新刊書紹介
新刊書紹介
インド特許法改正と医薬品産業の展望
編著 | 三森 八重子 著 |
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出版元 | 医薬経済社 四六判 163p |
発行年月日・価格 | 2015年2月25日 発行 1,500円(税別) |
世界の医薬品企業は製造のアウトソーシングを 加速しており,今やインドは医薬品の生産高に おいて世界第4位になったからだ。また,イン ドがTRIPS協定を順守するために2005年特許法 改正で物質特許制度を導入して10年が経過する,という側面もあるだろう。
しかし,インド特許法下においては,先進国には見られないアンチ・パテントの動き,例えば,「3条d項」に基づく特許の登録拒絶や強制実施権の許諾などが 散見される。ノバルティスの「GLIVEC」特許では2013年にインド最高裁で拒絶査定が確定し, バイエルの 「NEXAVAR」特許では強制実施権に対する異議が2014年に最高裁でも棄却された。プロパテント政策の下で従事する我々日本人の実務家からは,なかなか理解できないことが起きている。
このような状況において,本書は,インドが物質特許制度導入以前の20世紀に如何にして発展を遂げ,2005年の物質特許制度導入を機にどのような行動をとり,それによりどのような成 果を生み出してきたのか,膨大なデータを基に解析解説されたものである。
本書を目次に沿って紹介すると,1章及び2章では,研究の目的とともに,インド医薬品産業の現状並びに1970年及び2005年インド特許法 改正の変遷について書かれている。
3章では,インドが物質特許制度導入後も発展を続けている理由として,『インド政府がTRIPS協定の義務を果たす一方,国内産業を保護するために, 「2005年改正特許法に,特許性を厳しく制限する条項(3条d項)を挿入した」』 とする仮説が設定されている。
続く4章では,先行研究を検討するとともに,5章では,インド医薬品産業の各種データを分析し,「インドの医薬品産業が1995年のTRIPS発効及び2005年の質特許制度導入を機にどのような行動をとり,それによりどのような成果を生み出したか」が考察されている。更に6章では,インドの医薬品産業団体とのインタビュー結果から3条d項の効果を検証し,加えて政府関係者とのインタビュー結果から3条d項を取り入れた政府の意図が紹介されている。
本書の中で,「3条d項は,インド政府が,インドの医薬品市場とインドの国内企業を守るために意図的に導入したものである。」「これにより,猶予時間を与えられたインドの国内企業は,後発品専業ビジネスから先発品も扱う総合的なビジネスモデルへと転換することが可能となった。」と結論付けられている点は興味深い。
本書は,インドの医薬品産業に関する本があまり出版されていない中,特許法の観点から様々なデータを基に,同産業の歴史と今後の展望や課題についてコンパクトにまとめられた良書である。医薬品産業に携わる者は,一度書店等で手に取ってみることをお勧めしたい。
(紹介者 会誌広報委員 Y.D)