新刊書紹介

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営業秘密保護のための競業避止義務の締結の方法

編著 経済産業省経済産業政策局知的財産政策室 編
出版元 経済産業調査会 A5判 690p
発行年月日・価格 2013年5月8日発行 7,000円(税別)
 企業活動のグローバル化が進展し,貴重な技術情報などが元従業員等を通じて海外の企業に 漏洩するリスクが増大している。本書は,退職者等による人材を通じた営業秘密の流出を防ぐ対策の一つである競業避止義務の有効性や営業秘密を不正開示した違反者に対する処分として考えられる退職金減額の可能性等について,過去の裁判例や有識者の議論等から分析したものである。

 本書は,本編,資料編機せ駑訴圻供さ擇喨 冊1〜3から構成されている。
本編では,営業秘密の管理実態に関するアン ケート結果から競業営業避止義務契約に係る実態が述べられている。続いて,競業避止義務契 約が有効であると判断される基準について,企業側の守るべき利益,従業員の地位等,6つの 観点から判例に基づいてまとめられている。また,競業避止義務契約を締結することによって期待される効果,及び退職金や企業年金の支給制限の可能性について,過去の裁判例から分析されている。

 資料編気蓮ご覿肇劵▲螢鵐按敢嵯覯未任△蝓 営業秘密の管理実態,秘密保持誓約書,技術流出実態とその対応,及び人の移動や引き抜きの実態に関して,製造業21社,非製造業9社に対して行ったヒアリング調査結果が整理・分析されている。会社規模のデータがないものの,他社の実情を把握するのに役立つと思われる。

 資料編兇枠塾秉犬任△蝓ざザ犯鮖澆亡悗垢詒塾磴纏められている。また,主要な判例については判決文が掲載されており,リーディングケースや近時の判例の傾向が俯瞰できるようになっている。
 最後の別冊1〜3は,1万社に対して行った営業秘密の管理実態及び営業秘密の流出実態の調査について回答のあった3,011社の調査結果が掲載されている。単純集計結果と詳細結果とに分かれており,詳細結果においては,複数のアンケート結果を組み合わせた各種分析が行わ れている。例えば,「営業秘密の取扱いと運用状況」「営業秘密管理の各種取組み」「従業員規模」の各アンケート結果から「営業秘密管理に関する各種取組み」等と「従業員数」の関係等を分析するというようなより深い分析が試みら れている。

 営業秘密の管理実態に関するアンケートの結果によれば,就業規則とは別に従業員と個別の機密保持契約を締結している企業の割合は55.5 %となっているのに対して競業避止義務特約を 締結している企業の割合は14.3%に留まっているそうである。
 本書は,これから競業避止義務に関する契約の採用を考えている企業は勿論のこと,既に類する契約を採用している企業にとっても内容を 見直す際に頼りになる一冊である。

(紹介者 会誌広報委員 H. M.)

新刊書紹介

特許法

編著 茶園 成樹 編
出版元 有斐閣 A5判 392p
発行年月日・価格 2013年4月10日発行 3,200円(税別)
 本書は,特許法,実用新案法,および特許協力条約等の概説が述べられている,いわゆる基 本書である。「はじめに」にあるように,これから特許法等について学ぶ方が理解しやすいように作成された「教科書」としての位置づけで ある。執筆者は複数からなり,主に大阪大学知的財産センター研究職員の精鋭の専門家で分担 され,茶園氏が編集されている。

 全般的には,諸説,重要な点がほとんど解説されており,この一冊の知識があれば初学者を 超え,ベテランの域である。本書の構成は,「第1章の特許制度の概要」から始まり,主体,手 続き,審判,訴訟関係と主に制度を切り口に網 羅的に各章がまとめられており,実用新案法, 関連条約も含め,全14章となる。また,付表に 「重要条文と判例一覧」があり,条文に関連する主要な判例(番号)がわかる表で,条文と判 例を勉強する際に貴重な資料であろう。

 それぞれの章では,制度等の要点を記した “POINT欄”,事例を紹介する“CASE欄”,用語の解説欄などを抜き出しで掲載するなど,見やすいレイアウトが工夫されている。文体は, 平易でわかりやすく,それでいて,あまりくど さもなく,簡潔でスッと頭に入る。事例は,事 案をX,Y等の記号を用いて簡略化することで論点を把握し易い。また,専門的な法律用語については,初学者のために,用語解説欄を別に設けてある。これは,文章中に解説を入れず,「読者がスムーズに読むのを妨げない」ためであり, 読み手側のための細かな配慮や工夫が随所にみ られる。

 読み進めるうちに気が付いたのだが,本書は, 条文が記載されていない。多くの特許法の解説 書では,条文について逐条的か,関連条文毎に 解説されてあり,条文が中心となっている。いきなりの条文からではなく,各制度の概説から始まることで,俯瞰的な制度の認知から,関連条文へと理解を移行できるので,初学者には理解しやすいアプローチではなかろうか。条文自体の記載がなくとも,解説と共に関連する条文番号は括弧書きで付記してあるため,条文を参照すれば,条文との関係をさらに理解を深めることはできるであろう。このような条文の参照 は初学者から中級者への次のステップである。 他,実務的に重要な要素も取り入れてある。条文と少し離れ,侵害論,消尽,均等論等,より実践的な知識を習得できる記載から実務の教科書とも言える。

 最後に,本書中の「審決取消訴訟制度は,憲法からの要請である」(P.187抜粋)など,ハッ とする一文も多々あった。初学の大切さを再認識する本である。

 

(紹介者 会誌広報委員 H.M.)

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