新刊書紹介

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新・不正競争防止法概説(第2版)

編著 小野昌延,松村信夫 著
出版元 青林書院 A5判 792p
発行年月日・価格 2015年9月28日発行 8,000円(税別)
 上を見てピンと来られたであろうか。概説と言いながら800頁近い大著である。確かに著者の手による注解より薄いとはいえ,もはや概説の域を超えた質と量である。以前小職が職場で特許法概説を見ていたら,横を通りかかった研 究員が「こんなに分厚いのに概説?」と驚いていたのを思い出した。では中を見てみよう。

 まずは構成。序説,不正競争行為(第2条),不正競争とならない行為(第19条他),救済は民事(第3条,第4条,第14条他)と刑事(第 21条他),そして判例索引とある。第2条の解説が約半分でこの部分が厚くなるのはわかるが,序説にも約90頁を割き,また判例索引で32 頁を要しているところが目に留まる。

 次に内容。序説では法律以前の問題である営業や競業といった問題から始めている。そして各国の法律の沿革に触れ,その後不正協業の法律の概念と地位を説いている。単なる条文を解 説する書籍では触れられない,この法律の根本 的なところを学ぶことが出来る。特に営業秘密管理について立法時の誤りや欠陥を指摘し,立証責任を秘密保有者ではなく漏えい者にするべ きとのくだりは目から鱗が落ちる。

 本論は不正競争行為から。第2条各号に沿って解説している。商標主体等混同行為が最も厚いのは当然として,著名表示の冒用から営業誹謗行為についてもそれぞれ丁寧に説明されている。その説明は単なる条文解説と判例紹介に留 まらず,立法過程や今なお残された問題点について言及されている。

 適用除外行為は第19条各号を中心に解説している。それより,不正競争防止法ではないが不正競争とならない行為についても解説している ところが奥床しい。真正並行輸入等他法域との関係や公序良俗など各種存在することを判例で示している。

 救済は民事と刑事に分かれている。民事については商号登記の抹消や廃業といった事例まで取り上げている。また弁護士らしく損害賠償については信用損害や弁護士費用にまで言及している。刑事については各号を解説した後,営業秘密の改正点についても触れている。

 最後に判例索引は明治37年判決から平成26年判決までの約1,000件が掲載されている。不正競争防止法の歴史がここに取りまとめられているとも言えよう。

 このように本書では単なる条文解説と判例紹介で構成された書籍では触れていない,これら の行間や不正協業の基盤の話を補っている。よって本書は不正競争防止法を一度は勉強したが,深く学び直したいという方にお勧めしたい。

(紹介者 会誌広報委員 村上)

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