新刊書紹介
新刊書紹介
別冊NBL No.149 共同研究開発契約ハンドブック―実務と和英条項例
編著 | オープン・イノベーション・ロー・ネットワーク 編 |
---|---|
出版元 | 商事法務 B5判 320p |
発行年月日・価格 | 2015年4月27日発行 4,000円(税別) |
これを真に有益な取り組みとする上で欠かせないのが,自社・研究開発パートナー双方の事 業に照らした適切な契約である。
本書は,大阪弁護士会の弁護士が中心になり, 企業・大学の実務担当者も交え,「オープン・ イノベーション」にかかる契約の主役である「共同研究開発契約」について企業・大学等の実務の目線から検討した結果を踏まえ,前後して取 り決める契約(秘密保持や共同出願,研究成果実施など)も含め,網羅的に解説したものである。企画から成果活用に至るまでの研究開発活動の流れを踏まえつつ,企画段階で検討しておくべき項目や個々の契約条項の趣旨・目的や取り扱いの考え方,具体的な条文のワーディングの仕方等を,例を示しつつ具体的に説明している。英文契約の場合の条文例など外国企業との共同研究開発を検討・契約交渉する場合の留意 事項や,実務で悩むことの多い「秘密情報」や「成果の帰属」,「成果活用」,「改良発明・関係発明」の扱いや産学連携にかかる契約について紙面を割いて解説している。また技術分野やパートナー間の関係(競合者間,上流・下流メーカー間,産学間など)を異にする想定事例により契約案策定・交渉上の留意点を概説するなど,実務を踏まえた構成となっている。
法務・研究管理の基本を押さえた説明であり,新たに知財関連契約の交渉・運用などに携わることとなった初学者から,改めて自分の知識・経験を基本に照らして確認・整理したい経験者まで,幅広い層の参考になる内容と思われ る。私自身も担務上研究開発にかかる契約の検討に参画する機会が多々あるが,契約内容の検討・交渉にあたり,個々の案件毎に自社・パー トナー双方の研究開発の目的やリスクについて,関係者間で適切に認識合わせすることの重要性を再認識するなど,より良い対応を行う上でのヒントを得ることができたと感じている。
また内容の網羅性などから,各会員企業においても,研究開発の企画の場面や,研究開発契 約のドラフティングあるいは相手方から提示を 受けた契約書案のチェックの際の参考資料として,有益に活用できるものと思う。
(紹介者 会誌広報委員 H.H)
新刊書紹介
はばたき―21世紀の知的財産法 ―中山信弘先生古稀記念論文集―
編著 | 小泉直樹・田村善之 編集委員 |
---|---|
出版元 | 弘文堂 A5判 1,104p |
発行年月日・価格 | 2015年6月15日発行 14,000円(税別) |
本書は,
第Ⅰ編 知的財産法全般(『知的財産推進計画の成果と課題』など)
第Ⅱ編 特許法・実用新案法(『世界からみた日本の特許訴訟』,『特許の共有をめぐる諸問 題』,など)
第Ⅲ編 著作権法(『フェアユース規定導入の比較法的再検討』,『苦悶する著作権契約』など)
第Ⅳ編 商標法・意匠法・不正競争防止法等(『商標とブランドの「法と経済学」』など)
第Ⅴ編 関連分野(『独禁法の展望』など)の5つの章からなるが,単なる記念論文集に留まらず,それぞれの分野に
おける著名な執筆者54名による論文が収録されている。
豪華でボリューム満点の論文集であるため,選ぶのが心苦しいが,2つの論文を紹介させて頂く。
1.『発明の要旨認定と技術的範囲画定におけるクレーム解釈の手法』(愛知靖之)
本論では,審査段階と侵害訴訟とで広狭相異なる解釈を許さないとする立場(シングルスタ ンダード論)に基づき,公知技術による限定解釈や訂正の再抗弁
などの問題について検討されている。このシングルスタンダード論については,今年6月5日のPBPクレームに関する最高裁判決の補足意見においても「無効の抗弁の成否
(当該発明の新規性・進歩性の有無)を判断する前提となる発明の要旨認定をする場面と,侵害訴訟における請求原因として特許発明の技術的範囲を確定する場面とが同一の
訴訟手続において審理されることとなった。そうすると,両場面におけるPBPクレームの解釈,処理の基本的な枠組みが異なることは不合理であるから,これを統一的に捉える
べきであり,このことは我が国の特許法制上当然のことであって,多数意見は,この見解を前提に,両場面ともいわゆる物同一説により考える」と述べられており,今後の
実務上の問題を解決できる一考であると感じた。
2.『 著作権法における応用美術の保護のあり方』(横山久芳)
今年4月14日の応用美術の著作物性に関する知財高裁判決にて,「表現物につき,実用に供されること又は産業上の利用を目的とすることをもって,直ちに
著作物性を一律に否定することは,相当ではない」,「応用美術に一律に適用すべきものとして,高い創作性の有無の判断基準を設定することは相当とはいえず,個別具体的に,
作成者の個性が発揮されているか否かを検討すべきである」との前提のもとで,幼児用椅子の著作物性が認められた。
本論では,これまでの応用美術の保護要件を巡る 対立や諸外国での取扱いについて詳しく解説された上で,応用美術の著作物性の判断のあり方が検討されており,応用美術の著作物性を理解する上で非常に参考となった。
最近話題の判決に関連する2つの論文を紹介したが,他の論文についても,知財法の現状と課題,今後の進むべき道が提言された,まさにタイトルに相応しい内容と なっている。
(紹介者 会誌広報委員 R.N.)
新刊書紹介
意匠の実務
編著 | 吉田 親司 著 |
---|---|
出版元 | 経済産業調査会 A5判 520p |
発行年月日・価格 | 2015年7月31日発行 5,000円(税別) |
第2章では出願後の審査の流れ,拒絶理由・ 審判への対応について解説されている。特に,拒絶理由通知への対応として必要となる意見書作成や,審判・訴訟においても重要となる創作非容易性の判断基準については,実務上押さえておくべきポイントについて多数の事例とともに丁寧に解説されている。
第3章では意匠権の権利範囲,他人の登録意匠等との関係(利用,抵触関係),各種実施件の設定,及び意匠権侵害への対応について解説されており,第4章では2015年5月に我が国が締約国となったハーグ協定のジュネーブ改正協定を利用した意匠の国際登録の概要及び運用について触れられている。
本書では,著者の長年に渡る特許庁での審査・審判実務,及び特許事務所における弁理士としての実務経験に基づき,意匠の出願から権利活用までを実務に則した観点から詳しく解説されている。
意匠の実務に関する本があまり出版されていない中,最新の制度解説とともに,実務上必須となる意匠の権利化書類の作成から,権利活用,侵害対策の留意事項までを数多い事例や判例を 使ってまとめられている本書は,意匠に携わる者や,意匠の学習を始める者にとって必携の書と言えるだろう。
(紹介者 会誌広報委員 T.A)