新刊書紹介
新刊書紹介
種苗法の概要
| 編著 | 渋谷 達紀 著 |
|---|---|
| 出版元 | 経済産業調査会 Ａ５判 350ｐ |
| 発行年月日・価格 | 2014年７月31日発行 3,800円（税別） |
本書の構成は，種苗法の歴史から，保護対象， 登録要件，出願から権利化までの手続，拒絶理 由，育成者権，利用権，品種登録の取消制度， 種苗法特有の規定など，種苗法について網羅的 に解説している。
これまで著者は，「特許法の概要」，「著作権
法の概要」の他，商標法や不正競争防止法の解
説書を幅広く執筆されている。知的財産権法全
般についての広く深い知見を有する著者だから
こそ，種苗法について各法と比較して捉えなが
ら，種苗法の核心を本書で浮かびあがらせるこ
とに成功している。以下に一部内容を示す。
例えば，育成者権の登録要件では，特許法の 「新規性」に相当するものとして，種苗法は「未 譲渡性」を規定する。特許が公然実施，刊行物 記載によって「新規性」を喪失するのは，発明
は思想であるためで，育成者権が譲渡によって 特許法に対応する「新規性」を喪失するのは， 品種は現物であるためであると解説している。
一方，「進歩性」に相当するものは種苗法に はない。それは，新品種は交配によって育成さ れるが，交配は常套手段であって得られる品種 は額の汗の成果であっても「進歩性」を備えて
いないためであると解説している。
育成者権の登録要件の「品種の名称の適切性」
について，法は登録商標と同一／類似する出願
品種の種苗に係る名称は登録を受けられない旨
を規定している（４条１項２号，３号）。これ
は登録商標と同一／類似する名称を付与した出
願品種の名称の登録を許すと，登録品種の種苗
を業として譲渡する者に課されている名称使用
義務の履行（22条）が商標権侵害によって妨げ
られるためであると解説している。
産業財産権法間では重複する規定も多いが， 異なる規定も存在する。相違する規定について はその産業財産権ならではの背景が存在する。 その背景を押さえることがその産業財産権法の
深い理解につながる。品種登録の実務担当者に は実務の根拠となる種苗法の背景に触れること ができる読み応えのある本である。また知的財 産権法全般についての理解を深めるために読む
本としても挑戦する価値のある一冊である。
（紹介者 会誌広報委員 Ｙ．Ｍ）
新刊書紹介
法工学入門 −安全・安心な社会のために 法律と技術をつなぐ−
| 編著 | 日本機械学会 編 |
|---|---|
| 出版元 | 丸善出版 Ａ５判 208ｐ |
| 発行年月日・価格 | 2014年10月30日発行 3,400円（税別） |
本書は，第�吃堯柄輜澄砲搬茘局堯奮届澄砲� ら成るが，特に第�局瑤脇票圓亮駄海砲眥招襪� るヒントが多く含まれているので，ご一読をお 薦めする。
この第�局瑤錬馨蓮腺犠呂吠�けられており， ３章は「技術の安全・安心と法工学」として， 技術に関する規制の手法と事故・災害の法的責 任について述べられている。まず，規制には事 前規制と事後規制がある中で，米国は前者が強 いのに対し，日本は後者が強いことが説明され ている。まだ記憶にも新しい事例紹介からは， 事業者が技術の安全性や欠陥を疎かにすると厳 しく責任追及されること，加えて法的措置以外 の多大な社会的ダメージを受けることがわか る。同様の事故を減らすべく，技術の失敗を隠 蔽せず，将来の規格づくりに活かせる取り組み が必要であるとの提唱は尤もである。また，個 人，事業者，規制権限のある行政機関の間での 事故責任の分配の考え方も紹介されており参考 となる。
４章は「技術の進歩と法工学」として，知的 財産制度や産学連携の他に標準化も説明されて いる。特に国際標準が重要視される要因となっ た２つの協定と，それに伴う日本の独自技術へ の影響は，事例を交えた説明でわかりやすい。 また，新技術とリスクについてロボット倫理が 挙げられ，新技術と自己決定権について手術用 ロボットの事例が紹介されており，ガイドライ ン作成とそれを有効に機能させることの難しさ が伝わる内容となっている。単純に技術の進歩 だけでは普及することができないジレンマがあ ることがわかる。
５章は「裁判と法工学」として，事実認定に 用いられる工学鑑定について，証言と鑑定の差， 公的鑑定と私的鑑定の違いが説明されており， 公的鑑定が裁判に与える影響の大きさがわか る。ところが，裁判官の判断の助けとなるべき 専門家の公的鑑定が負の作用をもたらしている 事例が存在する。著者は，工学鑑定の信頼性確 保のための具体策の一例として，学協会による 鑑定作成者に対する倫理規定の設立，鑑定書へ の意見照会，学協会による鑑定作成者と鑑定内 容のウェブ公開を提唱している。工学鑑定は知 財裁判でも用いられるが，この意見には大いに 賛同できるのではないだろうか。
（紹介者 会誌広報委員 Ｋ Ｏ）
