新刊書紹介

新刊書紹介

新・商標法概説【第2版】

編著 小野 昌延,三山 峻司 著
出版元 青林書院 A5判 640p
発行年月日・価格 2013年3月15日発行 6,400円(税別)
 本書は,商標法の全てが網羅されており,商 標の知識を体系的に習得することができる1冊 である。2009年に発行された「新・商標法概説」 (第1刷)から,法律の改正に即し改訂を施し, 裁判例や重要審決が追加されている。

 本書の主な概要を説明すると,第1編では, 「商標法の概念」や「商標法の体系的地位」が 説明されている。 第2編では,実態的な商標法として,「商標 権の成立」「商標権の主体」「商標権の効力」,「商 標権の処分(移転)」「商標権の存続期間と消滅」 について説明されている。 第3編では,手続的な商標法として,「商標 登録出願」「審査」「審判」「訴訟」について説 明されている。

 紹介者が本書を手にし,最近の実務で活用し た箇所を紹介する。
  第2編での「商標権の成立」の4条1項15号 の解説では,まず,レールデュタン事件,ポロ 事件,ガールズウォーカー事件,VAN事件等 の重要裁判例を用いて,規定の趣旨や出所の混 同の意義が丁寧に分かりやすく説明されてい る。次に,審査基準に沿って登録実務が詳細に 説明されている。ここでは,具体例として,15 号関連の裁判例を20件も引用されていて,1件 毎に簡潔な解説も付されている( 例: 「SUBARIST」「スバリスト」の上下二段横書 きの商標と「SUBARU」あるいは「スバル」(知 財高判平成24年6月6日判時2157号98頁))。今 回の改訂により最近の裁判例も多く追加されて いて,最新情報を実務に反映させることができ 大いに役立った。
 第2編の「商標権の効力」の商標機能阻害行 為の解説では,差止・損害賠償請求が認められ るためには,商標が単に形式的に商品等に使用 されているだけでは足りず,自他商品識別機構 を果す態様で使用されていることを要する旨 が,ここでも15件程の裁判例を基に説明されて いる。(例:ポンプの規格(型式)を示すもの, すなわち部品の用途を示す使用としての「型式 SVA-200」等の表示は商標としての使用にあた るとされた(大阪地判平成17年7月25日判時 1926号130頁))。自社商標の使用が商標的使用 なのか,あるいは型番としての使用なのかを判 断するのに非常に役に立った。
 本書では,30ページに渡る詳細な目次と判例 索引および事項索引の2種類の索引が設けられ ている。そのため,簡単かつ迅速に必要な情報 にたどり着くことができ,とても親切である。

 以上のとおり,本書は,商標実務者は勿論の こと,商標の初学者や弁理士資格取得を目指す 受験生にもオススメの一冊である。

   

(紹介者 会誌広報委員 R.N.)

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特許権・進歩性判断基準の体系と判例理論

編著 永野 周志 著
出版元 経済産業調査会 A5判 430p
発行年月日・価格 2013年5月27日発行 4,300円(税別)
 特許の出願・権利化業務に携わる実務家にと って「進歩性」という特許要件を満足するかど うか検討することは,永遠のテーマであるとい っても過言ではない。なぜなら,特許法29条2 項において「進歩性」は,当業者が容易に発明 をすることができたか否か,と規定しており, 「容易」という幅のある概念について判断を求 められていることが,権利化に際し極めて深刻 な問題を引き起こしているからである。

 各国特許庁は,「進歩性」の判断基準を明確 にするため,過去の判例に基づいてガイドライ ンを公表している。しかし,そこに記載されて いるいくつかの判断事由,例えば,「阻害要因」, 「設計事項」や「技術分野の関連性」といった 事由はガイドラインの記載のみからでは進歩性 判断に十分に対処できなくなっている。

  審査基準と判例との乖離を決定づけたのが, 「回路用接続部材事件」(知財高判平成21年1月 28日・平成20年(行ケ)第10096号審決取消請求 事件)である。この事件に代表される近年の判 決の前提となる考え方は,「進歩性判断は検証 可能なものでなければならず,「容易に想到す ることができる」ことを認定できる客観的証拠 がなければ,進歩性を否定することはできない」 というものである。

 我々審査実務に携わる者にとって,近年の判 例を十分に理解し,実践で活用していくことが 非常に重要になっている。これらの判例に基づ いて,「客観的証拠」の有無について論理的に 主張していくことで,権利化にもっていくこと ができる。日本の審査官による拒絶理由は,米 国における拒絶理由のように構成要件の当ては めが十分なされていないものが散見される。こ のような拒絶理由に対して,「客観的証拠」に基 づいて論理的に組み合わせができない旨の主張 をすることで特許査定となる確率は向上する。
 本書では,近年の判例を詳しく紐解くことで, 進歩性判断をどのようにしたらいいのか,を深 く研究することができる内容になっている。

 もう一度述べるが,日本の審査実務に携わる 者にとって,近年の進歩性判断を扱った判例を 十分理解せずに拒絶理由通知に対するのは,幕 末のころ鉄砲に対して刀で立ち向かっていった 武士に等しいことである。近年の判例を学ばず して,進歩性拒絶には対応できない。是非,本 書を通して進歩性判断について学んでいただ き,実務に役立てていただきたい。

(紹介者 会誌広報委員 Y.O)

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