新刊書紹介

新刊書紹介

2013年版 化学・バイオ 知財判例年鑑

編著 廣田 浩一 著
出版元 山の手総合研究所 A5判 510p
発行年月日・価格 2014年11月1日発行 12,000円(税別)
 皆様の職場では,“判例研究会”といったよ うな職場内勉強会はあるだろうか?
 私が勤務する製薬会社では,毎月そのような 勉強会が開催されている。判例を解説してもら ったりディスカッションしたりするところまで はいいのであるが,年に1度は講師役が回って 来て,その度に「今回はどの判例を題材にしよ うか」と思い悩んだ経験がある。特に,若手の 時代は,題材となる判例を選ぶだけでも四苦八 苦して,よく先輩部員に聞いて回ったものである。
 本書は,化学・バイオ分野の知財実務家のた めの判例年鑑として2012年の一年間に出された 判例(全119件)を一冊にまとめた「2012年版 化学・バイオ 知財判例年鑑」の“2013年版” である。

 本書(2013年版)では,増加傾向にある2013 年の化学・バイオ分野の知財判例全135件が収 録されているが,使い易さを考慮してレイアウ ト等が大幅に変更されている点に注目したい。

 2012年版では判例の掲載順が判例日順となっ ていた。しかし,実務において判例をサーチし 参考にする場合には,同じ技術分野の判例があ るか,同じ争点(条文)の判例があるかなどの 情報が特に重要となるが,2012年版ではそのよ うなレイアウトにはなっていなかった。本書 (2013年版)では,判例を「化学」,「医薬類」,「バ イオ」及び「食品」の大きく4つの技術分野毎 に,かつ,各技術分野においては争点(条文) 毎に整理して掲載され,化学・バイオ分野の知 財実務家に使い勝手の良い判例集に生まれ変わ っている。

 個別の判決紹介においては,判決日,事件番 号,裁判所,裁判官,当事者,発明の名称など, 争点,関連条文,分野などの情報が一見してわ かるようになっているだけでなく,実務家とし て知りたいポイントや著者の見解等が示されて いる。また,「事案の概要」の欄では,出願番 号又は特許番号,審判番号,引用例の公報番号 等を示されており,個々の実務家が更に詳細検 討することができるよう事例研究に適した構成 となっている。

 さらに本書では,リストやグラフ等を用いて, 各判例の概要を示すことのみならず,化学・バ イオ分野における判決のデータ分析結果が掲載 されている。例えば,知財高裁で覆ったケース が何%であるのか,或いは,新規性,進歩性等 が認められたケースは何件あるのか等も簡便に 把握できるようになっており,資料的な価値も 有している。

 以上,紹介したように,本書は化学・バイオ 分野の実務家にとって有用な判例集である。例 えば,前述のような職場での“判例研究会”や 社外での講演会の題材探しに活用できるであろ う。また,化学・バイオ分野の鑑定書や訴状作 成の際にも貴重な判例集に違いない。

(紹介者 会誌広報委員 Y.D)

新刊書紹介

著作権法概論

編著 斉藤 博 著
出版元 勁草書房 A5判 288p
発行年月日・価格 2014年12月15日発行 2,800円(税別)
 

 現行の著作権法は,昭和45年に明治32年法が  全面改正されたもので,その後数十回に及ぶ改 正を経て現在に至っている。その間,デジタル 技術の普及に伴い,著作権や実演等の複製や送 信をはじめ,その利用形態も多様化し,著作権 法の在り方をめぐり,さまざまな議論が行われ ている。

 著作物や実演等の利用技術の開発普及は人々 の文化生活を豊かにすることは確かだが,著作 物の創作者や実演家等の保護をも考えなければ ならず,著作物等の利用の確保と著作者や実演 家等の保護の間にほどよい利益調整が求められ る。そのような調整は,クラウドに見られるよ うな地球規模での著作物等の利用が一般化して きた今の時代,一国の立法によってすべてが達 成されるものではなく,諸国の関係者が他国の 法伝統,法文化をも考慮に入れつつ,相携えて 適切なビジネスモデルを構築しなければならな い段階にある。このような状況を視野に入れつ つ,本書は著作権法の普遍的な基軸を概観する よう心掛けて執筆されている。

 まずは,著作権とは何か,人間の考えや思い を表現した著作物そのものを考え,次いで,そ のような著作物を創り出す著作者の役割にも注 目している。デジタル媒体やネット送信,クラ ウドなど,著作物を利用する新しい技術が次々 と開発され普及する時代を迎え,著作権制度を 取り巻く状況が激しく変化する中にあっても, 著作物とは何か,著作者の役割は何かとの問い への答えは変わらない。目まぐるしい動きに翻 弄されて,著作物やそれを創り出すクリエータ ーを見失うことがないようにしなければならな いと解く。

 本書は第2章から著作権法の体系に沿って概 説されているが,第1章では法律要件に対応す る抽象的類型的な事実を軸に著作権法を概観す るため,おおまかに権利の救済,権利侵害の要 件事実について述べられている。これは著作権 法を体系的に把握しようとする読者だけではな く,著作権法をめぐる争いに強い関心を抱く読 者に対しても対応するよう考慮されたもので, 権利の侵害を軸に差止請求,損害賠償請求の要 件事実を探りつつ著作権法を把握するのに有用 なものである。更に,第2章以降の関連する箇 所が併記されているので,第1章が目次の機能 をも果たしうるよう構成されている。

 勿論,平成26年の法改正に関わる条文につい ても解説されており,これから著作権を学ぼう とする読者から改めて著作権法を概観しようと する読者まで幅広く対応出来る一冊である。

(紹介者 会誌広報委員 C.T)

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