新刊書紹介

新刊書紹介

アメリカの最高裁判例を読む −21世紀の知財・ビジネス判例評釈集−

編著 知的財産研究所・尾島明 共編
出版元 知的財産研究所 A5判 591p
発行年月日・価格 2015年2月6日発行 4,000円(税別)
 本書では,ここ10年間に出された知的財産関 連のアメリカ最高裁判例のほとんど(特許関連 15件,商標関連4件,著作権関連4件,その他 2件を含む計25件)が収録され,各事件につき, 詳しく且つ分かりやすく解説されている。

以下,皆さんもよくご存知のKSR事件を取り 上げて,本書のオススメ・ポイントを紹介する。

1.判示事項と判決要旨
 全事件の解説の冒頭に判示事項と判決要旨が 付されている。KSR事件については,
- 発 明の非自明性の判断は,いわゆるTSMテ ストを厳格に適用し,教示,示唆又は動機 付けといった形式的概念による検討を硬直 的に行うようなものであってはならない。
- 先 行技術の組み合わせが自明であるか否か の判断をするにあたっては,文献に記載の ない当業者の有する技術常識を考慮するこ とができる。
と端的にまとめられており,事件の争点と最高 裁が出した結論を一読して理解できる。

2.事件の経緯
 事件の経緯が詳しく紹介されている。KSR事 件では,上告受理の決定の経緯において,産学 からの受理決定の要望に加えて,米国政府から の受理決定の強い要請があったことが紹介され ている。本判決は,私が知財の仕事を始めた頃 に出されたものであり,判示については理解し ているつもりであったが,このような背景につ いては初めて知った。

3.判決の解説
 原審の判断や関連する過去の判決についても 丁寧に解説されているため,判決の争点や前提 をよく理解できる上,とても勉強になる。また, KSR事件の解説では,本件特許発明や先行技術 についても,3ページを割き,図面を用いて丁 寧にフォローされているため,判決の内容をよ く理解できる。

4.考察
 判決が実務上どのような影響を及ぼすか,ど のような点に留意すべきかが十分に検討されて いる。また,取り上げられたほとんどの事件に ついて,日本の法律・基準との比較検討がなさ れている。
 KSR事件の解説では,日本の進歩性判断との 比較に加えて,欧州特許庁の進歩性判断との比 較についても検討されている。しかも,日本の 審査基準や欧州特許庁の審査ガイドラインに基 づき,詳細に解説されているため,米国判例か ら日本・欧州の進歩性判断を学ぶことができる。

 以上のとおり,本書では,各事件につき,丁 寧に解説され,実務的な考察も充実している。 そのため,初学者から上級者まで米国実務に携 わる全ての方にオススメの一冊である。

(紹介者 会誌広報委員 R.N.)

新刊書紹介

中国商標法逐条解説 ─第三次改正完全対応版─

編著 遠藤 誠 著
出版元 日本機械輸出組合 B5判 245p
発行年月日・価格 2015年2月25日発行 2,800円(税込)
 商標法は,ビジネスの根幹・インフラを形成 するものであり,知的財産権に関する法律の中 でも,最も重要なものの一つである。
 中国は,商標出願・登録件数が世界第一位の 商標大国となっており,日本企業・日系企業は, 改正中国商標制度を十分に理解し,中国商標実 務に適切に対応することがますます重要となっ ている。
 中国商標法は1982年に制定され,WTOに加 盟するため,及びTRIPs協定との整合性をはか るために,2001年に第二次改正が行われた。
第三次改正は,2003年より改正作業が開始さ れ,10年がかりでようやく2013年8月30日に成 立し,2014年5月1日より施行されている。
 中国では,従来から,模倣品や商標の冒認出 願・抜け駆け登録の問題が大きな注目を集め, 膨大な数の紛争が生じていた。改正の基本的方 向性は,商標保護の強化,冒認・抜け駆け登録 への対策の強化等を目指すものであり,発生し ている様々な問題へ対応する改正となっている。
 第三次改正の内容のうち,音声等の商標登録 の導入,馳名商標の認定機関の限定,商品,包 装・容器,広告宣伝等における「馳名商標」と 表示することの禁止,代理人・代表者以外の, 契約,業務取引関係等のある者による冒認出願 の禁止,異議申立制度における申立主体の制限, 「商標の使用」の定義の変更,登録商標専用権 侵害行為の要件追加,先使用権規定の追加,登 録商標専用権侵害の損害賠償請求の制限等は, 日本企業・日系企業にとって関心の高い事項と 思われる。
 また,一出願多区分制の導入,審査等の期限 の明記,商標登録の更新手続期間の拡大,登録 人の名称・住所等の登録事項の変更申請義務等 は,企業担当者の業務とも密接に関連するもの と思われる。
本書は,企業の担当者が中国の商標法に関す る実務上の諸問題に対処する際の便利な手引き 書・座右の書となることを目的に作成されてい る。
 逐条解説編では,商標法の条文ごとに,関連 する商標法実施条例,司法解釈,実務上の留意 点等が整理して記述され,読み進めながら商標 制度の体系的な理解もできるよう配慮されてい る。
 参考資料編では,中国商標法の第三次改正の 要点,中国商標法実施条例の第一次改正の要点 として,中国商標法及び実施条例の改正内容及 び改正理由等について解説されている。また, 改正前後を比較した中国商標法新旧対照表,中 国商標法実施条例新旧対照表が掲載されてい る。
 なお著者は,具体的な案件ごとに,弁護士等 の専門家に相談しながら対応するようアドバイ スしている。
本書は,中国商標法の入門者にとっても,こ れまで中国商標に携わったことのある読者にと っても,役立つ一冊になるものと思われる。

(紹介者 会誌広報委員 M.T.)

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