新刊書紹介

新刊書紹介

なぜ,日本の知財は儲からない

編著 ヘンリー 幸田 著
出版元 レクシスネクシス・ジャパン 四六判 280p
発行年月日・価格 2013年11月29日発行 2,000円(税別)
 「米国トップ500社における企業資産の内容を分析すれば,平均80%以上が無体財産から構成 される。マイクロ
ソフト,アップル,グーグル, アマゾン等最先端技術をリードする企業においては,なんと90%以上が無体財産で
ある」!

 上記は本書の第9章(理想の知財戦略)からの抜粋である。第9章では,現在成功している 米国の企業,すなわち,マイクロソフト,イン テル,3M,テキサスインスツルメンツ(TI) の知財活用の成功事例を解説している。すなわち,
ビル・ゲイツに引き抜かれた,IBMのパテント・ポートフォリオ(PPF)戦略(多数の関 連特許を束として活用すること)を築き上げた マーシャル・フェルプスは,マイクロソフトで どのようなPPF戦略をとり,成功したのか,インテルがMPU
事業で世界市場を支配したこと に貢献したオープン・クローズ戦略とはどのようなものか,3Mのローテク製品に関する長期高利益特許戦略とは,さらに,TIのシステム特許による高利益特許戦略とはどのようなものか,について,分かり易く解説している。

  一方で,なぜ日本の知財は米国ほど儲かっていないのか。本書では,客観的な事実,すなわち,訴訟件数,特許権者の勝訴率,賠償額等をもって日米を比較し,多くの示唆に富む指摘をしている。例えば,特許権侵害の損害賠償額の相違では,日本と米国においては,100倍近い差がある。市場規模の差(約3倍)を勘案しても,30倍以上の開きがあるのは異常である。この原因の一つは,制度設計に起因すると指摘する。日本の特許法は,権利者の逸失利益,侵害者の得た利益,実施料相当額といった,損害額の立証の困難性に鑑みた具体的算定方式が定められている。これに対して米国特許法は,侵害に対して補償するのに十分でなければならないこと,適正なロイヤルティに利子
および経費を加えた額を下回ってはならないこと,を定めるのみである。判例法主義をとる米国ならではのシンプルな規定であるが,ここに,プロパテント政策の浸透に伴い知財の世界に参入してきた 経済学者,会計士の主張する理論が陪審員に受 け入れられた結果,賠償額が跳ね上がった。彼らがどのような主張をしたのかについては,本書で確認して頂きたい。

  本書は,米国企業の特許活用の成功事例を紹介するにとどまらない。日米の特許法の変遷や, 米国の国家戦略の一つとしての特許政策についても解説している。また,世界を動かした特許 の歴史や,知財制度の起源についての説明なども,非常に興味深い内容である。本書は,世界史・世界経済の潮流を俯瞰しつつ,経済状況・ 各国の戦略を踏まえ,将来を見据えた,今後日本企業が,また,国家としての日本が進むべき 道を示唆するものである。  

(紹介者 会誌広報委員 KS)

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中国特許法と実務
〜中国特許出願,審査,審判から特許民事訴訟まで 改正中国民事訴訟法対応〜

編著 河野 英仁 著
出版元 経済産業調査会 A5判 670p
発行年月日・価格 2014年3月26日発行 6,000円(税別)
 著者は,中国での留学経験があり,中国の主要判例の解説書,第3次改正専利法や第3次改正商標法の解説書なども執筆している,中国の知的財産権法に明るい日本弁理士である。
  本書は,副題にあるように,中国での実務に必要とされる手続と制度内容についてわかり易 く説明されている。
例えば,手続と制度内容が日本と同じであるか異なるかが紹介する制度ごとに明示されており,多くのフローチャートや図表も添えられているので,実務者にとって理 解が早い参考書となるだろう。また,脚注の説 明が全て該当ページの下にあるので参照し易い 体裁となっている。
 ご存知のように,中国専利法は「発明」,「実 用新型」及び「外観設計」を保護対象としているので,本書もこれらの手続と制度内容が説明 されている。また,中国専利法は,1985年の施行から1993年,2001年,2009年と3回の
改正が行われているが,本書では最近の改正内容も詳 しく紹介されている。例えば,第3回改正で整 理された新規性の世界公知基準の拡大(22条) や重複出願(発明・実用)の取扱い(9条,実 施細則41条)については,改正趣旨からわかり 易く説明されているし(第6章,第10章),新たに導入された現有技術の抗弁(62条)につい ては,判例を用いた詳しい説明だけでなく特許権者側の防止策まで紹介されている。本年4月 に第4回改正案が公布されているが,本書で中 国専利法の第3回改正までの流れを把握しておけば第4回改正を理解する上でも大いに役に立つことは間違いないだろう。
 また,中国特許民事訴訟(22章)は,2012年8月31日に大幅な改正がされた中国民事訴訟法に合わせて,条文,司法解釈,判例を示しながら詳しい解説がなされており大変充実している。特に損害賠償請求の説明は,実際の
事件での賠償額など具体的な数値を複数交えてあるのでイメージし易い構成となっている。中国では 特許権侵害に対する刑事的救済が存在しないので,この部分は実務上でも参考となるのではな いだろうか。
 本書は,中国専利法での手続と制度内容を網 羅的に把握できるので実務担当者にとっては必携の書である。欲を言えば専利法の条文や実施 細則,審査指南の番号からの索引があると良か ったが,手続と制度内容の説明のみならず最近の事例も沢山含まれているので情報量が非常に多い。是非とも手元に置いておきたい1冊である。

(紹介者 会誌広報委員 K.O)

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