新刊書紹介

新刊書紹介

2012年版 化学・バイオ知財判例年鑑

編著 廣田 浩一 著
出版元 山の手総合研究所 A4判 450p
発行年月日・価格 2013年4月1日発行 10,800円(税別)
 本書は,2012年に判決がなされた日本の知財 関連判例のうち,「化学・バイオ」分野に関連 する計119件を纏めた判例集である。著者によ れば,2012年には全571件の知財関連判決が出 されており,本書が取り上げる化学・バイオ関 連分野の判決は,その約21%を占める。また, 一口に判例集と言っても,本書は従来の判例集 とは一線を画し,実務者が活用し易いように纏 め方に工夫がなされている。

 まず,本書は,「判例分析データ」,「判例リ スト」,「判例概説」の三部から構成されている。 第一部である「判例分析データ」では,技術分 野(化学,医薬,食品,バイオ,化粧品)別の 件数比のほか,裁判所別や知財高裁の裁判部(第 1部〜第4部)別の件数比,新規性・進歩性・ サポート要件の結論比率,知財高裁第1部〜第 4部の進歩性判断の結論比率など,多くの切り 口から分析されている。特に,各結論比率のデ ータからは,知財高裁が審決又は下級審の判断 を維持又は変更したケースがどれぐらい存在す るかが理解でき,近年の知財高裁の判断傾向を 掴むことができる。
 第二部の「判決リスト」は,収載された判決 の情報(判決日,事件番号,裁判所,裁判官, 当事者,発明の名称,争点,関連条文,分野な ど)をリスト化したものである。ここでは,判 決日順,裁判所(裁判部)別,事件種別,判決 の結論別,争点別,分野別にそれぞれ並べられ た6種類のリストが掲載されており,読者の目 的に応じて,参照したい判例や関連する判例を ピックアップするのに大変便利である。
 第三部の「判例概説」では,各判例を,「事 件の概要」,「判断」,「理由」,「実務的私見」か ら纏められている。従来の判例集とは異なり, 各判例について,実務上必要と思われるポイン トについて2ページ程度で簡潔に纏められてい るため,各事例の内容,争点,判断の要点が理 解しやすい。また,判例によっては「注目解釈 等」として,条文の法律解釈等で実務上特に重 要な論点についての解説もなされている。

 本書は一年分の判例集であるが,内容は多岐 にわたり,この一冊で化学・バイオ分野の特許 に関する主要論点を十分フォローできる。化 学・バイオ分野に関する知財実務は,他分野と 比較して独特なものがあり,それに特化した知 財関連書籍も多くない。そのような状況下,本 書のような判例集は大変貴重な一冊であり,化 学・バイオ分野の知財担当者の方々に是非読ん でいただきたい。

(紹介者 会誌広報委員 K.H.)

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知的財産法入門

編著 茶園 成樹 編
出版元 有斐閣 A5判 310p
発行年月日・価格 2013年4月5日発行 2,600円(税別)
 本書は,工業所有権法に限らない,知的財産 関係法全般についての入門書として編まれたも のである。「はしがき」には,大学の授業用, あるいは独学用として紹介されている。尚,同 編者により本書発行の5日後に「特許法入門」 が発行され,2012年に「意匠法入門」が編集さ れている。

 本書は,全15UNIT(章に相当)からなり, 各UNITは冒頭に「CASE」として身近な例題 が紹介され,その次に「POINT」で各UNITの 要点がまとめられている。そして,各UNITの 本文は節,小節で区切られている。本文の記載 自体は教科書的で硬い文体だが,本文の理解を 助けるために適宜,「CASE」の場合はどう考え, 結論すればよいかを例示しているため読みやす い。各UNITの最後に「CASE○の考え方」と して,「CASE○」で例示した問題の答え合わ せがなされ,最後に応用問題として,判例に基 づく応用的・発展的問題を事例形式で紹介して いる。
 小節レベルになると2〜4ページ程で区切り が付けられているので,まとまった時間が取れ なくともちょっと時間がある時に,切りの良い 所まで少しずつ読み進めることができる。本書 の分量が比較的短いこともあり,時間のない人 でもさほど苦痛なく読み進められると思われる。

 本書の特徴として,全15のUNITの内(UNIT 1はイントロダクション)の6UNITが特許法 なのはともかく,5UNITを著作権法に割いて いることが挙げられる。今後,コンテンツに関 する紛争が増え,また,ボーダーレス化するこ とが予想されるので,著作権重視の構成は適切 な配慮と言えよう。とはいえ,実務に当たって はより深い知識を要すると思われるので,詳し い内容を知りたい人は,この本を取っ掛かりに 専門書をあたることをお勧めする。
 反面,意匠法,商標法,不競法についてはそ れぞれ1UNITしか割かれていないので,概括 的な内容にとどまっている。実務に当たっては もう少し詳しい書物が必要であると思われる (前述の通り,編者は「意匠法入門」も編者と して出版している)。商標法についても,シリ ーズで入門書を出版することを期待したい。

 まとめると,本書は知財部門に配属された(新 卒・配転を問わない)新人知財部員にとって, 入門書としての価値が高い。メーカーの新人知 財部員にとっての価値も高いが,特に,コンテ ンツ産業の企業の新人知財部員にとって,比較 的短い分量で基礎的な知識が身に付くので,有 益な一冊である。よって,一読を勧めるもので ある。

(紹介者 会誌広報委員 N.I.)

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改訂4版 解説 特許法 −弁理士本試験合格を目指して−

編著 弁理士 江口 裕之 著
出版元 経済産業調査会 A5判 774p
発行年月日・価格 2013年3月26日発行 6,800円(税別)
 特許実務を行う上で,当然ながら特許法を正 しく理解することは不可欠である。しかし,数 多い特許法の専門書の中には難解なものも多 く,特許の実務家を目指す者,とりわけ理科系 出身者が容易に高いレベルまで特許法の理解を 深めることができる書籍は多くないと思う。
本書は,理科系出身者を含めた特許関連の実 務家を目指す者が,容易に特許法の内容及び実 務上の重要点を理解でき,さらに,弁理士受験 生が弁理士本試験レベルの知識を十分に習得で きるようにすることを目的として執筆された書 籍である。

 本書では,特許法を法目的及び手続の両面か ら捕らえ,また重要規定を理解しやすいように, 随所に図解が取り入れられている。この図解が 実にわかりやすい。さらに,重要判例及び実務 における話題も効果的に盛り込まれている。こ れらをあわせて,実務的観点から,特許法の理 解を可能にし,特許法全般について,かなり高 水準の知識までもが習得できるように配慮され ている。
 さらに今回の改訂では,平成23年法改正につ いて可能な限り平易かつ深いレベルの解説がさ れるとともに,審判手続における,「請求項ご との請求」や「審決確定の範囲」という新たな 概念についても詳述されている。
 全体に,かなり重厚な内容であり,一見,特 許法の初学者には読みこなせないように思われ るかもしれないが,各項目の導入部分の「学習 の指針/概略」を理解しながら読み進めること で,初学者の入門書としても十分活用できるよ うになっている。また,さらに深く読み込むこ とで,本書のターゲットである弁理士を目指す 方が,弁理士本試験合格レベルまでの特許法の 理解を高められることに加え,特に中堅実務家 の方にも実務上問題となる法律を理解,確認す るために,特許法の辞書代わりとして活用でき る一冊でもある。

 著者は,技術者を経て,権利取得業務・日米 侵害係争実務に携わられる傍ら,日本知的財産 協会の研修講師・弁理士受験指導と幅広くご活 躍されており,本誌の読者にも,その熱心な語 り口を通じて学ばれた方は多いこと思う。この 著者のご経験も,本書の随所に見事に生かされ ていると思う。

 今後も法改正に伴って,最新の話題を取り入 れながら版を重ねられることを切に願う。また, できることならば,本書と同じコンセプトの意 匠・商標法の解説書が発刊されることを願うば かりである。

(紹介者 会誌広報委員 T.M.)

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日米欧 重要 特許裁判例 ―明細書の記載要件から 侵害論・損害論まで―

編著 片山 英二,大月 雅博, 日野 真美,黒川 恵 著
出版元 エイバックズーム A5判 452p
発行年月日・価格 2013年5月23日発行 4,600円(税別)
 本書は,知財法曹,弁理士や企業の知財部員 から学生まで幅広い読者を対象に,特許法の主 要論点について,日本の重要裁判例45件,対応 する米国の裁判例28件と欧州(EPO,ドイツ, 英国)の裁判例3件の計76件を網羅的に,図解 入りで,かつコンパクトに解説した一冊である。 単に,裁判例を列挙したものではなく,読み手 のことを考えて解り易く解説され,かつ構成が 工夫されているので,読み易く理解しやすい。

○目次:
 実務的な課題ごとに日本の裁判例と欧米の裁 判例がまとめられている。事件名だけでなく, 2〜3行で的確に判示内容が記載されているの で,裁判例を探す際に大変便利である。
○序章:
 日米欧における特許訴訟手続の概要が解説さ れている。訴訟の際にはより詳細な手続きが必 要であるが,大まかに訴訟手続きを理解したり, 本書の各裁判例を読む場合には非常に役立つ内 容である。
○条文解説および制度概要:
 各章の始めに課題に関係する日米欧特許法の 条文に関する解説や制度概要に関する記載があ る。個々の裁判例を読む前の頭の整理に非常に 役立つ内容である。
○各裁判例:
 【事案の概要】,【発明及び特許の概要】,【判 旨】,【コメント】の順で記載されており,それ ぞれがコンパクトに書かれているが,内容が濃 く,理解しやすい。
 【事案の概要】で事案とその背景を理解し,【判 旨】で判決の要旨を理解し,【コメント】で判 決の位置づけを理解して今後の実務に活かすの が良いだろう。【発明及び特許の概要】は,事 案の理解にとても有効である。また,大きな論 点ごとに日米欧の判例がまとめられているの で,比較論的にも役立つ。
○コラム:
 「裁判所調査官に対してよくある質問」や「心 に残ったプレゼンテーション」など執筆者によ るコラムが15もあり,執筆者の経験や性格がで ていてとても面白い。例えば,「米国の判決引用」 では,米国の判決引用する場合には,点の打ち 方,スペースのあけ方から頁数の書き方まで判 決の引用方法のルールを細かく規定した本があ ることが紹介されている。お堅い内容の中にあ って楽しく読めるコーヒーブレークである。

 本書は,実務の様々な場面で仕事の精度や効 率を格段に高めてくれよう。巻頭の2012年度日 本知的財産協会 奥村理事長の「推薦のことば」 にもあるが,本書を自分の脳の一部にしてしま いたいと思わせるほど,知財法曹,弁理士や知 財部員にお勧めの書物である。実務家は,本書 に掲載された裁判例については理解しているこ とが求められるであろう。脳の一部にできない としても,一読した上で,いざとなれば,本書 にあたれるように,机上に常備しておきたい一 冊である。

(紹介者 会誌広報委員 K.M.)

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