおり,本書の中では 時代とともに変化する技術や経済環境に加え, 南北問題や人権問題,生命倫理問題等の社会的 な環境変化の中における特許法の意義について 述べられている。普段の特許実務の忙しさの中 で,このような体系書を読み進めることは忘れ がちだが,序章にある「知的財産法の存在理由」 は現在が知財の曲がり角に差し掛かっているこ とを気づかせてくれる。経済のボーダレス化等, かつてとは異なる経済環境下においては知的財 産法の重要性が高まっているとしつつ,情報を 独占するのではなく,お互いに共有し合うこと により社会を発展させる「コモンズ」という考 え方の台頭や,権利の増加に従って特に電気・ 機械の分野における「特許の藪」問題や,「パ テント・トロール」の問題等が起こっている中 で,知的財産制度の強化だけが社会のプラスで はなく,情報の自由利用と独占との間のバラン スをとることが重要と述べられている。知財の 実務者がこのような体系書から知財制度を,そ の意義から考えることは,自身が置かれている 知財の大きな潮流を知る上で重要である。

 制度改正に関しては,旧版出版時からの3年 半の3度の改正により,特許異議申立制度の復 活,救済措置の拡充,職務発明制度の改定等が 行われた。また,特許の重要な判決も出現して いるが,本書ではこれらの比較的新しい変化に ついても重厚に書き上げられている。

 職務発明制度の改定については「従業者発明 制度の意義」から始まり,従業者と使用者のイ ンセンティヴのバランスが制度設計上重要な観 点であることが述べられている。その上で,関 連法領域35条の基本構造,職務発明制度の歴史 と現状,今次改正までの経緯,27年改正の解釈 について述べられている。また,外国における 特許を受ける権利の扱いや,共同発明など,職 務発明を扱う上で解釈に迷うケースについても 解説されている。

 異議申立制度については,これまで目まぐる しく制度が変化してきたが,過去からの改正の 流れとともに,平成26年度の改正ポイントが解 説されている。また,訴訟に関しては,プロダ クト・バイ・プロセス・クレームの侵害訴訟は 平成27年の最高裁判決が記憶に新しいが,この 判決の論点や解釈を平成24年の知財高裁大合議 判決との対比を織り込みつつ述べられている。

 特許法に関する最新の論点,解釈を説明する とともに,社会環境とともに変化が求められる 特許制度の進む道について示唆を与えてくれる 本書は,特許に関わる全ての人に一読いただき たい一冊である。

(紹介者 会誌広報委員 T.A.)

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日本の著作権はなぜもっと厳しくなるのか

編著 山田 奨治 著
出版元 人文書院 B6判 208p
発行年月日・価格 2016年4月20日発行 1,800円(税別)
 2015年10月5日,TPP(環太平洋パートナー シップ)協定が大筋合意に達した。このまま発 効に至るかどうかは政治情勢次第であるもの の,TPPで著作権に関して合意された内容は保 護の強化ばかりで,さながら米国著作権法の権 利者に都合の良い部分をTPP加盟国に対し輸出 するようなもの,といった根強い批判がある。 では,なぜそのような事になったのか,あなた は説明できるだろうか?

 そもそも著作権法の基本的な考え方は,著作 物の権利を保護しつつ,利用の利便性とバラン スさせることにより文化の発展に資することに あるとされるが,TPPの問題より前から,例え ば違法ダウンロードの刑事罰化など,保護を強 化する方向での著作権法改正が我が国では続い ている。この大きな背景は,1990年代以降デジ タル環境が急速に進歩し,著作物の創作・流 通・利用環境が一変している事にあるが,こう した変化の中で「誰が」「何のために」「どのよ うにして」著作権法の「何を」改正してきたのかについて,本書では公開された文書を詳細に 分析し,経緯を紹介している。

 第1章から5章までを一読すれば,TPPの合 意内容も含め,近年の著作権法改正が保護強化 に強く傾くこととなった原因を良く理解できる ものとなっているが,では保護と利用とのバラ ンスを取り戻すためには,何がなされるべきで あろうか? そこはおそらく,著者が敢えて本 書では書かなかった部分であると思われる。ネ ット社会に生きる現代人にとって,著作権法は 日常生活にも,会社等の事業活動にも非常に大 きな影響を与えるものであり,まずは法改正の 動向を注視する事から始め,何をすべきかについては読者各自で考えて行動に繋げて欲しいと いう著者のメッセージであろう。

 また本書では,TPP交渉での著作権をめぐる 議論がウィキリークスへの文書流出による影響 を受けている事実を,流出文書の分析によって 明らかにするなど,ネットの影響が外交や研究 のあり方をも変容させている事を示す一方で, 附章として取り上げている五輪エンブレム盗作 騒動では,ネット世論の暴走の危険性について 課題提起をするなど,インターネットの功罪両 面に触れている点でも興味深い。

 本書を通じて,このような法改正に至る経緯 を学ぶというのは,我が国の立法・法改正のプ ロセスや力学,政治との関わりなどを理解する という点でも極めて有意義であり,実務で著作 権に直接関わりの無いような方にとっても非常 に参考になるものと考える。知財の初学者から ベテランまで,幅広い層の方に手にとっていた だきたい一冊である。

(紹介者 会誌広報委員 S.M)

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