新刊書紹介

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裁判例から見る進歩性判断

編著 高橋 淳 著
出版元 経済産業調査会 A5判 350p
発行年月日・価格 2015年1月6日発行 4,000円(税別)
 進歩性の判断基準は時代とともに変遷してい る。1990年代,特許庁の進歩性判断基準が緩め られてからは特許が認められやすい時代が続い たが,2005年の知財高裁設置以降は裁判所にお ける進歩性のハードルが上がり,特許権者にと って厳しい時代となっていた。
その後,近年の知財高裁では進歩性のハード ルが再び低くなり,従来進歩性が認められなか ったような発明に対しても進歩性が認められる ケースが増加している。本書では,進歩性が争 点となった近年の知財高裁判決を分析し,特に 進歩性判断時における「事後分析的判断」の回 避という観点から,現状の知財高裁における進 歩性判断基準を考察している。
 進歩性を判断する際,判断者が「事後分析的 判断」を回避するのは容易ではない。例えば, 主引例適格性を検討する際,判断者は既に対象 発明の構成や課題の解決手段を知っているた め,主引例の選択はそれほど困難には感じられ ない。しかしながら,発明を着想する前の発明 者は当然発明の構成や解決手段を知らず,数多 くの技術の中から適当な主引例を選択すること は困難であることも多い。判断者はこのような 認識の違いを正確に把握しなければならない が,その線引きは容易ではない。また,想到性 判断の際には発明時の技術常識に基づいて正確 に事実認定をしなければならないが,判断者は 判断時における技術常識を既に知ってしまって いるため,発明当時の技術常識を正確に捉える のは簡単ではない。
 近年の知財高裁では,回路用接続部材事件(平 成20年(行ケ)第10096号)をはじめ,このよう な事後分析的な判断に関する一般論を展開して いる裁判例が散見される。さらに,本書によれ ば,いくつかの裁判例においては一般論の展開 のみならず具体的適用の局面においても事後分 析的判断を回避するための枠組みが提示されて いるとのことである。本書後半の裁判例分析編 では,進歩性が争点となった25件の最近の知財 高裁判決を「事後分析的判断」の回避という観 点から統一的に分析されており,現在の知財高 裁の判断基準について納得感のある解説がなさ れている。加えて,事後分析的な判断を排除す るために判断者が意識しておくべき点について も触れられており,実務上有用である。
 また,本書前半の理論編では,進歩性判断に 関する基本事項が丁寧に解説されている。特許 法29条2項の構造からスタートし,進歩性判断 の各ステップに沿って,「想到性」,「容易性」,「動 機付け」,「主引例適格性」,「設計事項」などと いった進歩性判断を理解する上で必要不可欠な 概念やキーワードについて,分かりやすく解説 されている。解説の中では各項目に関連する裁 判例の紹介,概念をモデル化した説明も含まれ ているため,進歩性について詳しくない方であ っても理解を深めながら無理なく読み進められ る内容となっている。
 進歩性の判断は難しい。そう感じる全ての実 務担当者に是非お勧めしたい一冊である。

(紹介者 会誌広報委員 HI)

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